ドキドキしたり興奮すると博多弁が出てしまう美少女転校生と仲良くなったが、実は彼女は俺を弱い者いじめから助けてくれたヒーロー(男子と勘違いしてる)という事を俺は知らない

ゆうき@呪われ令嬢第二巻発売中!

第一章 方言少女との出会い

第1話 筋肉委員長と美少女転校生

「おい聞いたか!? うちのクラスに転校生が来るって話!!」


 高校二年生の七月の初め。今日はこの話題をよく耳にする。転校生が来るというのは、一大イベントだ。みんなが浮足立つ気持ちもわからなくはない。


 そんな中、俺――綾小路あやのこうじ 雄太郎ゆうたろうは、新しい仲間が使うであろう机を教室の中に運び込むと、自分の席の後ろに置いた。


「おい、筋肉委員長様は、転校生ってどんな感じだと思う? 俺は美少女と睨んでるんだが」


 自分の席に座った俺の元に、クラス一のイケメンである茂木もぎ君が、ニヤニヤしながら歩み寄ってきた。


「女子って決まってるわけじゃないんだろう?」

「はっ、さすが筋肉ダルマはノリが悪いな。だからお前は友達の一人もいないんだよ」


 茂木君は俺をバカにするように笑いながら、自分の席へと戻っていく。彼は俺の事が好きではないのか、たまに絡んできては、バカにするような態度をとってくる。


 ちなみに筋肉委員長と筋肉ダルマというのは、俺のあだ名だ。その由来だが、クラス委員長をしているのと、俺が生粋の筋トレ馬鹿でムキムキだからだ。


 それを象徴するように、席に着いてからすぐに左手で参考書を持ち、右手でダンベルを上げて鍛えている。


「ほら席につけ~お前らご待望の転校生の紹介をするぞ~」


 うちの担当の先生の言葉で、教室内が騒がしくになる中、一人の女子生徒が入ってきた。その瞬間、騒がしかった教室の中は、静寂に包まれた。


 身長は百四十前半くらいしかないだろうか? かなり小柄だ。真っ黒でストレートな髪は、背中の真ん中くらいまでの長さがある。出る所はそれなりに出ていて、引っ込む所は引っ込んでいる、清楚な雰囲気の女の子だ。


 そしてなにより、ものすごく顔が整っている。ぱっちりした大きな黒い目、シュッとした鼻、少しぽてっとした唇……本当に全てが整っていて、可愛らしさを演出している。


 あれだけ騒がしかったクラスメイトが、息を呑むように一瞬で黙ってしまうのも、無理はないだろう。


 それにしても……なんだ? どこかで彼女を見た事があるような……いや、会った事があるような? 気のせいか?


東郷とうごう つかさです。これからよろしくお願いします」

「みんな仲良くするんだぞ~。東郷の席は窓際の開いてる所な。あの筋肉の後ろ」

「はい」


 東郷さんは小さく返事をすると、俺の後ろの席にちょこんと座った。


 俺のようなデカい男の後ろでは、黒板が見えないんじゃないだろうか。少し心配だ。もし見えないようだったら、先生に相談して席の交換をしてもらおう。


「東郷 司さん、俺は綾小路 雄太郎。よろしくね」

「っ……!? あや……え、うそやろ……ほんなこつ……えぇ!?」

「……? 東郷さん?」

「あ、その、えっと! よ、よろしくね!」


 なぜか東郷さんは俺から視線を逸らしながら、少し焦った様に挨拶をした。なんだか顔が少し赤い気もするけど、気のせいだろう。



 ****



 キーンコーンカーンコーン――


「筋肉委員長! さっきは代わりに机を運んでくれてありがとう! 日直だから運べって急に先生に頼まれちゃって」

「あ、ううん。気にしないで。一階から教室のある四階まで運ぶの、大変だもんね」


 今日の授業も無事に終わり、片付けて帰ろうとしたところに、黒髪のボブカットとややつり目が特徴的なクラスメイトである、加古かこさんが話しかけてきた。


 彼女とは訳あって、小学生の頃から少しだけ交流がある。彼女が机を持ってこようとしていたんだが、少しよろけながら階段を上っている姿を見かけたから、代わりに運んであげたんだ。


「えっと、あなたが私の机を運んでくれたの?」

「うん、そうだよ」

「筋肉委員長って、細かい気配りができるっていうか……困ってるとすぐに助けてくれるんだ! この前とかね……」

「あ、あはは……」


 なんか急に俺に助けてもらった事の暴露会が始まった。そんなに褒められると、体がむずがゆくなってくる。


「……見た目は別人みたいだけど、そういう所は変わってないなぁ……」

「……東郷さん?」

「あ、ううん! なんでもないよ!」

「そっか。それじゃ、俺はそろそろ帰るよ。また明日」

「あっ……待っ……」

「司ちゃ~ん、今日暇かい? よければ俺達が学校案内してあげるよ」


 少し歩いてから、東郷さんを呼び止める声に反応して振り向くと、丁度茂木君が取り巻き達と一緒に、持ち前のイケメンっぷりを活かした、さわやかな笑顔で東郷さんに話しかけた。


「えーっと。私ちょっと……」

「まあまあいいじゃん! 楽しい学校案内にしてあげるから!」

「いやっ、離して!」


 笑顔は残したまま、茂木君は東郷さんの腕を掴んだ。


 彼は見た目がかなり良いだけではなく、勉強も学年で二位で、スポーツ万能。家も金持ちと、かなり凄いんだが、素行が悪いという噂がある。不良の先輩と一緒にいたとか、暴走族とバイクに乗っていたとか。


 それもあってか、クラスメイト達は茂木君やその取り巻きにあまり関わらないようにしている。実際に、他のクラスメイトは遠巻きに東郷さん達のやり取りを眺めるだけで、誰も助けに行こうとしない。


 ……俺としても、あまり茂木君達には関わりたくないのが本音だ。


 でも、もしかしたら茂木君達は、東郷さんに何か変な事をするつもりかもしれない。そんな事になったら、東郷さんの新しい生活が台無しになってしまうだろう。


 そんなの……あまりにもかわいそうだ。そう思った俺は、茂木君と東郷さんの間に割って入った。


「すまない茂木君、彼女の案内は、クラス委員長として、俺がするよ」

「あぁ? 出たな筋肉ダルマ……ごほん。委員長、俺は司ちゃんに用があるから、そこを退いてもらえるか?」

「俺も君に用はないんだ。用があるのは東郷さんだから」

「このっ……ただでさえ常に俺よりも勉強が出来てムカつくのに、こんな所でもしゃしゃり出てきやがって……本当にムカつくぜお前」

「勉強の出来は今は関係ないだろう?」


 俺に敵意剥き出しで睨みつけてくる茂木君。


 まさに一触即発な空気の中、俺の後ろにいた東郷さんが、俺の隣に立って静かに口を開いた。


「えっと、茂木くんでいいんだよね? 私、あなたのような口の悪くて乱暴な人よりも、この人に案内してもらいたい。雄太郎くん、早く行こっ」


 そう言った東郷さんは、俺の手を掴むと、足早に教室を後にした。


 急に引っ張られて驚いたけど、あそこで無駄に時間を浪費するよりも、今みたいな力技の方が正解かもしれない。


 それにしても、急に手を引っ張られて少しビックリしてしまったが……こうして他人と手を繋いでいると、幼い頃に俺を助けてくれた男の子――名前も知らないの事を思い出すな……。



――――――――――――――――――――

【あとがき】


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