第35話 縮地
「先輩、さっきのスキルは何ですか?」
「さっきというのはどれでござる? 【縮地】、【発勁】、【ラッシュ】、【いなし】、【背負い投げ】、【追撃】?」
あ、そんなに使ってたんだ。
【いなし】は【貫手】をいなされたやつでしょ。
【背負い投げ】は投げられたやつ。
【追撃】は転がされてもらった最後の一撃だよね。
「【縮地】と【発勁】って何ですか?」
「【縮地】は【無拍子】の上位スキルで一瞬で移動できるスキルでござる。敏捷値によって距離が延びるでござるよ。【発勁】は拳法の必殺技みたいなスキルでござるな」
ミラちゃん、先輩のスキルは脳内表示できる?
『出来ます』
私でも修得できそう?
『【発勁】の難易度は少し高いですが、あゆみなら可能でしょう』
よしっ。
後で練習しよ。
「すごいスキルを持ってるんですね」
「まぁ、スキルに関しては一日の長があるでござるからな。しかし正直に言うとかなりギリギリだったでござるよ。運よく拙者の大技が決まって流れをもってこれたでござるが、あゆみ氏の動きはついていくのがやっとでござった。初心者なのに信じられない速さでござる。それに……あゆみ氏は【物理耐性】持ちでござるか?」
「はい、【物理耐性】持ってますよ」
「それは羨ましいでござるな。道理で【発勁】のダメージが少なかったわけでござる。スキルガチャで当てたのでござるか?」
え? 何? 【
「いえ、一度殺されたときに取得したんです」
「それは運がいいでござるな。耐性系を取得する確率はかなり低いのでござるよ。それと【ラッシュ】で防御を貫通できたのはどうしてでござる?」
「どうしてって……あれ【ラッシュ】じゃなくて【貫手】を連打してただけですからね」
「【貫手】の連打? 【貫手】まで持っているとは裏山……いや、そうじゃなくてスキル後の硬直は?」
「スキル使って硬直したことってないですよ?」
「そんなバカな……まさか……チートでござるか?」
「いやいやいや、チートなんて使ってませんよ。というかそもそもスキルじゃないというか……」
「え、スキルじゃない? どういうことでござる?」
うーん。追及がスゴイ。
ミラちゃん、これなんて答えればいい?
『お任せください。カンペを用意します』
「先輩、『スーツ』って分かります?」
「まさか、今開発中と噂されているスーツ型コントローラーのことでござるか?」
「はい、まぁ詳しくは言えないんですけど運よくそれ系のテスターに選ばれたみたいで……」
「ぬほう。スーツの性能が噂通りならそのスピードもスキルの連発も納得でござるな。モーション優先の挙動と言うことでござろう」
「はい、まぁ詳しくは言えないんですけど運よくそれ系のテスターに選ばれたみたいで……あ」
やばっ、同じところ読んじゃった。
「ん? まぁ、心配せずともちゃんと秘密にするでござるよ。男に二言はないでござる」
「ありがとうございます」
何か知らんけど上手く誤魔化せたな。
「じゃあ2戦目やるでござるよ」
「はい、今度は簡単にやられませんよ」
2戦目。
先輩は防御を捨ててきた。
私の攻撃力が低いのもあるし、防御は貫通されるからね。
確かに先輩にとってあまり防御する意味がないのかもしれないけど、回避すらしない相打ち戦法に面食らって負けてしまった。
痛かったけど痛みが軽減されているし、痛みには慣れないといけない。
そう思って痛みに耐えた。
コンチキショウ。
3戦目。
相打ちにならないように足を使う。一発当ててすぐ離脱。当ててはすぐ離脱を繰り返す。
そうやってコツコツ先輩のHPを削る。基本的なスピードでは私の方が上だからね。
結構いい感じだった。
すると先輩は【無拍子】&【発勁】を多用してきた。
この攻撃は普通の攻撃と違って物凄く読みにくい。
射程は短いけど動き出しが見えない。だから体感の攻撃速度が速く感じる。
その上モーションが小さいため躱しにくい。
発動させるのに多少の溜めが必要みたいなんだけど先輩は私が何十発当てなきゃならない中で一発当てればいい。
一発当てられたら私の動きは途端に鈍るからだ。
つまりどういうことかと言うと、この試合も先輩に負けた。
4戦目、5戦目、6戦目も同じようにして負けた。
先輩は私の動きに順応しつつあったのでここで私は戦略を変える。
今までと同じようにしていても勝てない。それが分かった。
勝つには先輩のスキルがいる。【発勁】だ。
そのためその後の試合は【発勁】の修得に費やした。
被弾も構うことなく【発勁】の型をまねて撃ち続けた。
しかし、何度試しても【発勁】を修得することは出来なかった。あれかな『気功』みたいなのに目覚めないとだめなのかな?
