第4話先生、私たち身体で支払いますっ!


「おお! 君たちが例の三姉妹! この度は見事、見事に、危険種を討伐してくれた! 厚く御礼を申し上げる!」


「あ、ど、どうも……?」


「疲れているところすまないが、もう少しここで待っていてはくれないかね? 間も無く日刊冒険者達♪の記者がやってくるので、今日のデビュー戦のことを詳しく話してもらいたい!」


「あの、えっと……」


「いやぁー! あはは! 当ギルド開設以来の快挙だ! 鼻が高いぞ! なーっはっはっは!」


「あのーっ!」


 キュウが激しく声を上げた。

 支配人をはじめ、ギルドにいた全員が黙り込む。


「ど、どうしたのかね……?」


「たしかに私達は偶然危険種を倒しました。だけどこの成果は決して、私達3人だけではなし得なかったものなんです!」


 キュウはそっと身を引いた。

 何故か、俺が支配人の前へ立たされる。


「このお方! 偉大なる冒険者訓練士のトクザ先生にご指導を賜った成果なんです! ねっ?」


「おう! そうさ! あたしらだけじゃ、きっと無理だったぜ!」


「トーさんがいたからできた! トーさんがすごい!」


 なんか俺にめっちゃ視線が集中している……


「トクザってあのトクザ? 昼行灯の?」

「いつもクビになってばっかりの?」

「給付金詐欺の?」

「詐欺じゃねぇって!!」


 とりあえず、詐欺は聞き捨てならんので、外野を一蹴しておいた。


「ちわー! 日刊冒険者達でーす。取材にきやしたぁ!」


 タイミングが良いのか、悪いのか、例の記者がギルドへやってくる。


「さっ、先生、取材の方が来ましたよっ!」


「お、おい!」


 キュウががっちり俺の腕を掴んで引きずってゆく。


「ほら、コンもシンも石のように動かない先生を動かすの手伝って!


「先生の凄さをもっとたくさんの人にわかってもらわないとな!」


「トーさんムーブぅー!!」


 コンとシンも俺を動かそうと近づいてくる。

 さすがにこの3人に捕まっちゃ、どうしようもないぞ!?


「あ、あー! 遺失物の煙幕玉を落っことしちゃったぁー!」


 と、後ろから少々間抜けなローゼンの声が聞こえた。

彼女は紫の球を床へ放り投げる。玉が床にぶつかった途端、ボワン!と厚い煙が立ち昇った。


さすがは元パーティーメンバーのローゼンさん!

俺がこういうの苦手だっていうの良くわかっていらっしゃる!


「な、なにこれ? けほ!」


 キュウの腕が離れた途端、俺は煙に巻かれた冒険者ギルドから飛び出した。

 近いうちにローゼンへはちゃんとお礼を言わないと。


⚫️⚫️⚫️



 翌日の日刊冒険者達♪にはでかでかと三姉妹冒険者と危険種ブラックデビルベアとの壮絶な死闘が記載されていた。

ぶっちゃけちょっと盛りすぎ。そしてちょこっと同行していた訓練士のことも。

まぁ、名前は伏せられているいるから、そんな騒ぎにはならないだろう。


そう踏みつつ、俺は寝起き早々にビールを一口。

休日に朝酒は最高だね。


それにサク三姉妹っていう優良顧客とも出会えたし、しばらくは給付金に頼らなくても、暮らして行けるだろう。


とりあえず今日は休みだ、休み!……とは行かず、朝っぱらから玄関戸がノックされた。


誰だい、こんな時間に?


