第27話 再び忍び寄る悪意
「なんだよ、クジラでも出たのかと思って見に来たら、さっきのおっさん筋肉君じゃん! 萎えぽよなんだけど!」
「だからこんな所にクジラなんかいるわけないって言ったじゃん! 摩耶バカすぎんだろ! ギャハハハ!!」
「……摩耶、沙耶」
せっかくみんなで楽しんでいたのに、それをぶち壊すように現れた金銀コンビは、ヘラヘラと笑いながら近寄ってきた。
……正直な話、こいつらの性格ならまた絡んでくるとは思っていたけどさ。わかっていてもイライラさせられる。
「東郷さん、俺の後ろに」
「う、うん……」
「うっわなにそれナイト気取り? ギャグかよウケる~!」
「え、何この品の欠片もない人達。うっざ。おにぃの知り合い?」
「さっきの海の家で一件の人。金髪の方が麻耶さんで、銀髪の方が沙耶さん」
「あ~……この人達が。なんか見た目だけでなるほどなって思っちゃうよ。まあ名前とかどうでもいいや。おにぃ、やるよ」
「おい馬鹿やめろ」
ぶん殴りたい気持ちは痛いほどわかるが、これで感情に任せて殴り飛ばしても、こちらが悪者になるだけだ。ここはグッと我慢。
「何ブツブツ言ってんだよキッモ~。そういえばおっさん筋肉君はこの辺の人なん?」
「おっさん……そげん酷か呼び方で、雄太郎くんば呼ばんで!!」
「ギャハハハハ!! なに司、まだそんな方言使ってるわけ!? ダサすぎんだろ! アタシらの可愛さには全然勝てないとはいえ、少しは野暮ったさが抜けたと思ってたのにガッカリ~!」
「そうか? 品の欠片もないあんたらよりも、東郷さんの方が魅力的だと思うが」
冷静に、そして淡々と言うと、ずっとヘラヘラ笑ってた金銀コンビの表情が曇った。
「おい筋肉、お前司と同級生だろ? 一応ウチらの方が先輩だって事わかってるのか? さっきみたいに敬語使えやボケ」
「さっきは接客中だったからな。敬語を使ってほしかったら、それ相応に敬われるような態度を取る事をお勧めする」
「なに偉そうな態度取ってるわけ? ナエポヨなんだけど。言っておくけど、ウチら都内の有名大学とその付属高校に通ってる優等生だかんね? あんたらより勝ち組ってわけ」
金髪の方は偉そうにツインテールをかき上げながら自慢をするが、心底どうでもいい。いくら凄い学校に通おうが、それが尊敬される人物には結びつかない。
とにかく、もっと遊びたいからこんな連中に構ってる暇はない。さっさと質問に答えて帰ってもらおう。
「そういえば、質問に答えてなかったな。俺達はここの住人じゃない」
「はーん。じゃあ旅行的な? あれ、でもバイトしてたじゃん」
「近くの宿に泊まって、親戚が経営してる海の家の手伝いに来てるんだよ」
「いや真面目かよ。真面目おっさん筋肉君じゃん! ウケる~!」
「ギャハハハハ! なげーよ! 言いにくくて舌噛むわ! ちなみにその宿って『極楽』とかいうクッソダサい名前の和風の宿?」
「ああ」
「一緒じゃんウケる~! じゃあ部屋番教えてよ! 遊びに行ってやっから!」
遊びに来るとか言ってるが、どう考えても俺達を馬鹿にするために来るのが本音だろう。そんな連中を招き入れると、本気で思っているのか?
「断る。質問に答えたから帰ってくれ」
「ノリわっる。そんなんだから、司みたいな売れ残りを食う羽目になるんだよ! ギャハハ!」
「っ……! 東郷さんは売れ残りなんかじゃない。一人の素晴らしい女性だ!」
「きゃっ……雄太郎くん……!」
あまりに苛立ってしまった俺は、東郷さんを守るように、そして俺から離れさせないように、彼女の肩をぎゅっと抱き寄せた。
何事にも一生懸命で、可愛らしくて、普段やらない料理を俺のためにって作ってくれるような優しい子が、売れ残りなわけがないだろう! もしそうなら、世界中の人間の目は節穴だ!
