第14話コンに抱かれる
しかし、今日は大変な1日だったなぁ……
夜になり、テントの中で俺は今日一日のことを振り返っていた。
なんで今夜は俺がテントを使っているかというと、
『トク兄は怪我人なんだ! 今夜はあたしが外で寝るから、トク兄がテントを使って!』
と、コンが言って来たからだった。
いくら大丈夫だと言っても、コンは譲らなかったので、それじゃあ遠慮なくということで……
アダマンタイトは手に入らなかったけど、代わりに白銀のハルバートが手に入ったから良しとするか。
まぁ……戦闘後に、騒ぎを収束させた礼ってことで、パルディオスくんから奪い取っただけなんだけど。
あいつ、また会った時、いちゃもんつけて来るんだろうな。
なんだか今日は酷く眠い……さっさと寝ちまうか。
そう思って目を閉じ、暫くたった頃のこと。
「ト、トク兄! まだ起きてるか……?」
「おう、起きてるぞ」
「は、入っても良い……?」
「どうぞ」
もそもそと音がしだし、ふわりとコンの匂いが漂ってくる。
なんだろう、この不思議な感覚……妙に胸が高鳴って仕方がない。
「な、なぁ……目開けてくれねぇか?」
言われた通り、そっと目を開けてみると、
「ど、どうしたんだ? そんな格好をして……?」
コンは装備を外し、布切れ一枚の胸当てと短いスパッツ姿で、俺の上へ覆い被さっていた。
「……あたしの身体、どう思う?」
「どうって……」
「巨大モンスターの牙を簡単にへし折ったりする、こんな筋肉ムキムキな女はどう?」
やや不安げなコンの声に胸が詰まった。
「良いと思うぞ、俺は。戦士としても恵まれていると思う」
「そっか……戦士としてか……」
「コン……?」
「女、としてはどう思う? こんなあたしをみてどう感じる?」
この問答……すっごく直近で同じことがあったような……
「綺麗な肉体美だと思う。俺は好きだ」
ほんの少しの期待と邪な気持ち、だけど殆どは正直な感想を口にする。
すると、コンは暗い中でもはっきりとわかるくらいに笑顔を浮かべた。
「そっか、ありがとう。トク兄にそう言ってもらえてすごく嬉しい……じゃ、じゃあ……」
「?」
「そんなあたしの身体もっと見たい!? てか、そのぉ……あ、あたしと……えっとぉ……!」
俺は言い淀む、愛らしいコンの頬を触れた。
指先で触れただけで、彼女の顔が強い熱を持っているとわかる。
「皆まで言うな。なんとなくお前が言いたいことは分かった」
「トク兄……」
「一つ聞きたい。俺なんかが本当に良いのか? 俺、ただのおっさんだぜ?」
「ただのおっさんなんかじゃないよ! トク兄は、ずっと、ずっと! 出会ってから今日まで、あたしの気持ちを掴んで離さない、唯一の男の人なんだよ!!」
「……」
「またこうして10年ぶりに再会して、ちっさい頃に抱いてた気持ちがまだ全然薄らいでいないって感じたんだ! それにトク兄だけだよ、こんな男みたいなあたしを、女の子扱いしてくれるの……」
きっと、コンはここまで体つきのことで色々と辛い目に遭って来たんだろう。
……なら、自信が持てるようにしてやるしかない。
しかし、そうした気持ちや、やる気は十分にあるのだが、一つ問題が……
「なぁ、コン、お前の気持ちは分かった。俺もお前なら喜んで……と言いたいところだが、問題がある」
「なに?」
「今日の俺、めっちゃ腰痛い。スチールスネークにぶっ飛ばされたから。だから、なんだ、この先は日を改めて……」
「そのことなら任せて! たぶんそうだろうなって思ってたから、その……あたしが頑張る……!」
ぐっと、腰の上へコンの尻が圧力をかけてきた。
ちょっと痛いが、それ以上に妙な興奮が掻き立てられる。
「ちゃんと何したら良いかは分かってるから安心して! それに……ここでお預けなんて、無理だよ……もう妄想の中のトク兄じゃ満足できないんだよぉ……」
「妄想って、コン、お前……」
「頼むよぉ……!」
コンは切なげに懇願の声を上げていた。
腰も切なげに震えている。
ここまで激しく求められてるんだから、断るなんて可哀そうだ。
「……わかった。それじゃあ、よろしく頼めるか?」
「ああ、任せて……はぁー……嬉しい、ようやくトク兄と本当に一つに……」
コンは唇を震わせながら、ちょこんと口づけを交わしてくる。
やっぱりまだ緊張とか、不安とかを抱いているんだろう。
腰以外は元気だから、それ以外だったら……
「コン」
「なに?」
「お前は自分が思っている以上に素敵な女性だからな。自信を持て!」
「ありがとう……これからはトク兄のその言葉を支えに頑張るよ!」
結局、その日の晩は早く寝るどころか、朝方まで及んでしまった。
ていうか、後半は腰の痛みはどこへいったのやら、の状態だったので、男の獣欲って本当に恐ろしいとしみじみ思う。
まぁ、このおかげで、朝に2人で眠って、起きたのが昼過ぎになってしまった。
当然、帰りは深夜になって……
