第12話コンと2泊3日
「だりゃぁぁぁ!!」
コンは気合の篭った声を上げながら、棍棒を振り落とす。
ズドン! と、森の静寂を、大きな破砕音が破り、目の前の大岩が粉々に砕け散る。
この様子だと【岩石割り】の技スキルを習得するのは目前だろう。
だけど、大きな問題が……
「あちゃー……また、キュウ姉に怒られる……」
コンは真っ二つに折れた棍棒を見て、そう零す。
技スキル獲得を目指して、コンに付き合うようになってからこれで一週間。
その間に破壊した棍棒の数は……
「またぁ!? これで何本目!?」
「えっと……20本目……」
家に帰って早々、コンはキュウから大目玉を喰らっていた。
「お金ないのわかってるよね!? そんなポンポン、武器買ってたら幾らお金が有ったって足りないんだよ!?」
「わ、わかってるよぉ……」
「先生からも、もう少しコンへ武器というか、ものは大事に扱うよう言ってもらえません!?」
「お、おう。頑張る」
何故か、俺も怒られた。
……でも、幾ら技スキル獲得のためとはいえ、こりゃ少々まずいな。
色々考えないと……
キュウのお小言を乗り越えて、俺は早速自室で書物に当たった。
すると、今のコンの状況を変えるには、良さそうはものが見つかった。
そんな中、扉が控えめにノックされた。
「ト、トク兄。入ってっも良いか?」
「どうぞ」
扉の向こうから、げっそりやつれたコンが入ってくる。
そりゃ、毎日お小言ばっか言われちゃ、げんなりしちゃうわな。
「今日もお疲れだな」
「うん……悪い、ほんと。トク兄まで巻き込んで……姉貴、借金ができてからお金のことはすっごく煩くてさぁ……」
まぁ、額が額だし、キュウが怒るのは仕方ないんだろう。
「俺のことは気にすんな。俺だって、コンの上達が嬉しくて、バンバン武器壊させてたからさ!」
「トク兄……」
「それよりも、良い方法を思いついた! これでもうキュウに怒られることはないと思うぞ!」
「ほんと!?」
「ああ! 代わりに2泊3日で付き合ってもらうからな! って、わけで早速旅支度だ!」
……と、いう訳で俺とコンは翌日からアダマンタイト鉱石を手に入れるべく、2泊3日ででかけることにした。
アダマンタイト製の武器は強くて丈夫だが、既製品では非常に値段が高い。
しかし自分でアダマンタイトを手に入れ、加工屋へ持ってゆけば安く済ませることができる。
まさに今のコンにはうってつけなのだ。
「気をつけてね2人とも!」
「気をつけるー! おみやげ忘れずに!」
キュウとシンの見送りを受けて、俺とコンは旅立っでゆく……のだったが、すぐにキュウが服の裾を摘んできた。
「あ、あの先生……」
「わかってる。コンのことは任せな」
「よろしくお願いします。あと、先生もくれぐれも気をつけてくださいね?」
「あ、ああ、もちろん!」
キュウの心配する気持ちが痛いほど伝わってくる。
この子を泣かせないためにも、気をつけないとな。
アダマンタイトが埋蔵されているグラーフ鉱山へは丸一日かかる。
それでも少しはショートカットしたいと思い、森へと入っていった。
「なんかこうしていると懐かしいなぁー!」
「だな。こうして前はお前と森に入って、いろんな食材を採取したよな」
「うんうん! あ、あれ!! シモフリトンガリタケじゃん!!」
コンは嬉しそうに真っ白で、怪しいキノコに飛びついた。
見た目がアレだが、これは結構な珍味だ。
と、森へ入ったのはショートカットの意味もあるけど、別の意味もある。
食材を探すために入った訳じゃない。
俺はずっと背中に背負っていた、長い包みを解いた。
そしてコンへ、先を尖らせた木の棒へ、削った石を括り付けた武器を投げ渡す。
「これは?」
「練習用に俺が作ったハルバート。アダマンタイトでそいつを作ろうと考えてる」
「斧? 槍? どっちなんだ、これ?」
「どれもだ。穂先で突き、刃では相手を断ち切る。扱いは難しいが、多様な武器だ。この機会にコンには叩きる以外の技術も習得してもらいたくて、夜なべして作ったんだぜ?」
