第3話凄すぎる成果


――危険度Cのブラックデビルベア。


(はいはい、ボスクラス。初心者殺しで有名な。しかも割と大型の個体だなぁ)


「ンガァァァァ!!」


 ブラックデビルベアは激しい咆哮を上げた。

そして肩へちょこんと当たっただけの大樹を腕力のみで薙ぎ倒す。

あらら、かなり興奮している様子ね。


「そんじゃ、いっちょアイツを狩ってみようか」


「「「はっ……?」」」


 三姉妹は仲良く揃って、俺を見返してきた。

 少しさらっと言いすぎたか?


「あ、あの先生! 今のはご命令ですか……?」


 長女のキュウが妹達の言葉を代弁する。


「おう、もちろん。あいつを狩る。目の前のブラックデビルベア」


「ううう……」


「俺の言うこと聞けない?」


「い、いえ、そういう訳では……」


 キュウは顔を真っ青にして、ブルブル震えだした。

やばい、新しい性癖に目覚めそう……基、ちょっとかわいそう。


「や、やってらやらぁ! トク兄にはあたしらには想像できないほどのお考えがあるんだ! き、きっと!」


 コンは膝をガクガク震わせながらも、勇ましく斧を構えだす。


「く、熊さん! きゃっほー!」


……シンは無理やり恐怖心を払拭しようとしていた。

まぁ、いざって時のために、俺も一応準備しときますかね。


「おーしっ、お前ら陣形だ。単縦列。決めては定石で魔法使いのシンな」


「「「りょ、了解!」」」


 三姉妹は戦士のコンを先頭に、真ん中に弓使いのキュウが入り、最後尾に魔法使いのシンがつく。


「ほんじゃま……アタック!」


「「「わぁぁぁ!!」」」


「ウガァァァァ!!」


 ほぼ同時に凶暴な熊の魔物と三姉妹が距離を詰め始めた。

 ブラッグデビルベアは大きく鋭い爪が生えた腕を掲げる。


「こんなものぉ!」


 コンが斧を振り上げ、熊の爪を受け止めた。

 やっぱり彼女の筋力は並大抵ではないらしい。

現にブラックデビルベアは必死に腕を押し込んでいるが、コンは微動だにしない。


「姉貴! 肩!」


「わ、わかった!」


 キュウがコンの肩を踏み台にして飛び上がった。

 弓はいつでも発射オッケー!


「てぇい!」


「ウガウゥーー!!」


 矢がブラックデビルベアの肩へ深く突き刺さった。

 怯んだ熊はよろよろと後ろへ下がってゆく。

そして、紫紺の輝きが、件の熊魔物を怪しく照らし出す。


「熊さん、バイバイ! 闇矢(ダークボルト)っ!」


 シンは大きな胸をポインと揺らしながら、魔法の杖を振り落とす。

 現界した漆黒の矢がブラックデビルベアの胸を鋭く貫いた。


「ウガ……カハァー…………」


 ブラックデビルベアはドスンと砂煙を上げながら、大の字に倒れ込む。

そしてピクリとも動かなくなった。


「え……? うそぉ!?」


「あたしら、倒した!? あのブラックデビルベアを!?」


「シンの魔法つおい! えっへん!」


 サク三姉妹はまだLevel10で、これだけで判断すればブラックデビルベアなんて倒せるはずもない。

だけども……


キュウ・サクーー集中力 評価B+


コン・サクーー筋力 評価B+


シン・サクーー魔力 評価B+


 それぞれ一点のみだけど、中堅冒険者並みの力を持っていた。

さすがは武家として名高い、サク家の三姉妹だね。

3人そろえば、ちょっと格上の相手だってお茶の子さいさいよ。

これもフルで情報開示をしてくれたおかげだし、さっき真面目に俺の助言を受け入れてくれたからだ。


しかし俺の成長スキルがあるとはいえ、既にLevel……39!?

マジかよ!?すごい成長率だな、おい!!