「お、おはようございます、トクザ先生!」


「んー……キュウ!? ど、どうして俺の住まいを!?」


 扉の向こうには、一躍時の人となったサク三姉妹が居た。


「この貸家が先生のお住まいだと、ギルドのローゼンさんに伺いました!」


……あいつめ、余計なことを……相変わらず敵なのか、味方なのかわかんねぇ奴だな……


「で、何のようだ? 昨日訓練したんだから今日は休みにすっぞ」


「あの……とても大事なお話が……」


「話?」


 三姉妹は少し難しい顔をして互いに頷き合う。

そして、突然平伏をし始めた。


「な、なんだぁ!?」


「すみません、先生! 実は私たち、全然お金ないんですっ!!」


「そうなんだ! だから昨日の指導料が払えねぇんだ!」


「シン達、貧乏。可哀想……ぐすん……」


「いや、金がないとか、貧乏とかいきなり……てか、昨日の80万Gがあるだろ?」


 契約上、俺は3人の報酬の20%を貰うことになっている。

まだもらってないけど。


「いえ、それが……私たちの記事をみた借金取りが全部持っていてってしまって……」


「はぁ!? 借金取り!? お前ら貴族だろ!?」


「でした」


「でした……?」


「実はサク家は潰れてしまいまして……」


 キュウの話によると、サク家はつい先頃発生した聖王国への遠征で大敗してしまった。

家長の親父さんも、男兄弟も、戦地へ同行した三姉妹の母親たちも全員戦死してしまったらしい。

そのため戦費として借りた金を返せず、潰れてしまったようだ。


「だ、だから、お前達は冒険者を……?」


「はい! サク家は武家なので! これしか借金を返す方法が思いつきませんでした!」


「マジか……!」


 俺の膝から力が抜け、床に膝をついてしまった。

 まさかサク家が……しかも多額の借金持ち……これじゃ失業給付金を貰って、しばらくおとなしく過ごしていた方が良かったかも!


「すみません、先生。黙っていて……」


「いや、うん……もう良いよ」


「でも先生にご指導を頂ければ、きっとお金の稼げる冒険者になれると思いまして!」


「だけど指導料払えないんでしょう? さすがにそれじゃあ……」


「ですから……お金の代わりに……私たち、身体で支払いますっ!」


「「「はっ……?」」」


 ちなみに声を揃えて首を傾げたのは、コン、シン、そして俺である。


「あ、姉貴! かか、身体って!!」


 コンは顔を真っ赤にして狼狽えて、


「活用する……シンの胸……! そのためにがむばった!」


 ああ、シンの大きな胸は努力の賜物なのね。

って、今はそんなことどうでもいい!


「せ、先生! さ、早速なんですけど……脱いでくださいっ!!」


「ま、待て!」


「さぁ、早くっ!」


 俺はキュウの気迫に押され、いつの間にやら自宅の壁の隅にまで追いやられていた。


 ああ、そうか……キュウは俺に身体を捧げてまで、冒険者として強くなりたいと……なんて殊勝な。

それに10年前も相当可愛かったが、大きくなったらより磨きがかかったと思う。

こちらもすっげぇ美人になったキュウが相手ならば、喜んで!

久々にちょっと元気が出てきたぞ!


「わかった。脱ごう!」


 俺は意を決して、パジャマの上着を脱いだ。

もうなんでもこい! どーんと来い!

コンもシンも、俺の胸へ飛び込んで来い!


「あ! そ、それだけで良いです!」


「へっ……?」


 Tシャツの裾へ手をかけると、キュウは何故か顔を真っ赤に染めた。

そして、俺から上着を奪い取り……


「ボタンが取れかかってました! 直しますね!」


 キュウはソーイングセットを取り出すと、上着の取れかかっていたボタンを繕い始める。

すごく手際が良くて、思わず感嘆の声が漏れ出した。


「さぁ、コンもシンもぼぉーっとしてないで!」


「あ、あのよ、姉貴……身体で支払うって、まさか……?」


「家事手伝い……肉体労働……だから身体で支払う……」


 どうやらシンの言う通りだったらしい。


 ちなみに、この盛大な勘違いを鋭く突っ込んでみると、キュウは顔を真っ赤に染めて、


「うう……私のばかぁ……! ど変態ぃ……!」


「お、落ち込むなよ姉貴?」


「キュウ姉、エロエロ」


 キュウはコンとシンに慰められながら、しばらく部屋の隅で落ち込むのだった。

 せっかちで、言葉選びが下手くそなのは、子供の頃から変わっていないらしい……


 というわけで、何故か俺は、訓練生であるサク三姉妹と同居生活をすることになったのである!



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