第17話 貧乏とセレブ

 次の日バイトを終えた後、必要な書類を持ってジムに行った。


「お兄さんこんばんは! 書類持ってきました!」

「こんばんは。体調は大丈夫?」

「大丈夫ですよ!」

「それは良かった。じゃあ、拝見しますね」


「ふむふむ······。問題ないですね。では今日から花咲さんはこの大崎ジムの門下生となりました」

「やったぁ!」


『あゆみ「武道家見習い」の条件を満たしました。転職しますか?』

 えっ? 

 ミラちゃん、今ってプレイ中じゃないけどそういうのは変更可能なの?


『はい、ステータスやジョブの変更は可能です』

 じゃあ、お願い。

『承知しました。転職によりレベル上限が15まで開放されました』


「······咲さん、花咲さん?」

「はい!」

「大丈夫? ちょっと今ぼーっとしてたけど。やっぱり昨日の疲れが残ってるんじゃないかな?」

「いえ、大丈夫です! 軽くトリップしてただけです!」

 焦ったあ。何とか誤魔化せた。


『いえ、微塵も誤魔化せた感がありませんよ』

 ちょっとミラちゃんは黙ってて!


「それでプロ志望の人に対しては、お客様扱いはせずに呼び捨てで呼んでるんだけど、構わないかな? 花咲さんの場合はまだプロ試験を受けるまで2年位かかるから、1年位はお客様待遇でもいいんだけど」

「······? いえ、呼び捨てで構いませんよ。私は上を目指してますんでお客様扱いはせずにお願いします」


 えっ、でも2年?

 長くない?


「分かった。じゃあ厳しくいくからね」

「はい、宜しくお願いします。······でも2年もかかるんですか?」


「そうだね、昨日の動きを見た限りあゆみはかなりいい素質を持ってると思う。ただ、プロテストを受けられる年齢は17歳からなんだ」

「17歳。そうなんですね、······分かりました」


 ちょっとミラちゃん!

 2年もかかるってどういうこと!?

 効率的に転職出来るんじゃなかったの!?


『大丈夫です。あゆみなら転職に2年もかかりませんよ。プロボクサーになるだけが転職の条件ではありませんから。道はいろいろあるのです。一先ずこのジムで基礎を学んでください』


 分かった。

 ミラちゃんなりのプランがあるってことね。

 ドンと任せるから、私の人生を勝組にしてくれたまえ。


「じゃあ、今日は疲れてるだろうから帰って休むように。今度来るときは運動できる服とか、必要なら着替えとか持ってきてね」


 あ、やっぱり誤魔化せてなかったか。

 服ね。急いで買わなきゃだな。

 

「分かりました」

 中学時代のジャージ(パジャマ代わり)じゃ流石にダメだよね。と言うか私がイヤ。

 どんなの買ったらいいかレイカさんに相談してみよう。

 

 ふっふっふっ。

 貧乏だった私はもういないのだよ。

 口座にいくらあると思うのかね。

 もう、雑草を食べていた頃の私ではないのだよ。


 スポーツウェアを買うくらい余裕なのだ。


『私で良ければウェアのオススメを提示しますよ』

 あ、そうか。

 ミラちゃんに教えてもらうという手もあるか。


『ロードワーク用のシューズ、ボクシングシューズ、練習用ウェア一式☓2、テーピングなど、諸々含めて3万程で取り寄せましょうか? 別にウェア一式は今日買いに行ったほうが良いかと思いますが』


 ぐふっ!

 さ、3万だと······。


 ミラちゃん、私を殺す気なの?

 

『いえ、問題なく支払えるでしょう?』


 いや、まぁそうなんだけどね。

 今までの貧乏性からはそう簡単に抜け出せないんだよ。そんな大きな金額一度に使ったことないし。

 精神的ダメージがハンパない。


 3万ていったら余裕で1年位は食べていける金額だからね。


『あゆみ、今後は食生活を改善していきましょう。さすがに食費で年間3万は安すぎます』

 いやまぁ、さすがに今はもっと食費は使ってるけど、本気出せば1年くらいいけるって話。


『ちなみに私の場合は、全力で演算するときの電気代は3万だと1分持つかどうかといったところです』


 ぐはっ!

 何この子。セレブ?

 セレブなの?


 仮に全力の場合の1日の電気代いくらよ?

 4000万超えてるよね。

 月に4000円じゃないからね! 

 1日で4000万円だからね!


『これでも私は日本が誇る「リンク」の管理者ですからね。「リンク」による昨年の経済効果は30兆円を超えると言われてます。年間百億程度の電気代くらい安いものなのですよ』


 ほえ~。

 ミラちゃん、すごい子だったんだ。


『えっへん』


 まぁ、当てにしてますよ。

 ウェアだけじゃなくて私の人生まるごとね。



 このあと、私はウェアの買い物に1時間ほど時間をかけてしまったのだった。


 なるべく安くて良いものを買いたい症候群を克服することは出来なかった。

 いや、分かってはいたんだけどね。

 さっさと買って、『リンク』を長くプレイした方がいいってことはね。


 ええ、ええ。

 どうせ私は貧乏少女ですよ。

 年間食費3万少女ですよ。

 

 笑いたきゃ笑え!

 でも、人生はこれからだ!

 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る