「もう、2人とも! 帰りが遅くてすごく心配したんだよ!!」
「コン姉、トーさん、シンへのお土産はー?」
家で待っていたキュウにものすごく心配され、シンのお土産の件はすっかり忘れていた……
だから2人して、土下座で謝罪をしたのは、この旅のいいオチになったと思う。
そしてこの日を契機に、コンがよく俺の部屋へ忍び込んでくるようになってしまった。
「トク兄!」
「おわっ!? い、いきなり抱きつくな! 驚くじゃないか!」
「悪い悪い! で、さぁ……しよ?」
「いきなりだな」
「そ、いきなり! こないだまでは1人で処理してたけど、今は本物のトク兄がいるしね!」
唐突な赤裸々告白に、嬉しいやら恥ずかしいやら。
てか、ずっとそんなに俺のことを……
「キュウ姉もシンも出掛けてるし、今がチャンス!」
「帰ってきたらどうするんだよ?」
「大丈夫! さくっと終わらせる!」
「さくっ、お前なぁ……」
なんか、うん……若い女の子ってすっごく元気だ。
特に体力のあるコンだから尚更なんだろう。
「なぁ、なぁ、トク兄ー!」
「わかった、わかった。サクッとだぞ」
「はいよ! ちょっとこの間、新しい体位みつけたから、試してみたいんだ!」
なんかコンにとって、そういうことってスポーツみたいな感覚なのかもしれない。
……にしても、キュウに続いて、まさかコンともだなんて……
なんかすげぇことっていうか、こんなことあるのか? というのが正直な感想だった。
でもこれでコンが自分の体に自信と持ってくれたようだし、良しとするかな。
では、誰かが帰ってくる前にいざ!……と、気合を入れた直後、玄関戸がドンドン叩かれた。
すっげぇタイミング悪い。宅配便とか頼んだっけ?
「おはようございます、トクザトレーナー!」
玄関戸を開けると、にっこり笑顔の月間冒険者野郎どもの記者ササフィさんの姿があった。
「お、おはよう、ササフィさん……? なんで俺の家を……?」
「冒険者ギルドにて、受付嬢のローゼンさんから伺いました!」
……あいつ、また余計なことを……てか、公共施設の職員がホイホイ個人情報教えるなよ……
「トク兄、その人誰?」
後ろからやや不満げなコンの声が聞こえてくる。
「わぁお! 今日は勇猛果敢な最強の戦士のコン・サクさんもご一緒だったんですね!」
「さ、最強!? あたしが!?」
「ええ! アダマンタイトを大量に摂取し強さを増したスチールスネークを、トクザトレーナーのご指導の元、軽く一蹴した、今期待の戦士職の冒険者コン・サクさん! グゥレイトです!」
「あ、ありがとうございます? ところでアンタは……?」
「紹介が遅れ、大変失礼を致しました! 私、月間冒険者野郎どもの記者をやっておりますササフィと申します! 現在、来月の特集記事執筆のため、日々トクザトレーナーの動向を追っております!」
「そうなんだ! なら早く言ってくれよ!」
さっきまでの怖い声音はどこへいったのやら。
でも、こういうコンの裏表がないところは、大好きだ。
「ラッキーです! グゥレイトですっ! 是非、お二人が協力して2匹のスチールスネークを討伐した際のご活躍をお聞かせください! 是非! 是非! お願いいたします!」
こうして俺とコンはササフィさんの取材を受けることにした。
もしかしてスチールスネークの件もローゼンが教えたんだろうな。
全くあの女は……だけど、こうすることでコン達が少しでも有名になって、たくさん稼げて、借金返済ができれば御の字と思う俺なのだった。
……
……
……
【今最も強く、美しい戦士職! コン・サク、スチールスネークを撃退する!】
『あたしなんかのことを美しいだなんて書いてくれてありがとうございます。トクザトレーナーが支えてくれたから、今回のような成果が出せました。これからも姉や妹、そしてトクザトレーナーと心を一つにして頑張ります』(コン・サク談)
『コン・サクはとても強く、そしていい子です。キュウ・サクと共にご指名お待ちしております』(専属冒険者トレーナートクザ談)
――以上、日刊冒険者たち♪より一部抜粋――
……この記事のお陰で、多くの女性戦士職は励まされた。
そしてコン・サクのようになりたいと思うようになったらしい。
【グラーフ鉱山の惨状。また勇者Pか……?】
風光明媚なグラーフ鉱山が惨劇に見舞われた。
山肌は砕かれ、木々は焼けこげ、更にアダマンタイトの鉱脈の一部が枯渇してしまっている。
何故、このようなことが起こったのか。
そこには勇者Pの存在があるらしい。地元住民の証言によると……
――以上、冒険者春秋より一部抜粋――
……勇者Pへの非難は日に日に高まりつつあった。
*次はシンちゃんの出番です。
だんだんと読んでいただけるようになってきて感謝です。
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