第26話 死亡検証

『あゆみ、大丈夫ですか?』


 はっ!


「あれ? ここは……?」

 『リンク』内の最初の街だ。


『良かった。無事に生き返りましたね』

「あ、そうか。私死んじゃったんだ……」


 ……ってちょっと待って私のお金!

 メニュー! メニュー!


「ぐがあああああああああ……ぬああああああああ……」

『どうしましたか? どこか痛むところがありますか?』


「ゴールドがぁぁぁぁ、私のゴールドちゃんがぁぁぁ、全部なくなってるぅぅぅ」

 メニューに表示される所持金欄は見事に0となっていた。


『あ、どうやら異常があるわけではないようですね。良かったです』

「全然良くないわ! 所持金0になっちゃったじゃない!」


『だから装備を整えた方がいいと言ったではないですか』

「だって……、だって……、あんなスライムがいるなんて思わなかったんだもん!」


 ふぅ、ふぅ。


 落ち着け私。


 変な人に見られないように普段は頭の中でミラちゃんと会話してるのに、思わず声に出して会話しちゃってる。


「って、落ち着いてられるかぁ!!」

『頭大丈夫ですか? あ、失礼しました。自分に切れるのは平常運転ですね』

「それ火に油だから、メッチャ失礼こいてるから!」


 でも……ん? ちょっと待って。

 さっきからミラちゃん私のことやたら心配してない?


「ミラちゃん、さっきから変に心配し過ぎじゃない? たかがゲームで死んだだけだよ?」


『はい、「DLモード」プレイヤーは現実とゲームの繋がりが非常に深いので死亡時にどういう反応を起こすのかは開発陣の懸念事項の一つでした』


 うううん?


『「DLモード」は検証のしようがないため万が一の可能性は捨てきれませんでしたがどうやら問題なかったようです』


「『問題なかったようです』じゃなぁい! それって何? 下手したら現実でも死んでたかもしれないってこと!?」


『いえ、その可能性は極めて低いと思われていました。「DLモード」プレイヤーのトラウマにならないようにある一定以上の「痛み」は低減されますし、剣などで切りつけられても血が飛び出たりしません。もちろん体が欠損するようなこともありません。ただHPが減少するだけです。そしてHPに該当するステータスは現実には存在しないのです。ですのでほぼ問題はないと思われていましたが、ただ、確実に0だと言い切れなかったのも事実です』

「ほら、やっぱり危なかったんじゃん」

 そんな危険なことを黙ってるなんて。


『確率で言えば、スマホのバッテリーが膨張して爆発する危険の方が大きいでしょう。あゆみは安全のためにスマホの使用をやめますか?』


 うっ。

 そう言われるときついな。


 スマホ爆発しないよね?

 爆発しないよね?


『それに私は装備を整えるようにお勧めしましたよ。あゆみは聞きませんでしたが』


 ううっ。

 確かにミラちゃんは装備のこと言ってたもんね。


 ダメだ。ミラちゃんに言葉で勝てる気がしない。


『ただ、あのスライム相手に死亡検証ができたのは幸運でした』


 幸運? 何が?


『剣や爪で斬られるわけでもなく、食べられるわけでもなく、火で焼かれるわけでもなく、窒息するわけでもなかったからです。単に打突のダメージのみでHPが削られていったのが幸運でした。心に傷を負う可能性がさらに低くなりましたので』


 そうか。トラウマになる可能性も0じゃないってことね。

 そういうリスクもあるのか。


『「DLモード」プレイヤーはゲーム内でも五感があります。それは疑似的なものではありますがあゆみの脳にとっては現実と大差ないのです。これは他のプレイヤーに対し有利な点でもありますが、リスクでもあり、不利になる場合もあるでしょう』


 まぁ、確かに。スキルとか早く覚えられてラッキーとか思ってたけど、戦う時に私だけ痛いのって不利だよね。


 しかも別に痛みが重要なシグナルってわけじゃないんだよね。ダメージを受けても四肢が欠損したり機能しなくなったりしないんだもん。


 例えば、痛みを感じない敵がダメージの蓄積に気付かずに急に体が四肢が動かなくなってやられちゃう……ってやつ。ゲームだからそういう事にならないし、痛みの代わりにHPの表示があるんじゃないの?


 痛み要らなくない? 


 『DLモード』のデメリットが本当に痛すぎる。まぁ、メリットもデカすぎるから仕方無いか。


『ただこれで「リンク」内で死亡しても現実では死なないことが一応確認できましたので死んでも安心です』


 一応って何よ。不安にさせないでよ。

 まぁ、死んでも大丈夫ってことならよかったけども。

 ただ、ぶっつけ本番のテストはやめていただきたい。……って無理か私しかいないんだもんね。


 ところでさ、『HP』に該当するステータスが現実にはないって言ってたけど、『体力』とは違うの?


『はい。「体力」と「HP」とは違います。「HP」は「リンク」内だけのステータスでダメージを受けると減っていきます。0になると死亡します。「体力」はスタミナを数値化したようなものです。体術系のスキルを使用すると「体力」が減ります。ちなみに魔法系のスキルを使用すると「魔力」が減ります』


 へぇ、そうだったんだ。


 あれ? 私いつも【貫手】を使いまくってるけど『体力』って減ってたの?


『はい、減っていました。しかし単にスキルを一回使えば体力が1減るわけではありません。走るのと同じでペース次第で体力の減り方が変わるのです』


 ふーん。

 なるほどね。


 じゃあ、「ステータスの数値って何?」って感じがするけど。


『下位のスキルは走る動作と同じ扱いなのです。使用しても「体力」が減った様に見えないものが多いですが、上位のスキルになると「体力」が目に見えて減ります』

 あ、そういう事ね。


 ち、ちなみにさ……。

 わたしの口座に入っていたお金はどうなったのかな?

 まさか、0になってたりしないよね。ちらっ。


『ちらって、どこに視線を送ったのかはわかりませんが、ゴールドが0になったため同額を児童養護施設に寄付しておきました』


「ぐおおおおおおおおおおおお……ぬおおおおおおおおおおおおおおお……」

『あゆみ、またコツコツとスライムを倒していきましょう』


 あの上位種め……コノ恨ミ…晴ラサデオクベキカ……

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