第12話 女子力を気にする少女

 そのシングルマザーさんよりは、きっと私の方がゲームに時間を使えるよね。


 ミラちゃんという心強い味方もいることだし、いつか私も大会で優勝して1億獲ったるぞー!


 いやぁ、夢が膨らみますなぁ。

『夢ではなく欲望では?』


 いやいやいやいや、ミラちゃん。

 人間はね、宝クジを夢と呼ぶ生き物なのよ。

 それと同じよ。

『そうでしたか。非常に勉強になります。ええ、非常に』


 そ、それより格闘技、格闘技って何度も言ってるけど、何を習ったらいいの? お勧めとかある?

 

『通いやすい所としては、駅の近くに空手の教室とボクシングのジムがあります。後々の転職のことを考慮するならボクシングをお勧めします』

 あ~、確かにあるね。

 駅前のジムはボクササイズもやってたと思うけど、ボクササイズでも転職条件は満たせるのかな?


『はい、「武道家見習い」の条件は満たせます。ただ、「武道家」になるにはプロボクサーになる必要がありますよ』


 ボクササイズならむしろ女子力アップするかなと思ったんだけど······だめかあ。


『いえ、あゆみの積極性の方が大事です。嫌嫌やらされることでもそれなりに人は成長出来ますが、積極的に取り組むことでより大きく成長するものです。ボクシングがあゆみの性に合うかどうか試すためにボクササイズで様子を見るのもいいかも知れません』

 そう?

 良かった。じゃあボクササイズで決まりね!


 そうこうして一日のバイトを終え、駅前に行きボクシングジムを覗いてみる。


「こんばんは、入会希望ですか?」

 入ってみると、爽やかイケメンのお兄さんが出迎えてくれた。


「はい、ボクササイズ始めてみたいなぁと思って」

「承知しました。私はトレーナーをしております大上と申します。どうぞ、そちらのイスにお掛け下さい」

 お兄さんは側に来ると膝を屈めて腰を低くし、入会申込書を差し出した。

 うむ。丁寧な所作。ポイント高いですぞ。


 このお兄さん······20代半ばくらいかな?

 多分、このお兄さん目当てで通ってる人もいるんじゃなかろうか?


「こちらにご記入をお願いします。」

「はい」


 ほいほい、名前と、年齢と、住所ね。

 んで、希望は······ボクササイズコースと。

 入会理由? 理由は······適当に、いや無難にダイエットにでもしとこ。


 何々? 理由にダイエットを選んだ方のみ回答ください。······何キロ痩せることを目標にしていますか? だと?

 ただでさえろくに栄養が摂れてなかった私から搾り取るものが残ってるとでも?

 喧嘩売ってるの?


『頭大丈夫ですか?』


 怒りでぷるぷる震えているところにお兄さんが戻ってきた。

「お待たせしました。ご記入終わりましたか?」

「あ、まだ······目標が書けてなくて」

「ああ、いいですよ。無理して書かなくても大丈夫です。一緒にプランを考えていきましょう。ちょっと申込書を拝見してもよろしいですか?」


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます。ええっと。······ふむふむ」

 お兄さんが何かじぃーっと見つめてきた。


「あのう、間違っていたら申し訳ないのですが、もしかして『リンク』の条件達成のための入会ですか?」

「いや、あ、はっ、それは······」

 お兄さん、なんで分かるの?


『ここは、誤魔化さずに正直に言ったほうがいいと思いますよ。恐らく味方になってくれるでしょうし』

 う~ん。ここは、確かにミラちゃんの言うとおりか。


「······あの、はい、······そうです。あの、どうして分かったんですか?」

「あ、当たってましたか? 良かった」

 お兄さんの顔が笑顔になる。


「だって、ええっと······花咲あゆみさんですか、体重を気にされるような体型には見えませんでしたから。『リンク』が理由の会員の方も何人もおられますし、もしそれだけのモデル体型でなおダイエットがしたい、かつ保護者には黙って一人で来ているとしたらダイエットに対する強迫観念を持たれてる可能性もあるので念のため確認しておきたかったんです」

「え、モデル体型? やだ、お兄さんそんなに褒めないでよ」


『モデル体型=栄養失調手前のツルペタ。なるほど傷つけない言い回しですね。勉強になります』

 こら、黙っとけい!

 ツルペタは余計だろ!



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