11戦目。
「もう止めにするでござるか?」
先輩が気を遣ってそう言ってきた。
「いえ、もっと続けたいです。先輩はもうそろそろお時間ですか?」
「いや、あゆみ氏がいいならまだやるでござるよ。ただ流石にステータス差があり過ぎて何だか虐めているような気がしているでござる」
「全然お気になさらず。私は楽しんでますよ。絶対に先輩に一死報いてやりますから」
これだけ痛い思いをしたんだから勝つまでは絶対に止めたくない。
「何だか、『一矢』に随分殺気が込められている気がするでござるな……まぁ、あゆみ氏がいいなら続けるでござる」
それに……もう少し、もう少しで何か掴めそうな気がする。
でも今までの私の発勁もどきの攻撃は【貫手】にも劣るダメージしか与えられていない。
発勁と普通のパンチは何が違うんだろう?
どうしたらあんな小さな動きで高い威力が出せるんだ?
それともやっぱり『気』が足りない?
何にせよもっと先輩を観察しないと。
——いさ尋常に……始め!——
渋い声で開始が告げられる。
左右のステップを繰り返し、的を絞らせないように動きながら距離を詰める。
その最中、不意に先輩が当てずっぽうに【発勁】を放ってくる。
不意の一撃に危機感を感じた脳が加速して時間がゆっくり流れる。
先輩の攻撃を躱しつつ一撃を入れる。
『3』
しょぼい。
与えたダメージは雀の涙ほど。
また失敗だった。
そしてすぐ離脱する。
離脱すると先輩は【縮地】を使って距離を詰めてきた。
伸びた時間の中で【縮地】を見た。
その瞬間、脳内を電流が駆け抜けたかのようにはっと気が付く。
一瞬、まるで膝カックンされたかのように先輩のアバターはガクッと崩れ落ちていたのだ。
そして崩れ落ちるその一瞬にステータスにものを言わせて強引に前に出ているように見えた。
そうか……これが【縮地】なんだ……。
【縮地】の追撃を逃れさらに距離をとる。
今まで【発勁】にこだわっていたけど早速試してみよう。
膝の力を抜いてガクッと崩れ落ちる。でも本当に転ぶくらい崩れ落ちるわけじゃない。
その瞬間に送り足に力を入れて移動!!!
——ダンッ——
前に出した足の裏が力強く地面をたたく。
移動……全然できなかった。
靴一足分くらい足は前に出ている。
でもこれじゃその場で足踏みしたのと何ら変わらない。
『スキル【無拍子】を覚えました』
お、試合の最中だというのに脳内にアナウンスが流れる。
【縮地】は【無拍子】の上位スキルだから方向性は間違ってないっぽいね。
先輩は私の足踏みに反応して攻撃を繰り出していた。
もっと移動するにはどうしたらいいんだろう?
でも、あの一瞬の間に力を込めて移動
無理がある気がするんだけど……。
先輩と距離をとりつつ考える。
あ、そうか、ガクッとする前から力を入れとけばいいのか。
取り合えずやってみよう。
後ろに引いた足には全力で前に進もうと力を入れ、前に踏み出した足は前に進まないように後ろ向きの力を入れて踏ん張る。
動いてはいないけど左右の足にはどちらも物凄く力が入っている。
こういう力の入れ具合はモーションを見ただけじゃ分からなかったな。
この時既にある種の期待を感じていた。
これは行ける。
足に込められた力+重力、これでさっきよりももっと前に踏み出せるはず!
期待を胸に前に踏み出している足の力を抜く。
——ダンッ!!!——
一瞬の踏み込み。
その一瞬で私は先輩との距離を0にしていた。
予想以上に一瞬で距離を詰められたことに自分でビックリしてしまう。
多分先輩もビックリしたことだろう。
「ていっ」
それでも私の方が反応は早かった。
【足払い】で先輩を転ばす。
『スキル【縮地】を覚えました』
っし!
これは行ける。
たまたまだったけど今の攻撃は良かった。
【縮地】からの下段攻撃は相打ちのリスクをかなり減らせる。
【発勁】にこだわっていたけど、【縮地】を覚えたことで攻め手が増えたのが分かった。
【足払い】や【スライディング】は少しエフェクトが出るせいか発動しようとするとジャンプして躱されていた。出す前に読まれてしまうのだ。
でも【縮地】からの【足払い】は案外スムーズに出せる。加えて発動が読みにくくなる。【縮地】が予備動作を消すスキルだからかな? 今の【足払い】はエフェクトが出なかったのだ。
つまり相打ちをくらいにくい下段攻撃を不意打ちみたいに出せるってこと。
そして転がされたら相打ちも何もない。
あと相打ちと言っても、今まで私の攻撃はいつも先輩よりも先に当っていたのだから。
下段攻撃を先に当てられるなら格段に被弾しにくくなる。
こりゃ勝てる可能性が出てきたぞ。
にひひ。
これから反撃開始だ。
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