第10話終業式

「ふわぁ~」


 眠たい目をこすりながら壇上に立っている校長の話を聞く。

 さすがに俺の前に立っている武人も一番まだからか俺に話しかけようとはしない。 

 こういう時に先生にばれないようにこそこそ話すってのがいいんだけど、前から2番目だからなぁ。

 そう思いながら10分が経った。


「あぁ~、やっと終わった~」

「そうだね、さすがに立ちっぱなしはつらいものだね」


 武人が伸びをしながら言ったことに相づちを打つように言う。

 

「なぁ、この後さ、遊びいかね?」

「いいけど、いきなりどうした?」

「ちょっと遊びに誘われたからだよ」


 そう言われて僕の顔が少しだけ嫌な顔になったのがわかった。

 別に誰かと遊ぶのが嫌いじゃない、嫌いだったら僕の部屋に有紗を入れるわけがない。

 だけど、誰かと遊んでいるとつい素が出てしまうかもしれないからいやだった。

 武人にばれるのは割とどうでもいいと思ってはいるけど、他の人は嫌だ。


「ご、ごめんやっぱり……」

「ま、無理でも行くだけ言ってみようぜ。 信じられるやつらしか来ないしな」


 どうしても来てほしそうに僕を見る武人の押しに負けた。



 そのあと、各教室に戻ってホームルーム後に武人と一緒に近くのボウリングなどができるアミューズメント施設に連れていかれた。


「お疲れ~」

「武人、お疲れ」


 そう返される武人の後ろに隠れるように俺は立っていた。

 僕と武人の背はほとんど同じのため、ギリギリ隠れてしまう。 俺からも前はほとんど見えないけど、話し声から男子生徒、女子生徒が合わせて十数人いることが分かった。


「お待たせ、みんな早いね」


 僕と武人の後ろからそう声が聞こえた。 毎日聞いている声、まさかここに来るとは思いもしなかった相手、有紗の声だった。

 思わず、思いっきり振り向いて首を痛めた。

 

「なぁ、どう分ける?」

「私はどこでもいいよ」

「じゃあ、くじで決めようぜ」


 有紗の言葉に男子生徒の一人がそう提案してきた。

 ここでくじとかどう決めるんだよと思ったが、その男子生徒はスマホから何かのアプリを起動した。

 男子生徒は一人ひとりに自身のスマホを渡して何かを入れてもらっていた。


「次、お前ら」

「おう、ありがとな」


 武人は男子生徒からスマホを受け取ると映し出されている画面に名前を入れていく。


「拓斗、お前のも入れとくぞ」

「頼む」


 そう言うと、「おう」と言って俺の名前を入れる。 そのあと、有紗たちにスマホを渡して有紗たちも入れる。

 そのあと、先ほど固まっていた場所に戻って抽選したみたいだった。 抽選したみたいだった、というのはいきなり固まっていた集団が崩れ落ちたからだ。

 崩れ落ちた生徒たちからこちらに恨めしそうな視線がこちらに飛んできたことから、俺と武人が有紗と一緒になったのがわかった。


「がんばれよ、武人」


 さっきの男子生徒とは違う生徒が武人の肩にポンと手を置いてそう言ってきた。

 くじの振り分けに文句とかないのかなぁと思いつつもアミューズメント施設に入っていく集団の後ろについていった。

 三階にあるボウリング場に来ると、くじで決めたグループごとに分かれてレーンを借りていた。

 俺たちのグループは、武人、僕、有紗、有紗の友達二人の計五人だった。


「さて、誰から行く? 拓斗? 有紗さん? それとも俺?」


 視界に入った順に名前を言った後にお決まりのことを言う、武人の額を親指でグリグリと押し付けた。

 痛がるそぶりを見せる武人を見て思わず笑みがこぼれる。


「で、ホントに誰から行く?」

「あっ、じゃあ私から」


 そう言ったのは、確か高坂さんだったかな、さっき名前を見たときの名前は。

 最初に投げるのが僕じゃないと分かって、適当な場所に座ると隣に有紗が座ってきた。


「どうした?」


 そう隣に座ってきた有紗に聞いた。


「理由はないよ。 ただ、無意識に座ってただけ」


 と、返された。 家では別に隣に座るわけでもないのに今日のこの時に限って俺の隣に座ってきた。

 ちょうど真ん中に僕たちが位置しているから周りからの視線が痛い。

 僕と有紗は学校では学年一位、二位を争うライバルであり、仲が悪いと思われているからか、なぜあいつが? という視線が女子生徒からも来る。


「お二人さん、どっちから行きますか?」

「私から」


 そう言ってボウリングボールを持つ有紗。 次は僕の番だから、ボウリングボールを持っておく。

 有紗はスペアを取っていた。


「最後、拓斗。 いいとこ見せてこい」

「お前は僕の親か」


 そう突っ込んでおいてボウリングボールを構える。 投げた球は綺麗に直線にすすんでいくことはなく、横のガターに吸い込まれていった。


「あれ?」


 三年ぶりにボウリングをしたけど、ここまで下手になっているとは思わなかった。

 球が戻ってきてもう一度投げる。 そしてまた、ガターに吸い込まれていった。


「拓斗、お前嘘だろ……」


 武人に笑われながらそう言われた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る