「そうなんだ……これをあたしのために、トク兄が……ありがとう! まじで!」
コンは簡易ハルバートを、まるで大事なもののように抱き抱えて笑った。
良い顔している。徹夜して作った甲斐があったな。
「でもあくまで木の棒と石と縄で作ったもんだ。壊れやすいから丁寧に扱えよ。むしろ、壊さないように扱って、力の出し加減を体得してもらう意味もある」
「わかった! 頑張るよ! トク兄からのプレゼントなんだから、絶対に壊すもんか!」
「その意気だ! そいじゃ……早速、実践!」
「えっ?」
俺はサッと身を翻した。
ずっと背後に気配を感じていたゴブリンが飛び出してくる。
「まずは突きだ、コン!」
「お、おう! だりゃぁぁぁ!!」
コンはすぐさま立ち上がると、勢いよくハルバートを突き出した。
「ぐぎゃ!!」
鋭い先端がゴブリンの腹を突き刺し、一発で絶命させる。
さすがは筋力評価の高いコンだ。突きだけでも、相当な威力があるなこりゃ。
「確かに叩き切るよりも楽だね!」
「ああ、そうさ。この武器なら叩き切る以外の選択肢もできて、色々と力の逃し先が体得できると思ってな。ほら、次!」
続々と木々の向こうから巨大サソリやら、ゴブリンやらが湧いて出てくる。
「刃で薙ぎ払う!」
「おりゃぁぁぁ!!」
コンは長柄の斧を振り回し、盛大に敵を薙ぎ倒す。
「トドメ! 斧のように叩き落とす」
「どおりやぁぁぁ!!」
石の刃が硬い甲羅に覆われた巨大サソリを叩き潰した。
「これがハルバートの基本的に扱い方だ! さぁ、壊さないよう気をつけながら戦うんだ!」
「おーう!」
コンは手にしたばかりの簡易ハルバートを自在に扱って、敵を倒してゆく。
多分、コンの中には武家であるサク家の血が最も色濃く反映されているのだろう。
この先コンがどんな猛者になってゆくか、楽しみで仕方のない俺だった。
⚫️⚫️⚫️
ショートカットをしたおかげで、アダマンタイト鉱石の眠る山まであと少しのところまで来た。
明日はきつい山登りもあるし帰りには武器の錬成だってある。
そのため、今夜は早めにキャンプを張り、休むことにした。
「あ、あのよ、トク兄、本当にあたしがテント使って良いのか?」
「もちろん。まさか俺が使う訳にはいかないし、第一お前を野ざらしなんかで寝かせられるか。女の子なんだから」
「そっか、ありがとう。あたしなんかを女の子扱いしてくれて……」
突然、コンは暗い表情をしだす。
そういうやコンのやつ、前にも似たようなこと言ってたな。
「なぁ、コン。どうしてそんなに自分が女の子かどうか気にしてんだ?」
「……あたしさ、10年前にトク兄とお別れしてから、どんどん背が大きくなってったわけよ。それに体動かすの好きだし、色々やってたら、いつの間にかすっげぇ筋肉付いちまって……おかげでこの様さ!」
コンは二の腕を縮めて、綺麗な力こぶを作って見せた。
同年代の女の子よりは逞しい体つきをしているとは思う。
「みんなこんなあたしが女の子っぽい格好すると笑うんだ。姉貴やシンは違うけど……社交界でドレスを着ても、パツンパッツンでみっともなかったし……」
「なるほどな。でも、俺はコンみたいに健康的な体付き、すっごく好きだぞ。それに冒険者トレーナーとしても、コンの体は魅力的だし、将来有望だと思うし」
「そ、そうか?」
「そうさ! もし今度、お前の体つきのことをとやかく言う奴が居たら俺に言え。ぶん殴ってやる!」
我ながら、少し大袈裟で物騒な物言いだとは思ったが……コンは嬉しそうに笑ってくれた。
「ありがとう。じゃあ、そんときはカッコよくよろしく頼むな?」
「おう! 任せな」
「あ、そうだ! 焼いたクッキー持ってきてんだった! 食べる?」
「貰う貰う! コンのクッキーか……懐かしいなぁ」
「そうだな。あたしが初めてトク兄に食べさせたのがクッキーだったもんなぁ……」
暫し、コンとは昔話に花を咲かせて、就寝へと入ってゆく。
ほんと、この子も立派で、良い娘に育ったよ、本当に……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます