第2話 先輩との約束

「あ、あゆみ氏、スマホはどうでござるか?」

 バイト先の先輩の小田さん(30歳実家暮らし男)が話しかけてきた。

 小田さんはいわゆる廃ゲーマーと言われる人種でバイトで稼いだお金は全てゲームにつぎ込んでいる。私と同じ社会の最底辺を逞しく生き抜く人生の先輩でもある。

 スマホのことはよく分からない私に、スマホ購入のアドバイスと手助けをしてくれた恩人でもある。


「先輩のおかげで、人生初のスマホを手にすることが出来ました。ありがとうございます。もう嬉しくて家ではずっとスマホいじってました」

「そ、それは良かった。それで拙者との約束はおぼ、覚えているでごさるか?」


 小田先輩はゴザル口調で自分のことを拙者と呼ぶ。言葉遣いがちょっと変わった人だ。

 変わって入るけど性格は悪い人ではない。……と思っている。

 あ、勿論接客の時はちゃんとした言葉遣いが出来るし、仕事はちゃんと出来る。


「はい、確か『リンク』というゲームを先輩の紹介ということで始めたらいいんですよね。お安い御用ですよ」

「う、うむ。紹介コード送るからよろしく頼むでござるよ」


 その日の休憩時間に、コンビニのフリーWi-Fiを使ってリンクというゲームをインストールした。何故かマイナンバーの入力が必要だったんだけど、まぁそういうものなんだろう。


「先輩、DLって何ですか?」

「ああ、DLというのはダウンロードのことでござるよ。スマホのアプリは何度も更新される故、その度に更新ファイルをダウンロードせねばならんのでござる」


「じゃあ、これを押せばいいんですね。DLモード選択っと……」

「ん? DLモード? いやダウンロードは勝手に始まる故、何も押す必要などないでござるよ?」


「あ、でもちゃんとダウンロード始まりました」

「あ、たまにファイルが大きいときはWi-Fi環境下で実行するようにメッセージが出るでござるから、きっとそれでござるな」


 その後、無事にゲームを始めることが出来た。

 紹介コードを入力し、特典をもらえた先輩は心底嬉しそうだった。


 元々の約束は「紹介コードを入力すること」で『リンク』をプレイすることは含まれていなかった。でも、先輩があまりに力説するので私も家に帰ったら少し『リンク』をやってみることにした。


 家に帰り、食事を終えた後、横になって『リンク』を起動させる。

 チュートリアルというものが始まったかと思うと私は強烈な眠気に襲われた。


 あ、うん。これは無理だな。

 今日はもう疲れたし。寝よう。


 これが先輩の言っていた寝落ちってやつか……。


『DLモード起動、プログラムをダウンロードします』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る