うちの学校のコスプレ姫が俺の居場所を取り戻してくれたのだが!?

古都

第1話 入学式!?

 みなさん、「オタク」という人種をご存知だろうか。彼らは何らかの趣味をとてつもなく愛し、愛することを生き甲斐としている。なにか悪いことをしたわけでもないが他人に避けられる。これまた「オタク」の不思議な特性で、世の中には「オタク」=キモいという固定概念が未だに深く根付いている。数ある「オタク」の中で郡を抜いて嫌がられる「アニオタ」。俺はその一人である。


※※※


ついに、ついにだ!


 本日4月8日は私立畑高校入学式の日だ。俺は前述の通りアニオタであり、さらに中学ではオタク排除の雰囲気のせいで居場所がなかったのだ。要するにいじめられていた。だからこそ高校デビューを華やかに決めてやると固く心に誓った。畑高は全国一の頭のいい高校で同中のやつは誰もいない。むしろ、俺が中学校で初めての畑高合格者だったりする。


 畑高は全国一難しい高校なので、俺のように、脳内二次元畑な奴は他にいない。みんな脳筋ならぬ『脳学』脳まで学問で出来ている。しらんけど。


 ここまで誰に説明しているかわからない妄想をタラタラと続けてきたが、ただいま入学式真っ只中だ。つい十秒前に長い校長の挨拶が終わり、次に地域の有力者の挨拶が始まる。一体いつまで続くんだこの苦行は…


※※※


 在校生の先輩の校歌斉唱も終わり、残りの項目は入学生主席の話となんだかよくわからないことの2つになった。


「入学学力考査主席、春川優香」


「はい!」


 名前を呼ばれ、返事する声は凛としていて可愛らしくもあり、聞く人すべて男女問わず一瞬の間に魅了した。立ち上がる姿を見た者は目を離せなくなったことだろう。しかし、立ち上がった春川優香の右手にはエコバッグ?のような中に物がつまったものを持っていた。壇上に向かい始めるが、バッグを離す気配はない。謎が謎を呼ぶとはこのことか。


 春川優香がマイクの前に立つ。皆が静まり返ると、春川優香は姿を消した。正確には、隠れたようだが、誰もその行動を理解出来ず、困惑している。姿を隠して約十五秒後、そこには、春川優香ではなく、俺のよく知る、俺の大好きな二次元キャラクターが立っていた。


「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法使いにして、爆裂魔法を操る者!」


 濃い茶色の魔法使いの帽子に、眼帯、マントに赤い服。とても高レベルなコスプレだった。コミケでもここまでのコスプレイヤーはいないだろう。元ネタのわからない脳学どもは理解不能で頭の上に『?』が浮かんでいた。理解が追いつかないのは俺も同じで、動揺していた。だから、やらかしてしまったのだ。高校ではオタクは隠していこう。そう決めたのに。叫んだのだ。


「このすばじゃねえか!」


 と。


 畑高には特に決まった制服があるわけではないが、流石にコスプレはダメだろう。教師陣もあたふたしている。生徒たちにも俺の叫びでさらに動揺が走った。


…このすば?…なにそれ……あの服なに?…


 まあ、そうなるわ。脳学しかいないこの学校でコスプレをしても、俺以外なんの服装なのかわからず、ただの奇抜な格好をしているとしか認識出来ないからな。


「黒より黒く闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう。覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!

 踊れ踊れ踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり。万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ!これが人類最大の威力の攻撃手段、これこそが究極の攻撃魔法、みなのこれからの高校生活に、エクスプロージョン!」


 よくもまあこんなに長いセリフを覚えたもんだ。ほぼほぼアニメ版の詠唱じゃないか。最後に上手く締めも入れて。って、エクスプロージョンじゃ、高校生活破壊してるし!


 春川優香の役になりきった長台詞に加え、最後の持って行き方がうまかったこともあり、脳学共は意味は理解していないが、とにかく興奮し、盛り上がっていた。


※『このすば』は『この素晴らしい世界に祝福を!』  

の略称です。


※※※


 よくわからん項目も終わり、やっと入学式が終わった。これから下駄箱に向かう。畑高はこれまた変わっていて、入学式が終わってからクラス発表が下駄箱の近くにある掲示板に行われるのだ。


 歩くのが遅かった。もう掲示板には多くの人が群がっていてよく見えない。何人かの人をかき分け、半ば強引に先頭にたどり着くと自分の名前を探し始めた。


1-5

出席番号 名前

    ︙

    ︙

13     滝中 葉音


 あった。1年5組か。そう思い、その場を立ち去ろうとしたその時、1つの見覚え、聞き覚えのある名前を見つけた。


    ︙

28    春川 優香


 春川優香って、さっきのあの?ヤッター!!!!!

脳学しかいないと思っていたこの学校で、まさかのめぐめんのコスプレをするなんてオタクに違いない!容姿も学年一整っていると思うし、声まで可愛らしいときた。これは、オタク話で盛り上がれることが期待出来るぞ!


 俺は期待に胸を弾ませ教室までスキップで行った。よく考えたら俺、頭のおかしいやつじゃん!まあ、いいや。


 

 俺は理解していたはずだ。この中学3年間で、二次元で、オタクがしてはいけないことくらい。


※俺の名前は滝中葉音。今更感しかない。




 

 


   

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