「よぉーし、良くやった! 上出来だぞ、お前達」


 ぽかんとしていた三姉妹は、俺の声を聞くと素早く振り返る。


「先生! ご指導ありがとうございましたぁ!」


「すげぇよ! やっぱトク兄の言うことは全部正しいよ!」


「シン、これからもトーさん信じる!」


 またまた三姉妹はキラキラした視線を寄せてきた。

 なんか、ここまで感謝されるの久々だなぁ。

だって、最近は文句しか言わない奴が多いんだもん。


「お、おい、君達!!」


 突然、男の声が聞こえてきた。

 気がつくと、倒したブラックデビルベアの死骸を統一された立派な装備を身につけた男衆が取り囲んでいる。


 こりゃムサイ国の討伐兵団だねぇ。


「まさか、このブラックデビルベアを……?」


「おう。俺の可愛い門下生が倒した」


「か、可愛い!? もう、いきなり先生ったらぁー!! うふふ!」


 何故かキュウは顔を真っ赤にしながら、俺の肩をペシペシ叩き出し、


「あたしが可愛い……そ、そっか……こんなムキムキなあたしでもトク兄は……!」


 コンは俯き加減でゴニョゴニョ何かを言っている。


「シン可愛い! シン可愛い! シン可愛いぃー!」


 シンは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながら、大きな胸をポインポイン揺らしていた。


そんな三姉妹へ苦笑いを浮かべつつ、討伐兵団の兵長さんは、深々と頭を下げた。

部下達も揃って一斉に頭を下げ始める。


「優秀なる冒険者の方々! この度は"黒の破壊神"を討伐していただき誠にありがとうございました!」


「黒の破壊神?」


「はっ! 此奴は何人もの人を殺め、国からも討伐指示の下っていたお尋ね魔物でございます」


 なるほど、強敵だったから三姉妹のLevelが一気に39にまで上がったんだね。

つーか、そんな難敵をサクッと倒しちゃったサク三姉妹のポテンシャル恐るべし……さすがは戦少女の娘達。


「こちらが討伐証明書になります。こちらをギルドへ提出いただき、報奨金を受け取ってください」


「いち、じゅう、ひゃく……ひゃ、100万G!? まじかぁ!?」


 羊皮紙を見て思わず我が目を疑った。

 失業給付金を貰うよりも、遥いでかい金額だった。


……しかし、ことはこれだけでは済まなかった。


「これ討伐証明書ね。後ろの3人がやった」


 ギルドへ戻り、換金窓口へ貰った討伐証明書を提出する。

すると受付のお姉さんは、すぐさま目を見開く。


「あ、あの、お客様? こちら誤記載では……?」


「いや、真実だから。そこに国立討伐兵団の刻印もあるだろ?」


 そりゃデビューしたての黒等級冒険者が、国指定の危険種を狩ったとありゃ、驚くわな。


 そんな状況を察知してか、奥から敏腕職員さんのローゼンが飛んでくる。

さすがは元斥候(スカウト)職。


「どうかしたの?」


「いえ、この討伐証明書なのですが……」


「ちょっと見せて!」


 ローゼンは討伐証明証を引ったくると、凝視し始める。

やがてプルプルと肩を震わせ、羊皮紙から顔を上げた。


「あんたなんか悪いことした?」


「んなわけあるか! 全部きちり真実! 俺の可愛い門下生たちが倒したんだぜ!」


 俺は後ろでずっと恥ずかしそうに俯いていた三姉妹を指し示す。

そして代表として長女のキュウの背中を押した。


「ほ、本当なのね?」


「は、はい、一応……」


「そう……良く頑張ったわね、おめでとう!」


 ローゼンは優しくそう言って、討伐証明書へ判子を押す。

元冒険者として色々と感じいるところがあるんだろうね。


「おーい! ローゼン君!」


 と、今度は奥の支配人室から、このギルドの支配人が飛び出してきた。


「どうしましたか支配人?」


「急な仕事で申し訳ないが、早急に本日デビューしたばかりのこの3人を探し出してほしい! 日刊冒険者達♪から取材のオファーが来ているんだ!」


「あ、でしたら、今支配人の目の前に?」


 ローゼンはにっこり笑顔で、キュウを差し示した。


 支配人も、職員も、そしてことの次第にずっと耳を傾け続けていた他の冒険者達も、一斉に視線をサク三姉妹へ注ぎ出す。



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