第10話いざ、決勝戦!
「……」
厳かな雰囲気の中、キュウとパルディオスを含む5人の出場者が現れた。
なにパルディオスくん、ちらちらキュウのことをみてやがんだ。
気持ち悪い。
だけどキュウはそんな視線などものともせず、凛然とした佇まいで、自分の射撃位置に立つ。
決勝戦は散々キュウと練習をし続けた遠的だった。
使用できる矢は5本。
これをいかに多く、的の真ん中に的中させるか、である。
「姉貴、しっかり。あんな唐変木に負けんじゃねぇぞ」
「キュウ姉、今夜はカニパーティー!」
観客席のコンとシンも、小声でキュウヘ声援を送っている。
……にしても、パルディオス以外になんかムカムカっとするこの感覚、はなんだろう?
そんなことを考えている間に、5人の出場者は射的位置に立った。
ここからは順番に関係なく、準備ができた者から撃ち始める。
第1射目は5人ほぼ同時。パァンと、軽快な的中音が響き渡った。
全員的中だった。その中で、キュウとパルディオスだけが的の中心を射抜いていた。
「にひ……!」
パルディオスは隣のキュウヘ、気持ち悪いニタニタ笑顔を送る。
「……!」
しかし、彼女は気にすることなく第二射の準備に入っている。
そんな態度がムカついたのか、パルディオスもまた弓へ矢を番始めた。
第2射――今度もキュウとバルディオスは真ん中へ命中。
続けて第3射――これもまたキュウとパルディオスのみ、中心に的中。
この時点で、キュウとパルディオスの一騎打ちの構図が出来上がった。
第4射目。
さすがのパルディオスも真剣な表情で弓をひく。
キュウは相変わらず、平常心を保ったまま、ゆっくりを弦を弾いてゆく。
しかし悪癖である、片目を瞑る動作をしてしまっていた。
「キュウ、それはダメっていっただろうが……!」
小声なので俺の声が届くことはない。
それでも届いて欲しいと強く願う。
矢が的へ向かって放たれる。
すると、的中音と共に、甲高い音が入り混じってきた。
「よっしゃあ……!」
「ッ!?」
パルディオスくんの矢は的を射抜き、キュウの矢は的の枠に当たって吹っ飛んだ。
これは痛いミスだった。
仮に次、キュウが当てたとしても、パルディオスくんが外さなければ、優勝は勝ち取れない。
それがわかっているのか、パルディオスはいやらしい笑みを浮かべてた。
対してキュウは凛然とはしているものの、僅かに奥歯を噛み締めている。
もうこうなったら、パルディオスくんが次外すように呪いでもかけるか……?
そう思った時のこと。
ずっと感じていたモヤモヤが、強まった。
キュウも気が付いたのか、素早く体を捻り出す。
「ひ、ひゃぁ!」
突然、キュウに矢を向けられたパルディオスくんは怯んで尻餅をつく。
一瞬で会場の静寂が破られ、観衆は騒然としだす。
「い、いくら自分が負けそうだからって、そんなの!」
「動かないでっ!」
しかしキュウはそんな雰囲気に流されず、パルディオスくんへ向かって矢を放った。
「ぐぎゃっ!」
キュウの矢は、出場選手に化けていた影の魔物――シャドウサーバント――を射抜いて、消滅させた。
それを皮切りに、会場で観衆に化けていた魔物が次々と正体を表す。
「魔物です! 戦える人は一緒に! 無理な人は逃げてっ!」
キュウは弓でゴブリンを薙ぎ倒しながら叫んだ。
どうやら会場に魔物が隠れ潜んでいたようだ。
「行ってこい、コン、シン!」
「おう!」
「ほらさー!」
コンとシンはそれぞれの武器を手にして、会場を席巻し始めた魑魅魍魎へ立ち向かってゆく。
「ぐぎゃ!」
「おっと!」
鈍い気配を感じ取り、俺は身を翻した。
三又槍を外したレッサーデーモンが忌々しそうな奇声をあげている。
……こりゃ、久々に俺も抜くしかないかね!
「ぎぎゃー!」
「大丈夫ですか!? ここは俺たちに任せて逃げてください!」
レッサーデーモンは、会場に居た若い冒険者に斬り伏せられていた。
気づけば、キュウの言葉に影響された沢山の冒険者、兵士に、騎士までが魔物と戦い始めていた。
どうやら俺のようなおっさんの出る幕はないっぽい。
だったら……
「キュウ、コン、シン! 頑張って経験値稼げよー!」
俺は飛びかかってきたゴブリンを裏拳で叩きのめしつつ、そう声を掛けたのだった。
そんなこんなで、俺の可愛い門下生を中心に、魔物は次々と撃退されてゆく。
「こ、腰が……腰が抜けて……」
ちなみパルディオスは、すっかり飛び出すタイミングを逃し、ずっと尻餅をついたままなのだった。
しかしこれだけの大侵攻なんだ。
どっかに親玉が……
周囲へ気配を配ると、逃げ惑う人々の中で、明らかに妙な黒ローブの姿がみえた。
まぁ、人違いだったら謝りゃいいか!
俺はダッと地を蹴り、黒ローブとの距離を詰める。
そして頭まですっぽり被ったフードを掴んで、無理やり剥いだ。
まるで昔の自分に戻ったかのような、手際の良さに自分自身でも驚いてしまう。
「ほう、やっぱこの騒ぎは魔族の仕業か」
「なっ!? 何故、オレの存在を!? 貴様、勇者か!?」
青い肌、トカゲのような目、ツノを生やした魔族の男は狼狽えていた。
「ちげぇーよ。俺は冒険者崩れの、萎びたおっさんだ!」
俺は自分へ筋力効果魔法を施し、魔族の男を空へ放り投げる。
「キュウ! そいつが親玉だ! お前の経験値にかえてやれぇー!」
「はい! ありがとうございます! てやぁー!」
キュウの矢が宙を舞う、魔族の胸を鋭く射抜いた。
「も、申し訳ございません……蟲皇様ぁ……!」
心臓を射抜かれた魔族は、砂のように瓦解し、消滅する。
すると、ボスを失った魔物達は、続々とその場から逃げ出すのだった。
キュウは笑顔を浮かべながらこちらへVサインを送ってきたのだった。
「そこの御仁よ!」
「ん?」
声をかけられ振り返ると、そこには大会関係者の人が。
たしかこの人って、この大会の主催者だっけ。
「この度は誠に! 誠にありがとうございました! こうして1人も被害者が出なかったのは、貴方様のおかげです!」
「はは、俺はたまたま魔族を見つけて放り投げただけですよ。お礼だったら最初に魔物の存在に気がついたあの弓を持ってる子、キュウにお願いします」
「し、しかし!」
「ご心配なく! あの子ら、俺の可愛い門下生なんで! あいつらの名誉は、俺の名誉でもあるんで。お願いします!」
そう頼むと、主催者は俺へ深々と頭を下げて、キュウ達のところへ向かってゆく。
おっ? また礼金貰ってるな。相変わらず挙動不審に辺りを見渡したあと、胸の谷間に小切手を差し込むと。
優勝は有耶無耶になっちまったけど、良かったじゃないか。
「グレイト! ですっ!」
「な、なんだぁ!?」
またまた後ろから変な声が聞こえて振り返る。
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