「やっぱナイト気取りじゃん。それか旦那気取り? どっちみちうっざ~! 沙耶、ナエポヨだからてっしゅ~」
「はいよ~」
一通りからかって満足したのか、それとも俺に反撃されたのが不服だったのか……理由なんてどうでもいいが、とりあえず追い払う事は出来た。
出来たけど……あいつらがこのまま終わるとは考えにくい。もしかしたら、俺に言われた腹いせに、東郷さんにちょっかいを出してくるかもしれないな。気をつけておかないと。
「あ~もう! 本当にムカつく人達! あれで司先輩と少しでも同じ血が通ってるなんて信じられない! 美桜、ストレス発散に泳いでくる! 司先輩の事、よろしくね!」
「ああ、わかった」
そう言うと、美桜は沖の方を目指して泳いでいってしまった。残された俺は、東郷さんの肩をギュッとしたままに気づき、急いで離れた。
うぅ……いくらあいつらから守るためだったとはいえ、これはやってしまった……早く謝らないと。
「東郷さん、ごめ――」
「……ごめんね。私がいるせいで、嫌な気分にさせたよね」
「え? 東郷さんが謝る理由は何もないよ。おれこそ肩を抱いてごめんよ」
「う、ううん! 全然大丈夫!」
「ならよかった。あんな人達の事なんか気にしないで、思いっきり遊ぼう」
「…………」
「そうだ、ビーチボールを持って来てるから、それで遊ぼうか」
「雄太郎くん……うん、そうだね!」
よかった、少し元気になったっぽいぞ。この調子で一緒に遊んで、もっと東郷さんに楽しんでもらって、最高の夏だった! って言ってもらおう! あんな連中に邪魔されてたまるか!
「それでなにする? 普通にポンポンする?」
「えっと……そうだ! 私、雄太郎くんにしてほしい事ごあるの!」
「してほしい事?」
「うん! 雄太郎くんが思い切りビーチボールをスパイクしたら、どんな感じなのかなって!」
あー……なるほど、確かに全力でやった事は無かったな。確かにちょっと気になるし、やってみようか。
「じゃあ私がボールをあげるね~!」
「いつでもいいよ」
「うん! はいっ!」
東郷さんの手から放たれた優しいトスは、優しい弧を描きながら俺の前に来た。それを――渾身の一発を込めて、ボールを叩いた。すると――
――パアン!!
「「あっ」」
俺達の『あっ』が揃った時にはもう遅かった。ビーチボールをあまりにも地面に強く叩きつけたせいで、割れてしまったようだ。
これでは使いものにならないじゃないか! 東郷さんの前だからって張り切りすぎだろ! これじゃいくら東郷さんもドン引き――
「凄かぁ!こげん破壊力ば出しぇるなんて、雄太郎くんはさすがばい!」
「あ、ありがとう。あと方言出ちゃってるよ」
「はっ……ご、ごめんね。つい興奮しちゃって……」
「ううん、大丈夫。ボールが無くなっちゃったけど……」
「じゃあ泳ごう! って言いたいんだけど、私泳げなくて……」
「それじゃあ、俺が教えるから、浅いところで泳いでみない?」
「いいの? なら……やってみたい!」
よし、方針が決まった。この後は時間一杯まで東郷さんの水泳教室だ! せめて今よりは泳げるようになってもらいたいな。
――と意気込んだのはいいんだが。
「ブクブクブクブク……」
「東郷さーん!?」
まずはけのびから見せてもらおうと思ったら、東郷さんは地面に吸い寄せられるように沈んでいってしまった。
も、もしかして東郷さんって相当な金づちなんじゃないだろうか!? これは教えがいがありそうだ……!
「ねえ沙耶、あのままなんてムカつくし、あの筋肉を使ってさ、司に嫌がらせしない?」
「お、摩耶面白い事言うじゃん! それじゃ、次に宿で筋肉を見かけたら、仕掛けてみますか~!」
「りょ! アタシらの美貌があれば、男なんてヨユーヨユー! ちょっと上目遣いをして、おっぱいをムニュンムニュンすれば、はい大勝利ー! イエーイ☆」
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【あとがき】
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