おまけ話 リコはメイド長に……しめられます。ぴえん。
私はメイド長の正面に立たされる。
「リコ、今からすることは他言無用ですよ」メイド長はいい放つ。その顔はいつもの無表情だった。
「ぴぃ……おしおきするんですか……えっちな……?」私は自分を抱きしめ、ブルブルと震えを加速させる。
「は……? そんなこと、するわけないでしょう。私をなんだと思ってるんですか……」無表情のまま、首をかしげる。
「さて、リコ。今から涙を流せますか」
「え、涙……泣くってことですか?」
「ええ。できますか?」
「でき……やり、ます」泣いたら、許してくれそう……それに、今この状況ならすぐに泣けそう。
メイド長の顔を見つめてみる。「……」メイド長も何も言わず、見つめ返してくる。ぴぃ怖……でも、怖く感じるのは雰囲気だけなのかも。
メイド長は見た目だけなら、とても憧れる。身長は高くすらっとしていて、顔はとても美形だ。テレビや舞台に出てくる女優と言われても、納得してしまうほどに。
美人だなぁ……と見とれてしまう。はっ、いけない。泣かないと。
「あの、ビンタしてもらってもいいです?」
「……は?」メイド長は眉をひそめる。
「涙、でなくって。ほっぺを一発、はたかれたらでるかも……」
「流石にそんなことはしません。やっぱり私をなんだと思ってるんです? そこまで無理に泣かなくてもいいです」
ずい、とメイド長は私に向かって一歩踏み出し、両手で私の両肩をつかむ。ぴぃ! このままだと何されるかわからない。
「まままま、待ってください! じゃあ叱るときの表情とかってできます?」
「まあ、それなら」とメイド長は眉をあげ、目を釣り上げる。口角もさがり、叱っているときのそれになった。
ぴぃ、すごい迫力。……あ。叱られた時の事、思い出しちゃった。
ここで働きはじめたころ。私は皿洗いをしていて……指を滑らして、お皿を床に落として割ってしまった。テンパった私は慌てて欠片を拾ったら、指が切れちゃった。気づいたメイド長はすごいスピードで飛んできて、すぐに手当をしながら、私を叱った。痛いし、怒られるしで半分ベソをかきながら謝った、そんな怖い記憶があった。
つう、っと涙が流れる。「お皿落として……ごめんなさい……」思わす言葉がもれる。
「お皿……ああ、あの時の事ね」メイド長も思い出したみたいだった。
すっ、とメイド長の表情が無にもどる。更にそこから、口角が……あがった。にこり、と微笑んだ。
「ふぇ?」見たことのない彼女の表情をみて、私はぽかんとしてしまう。
肩を引き寄せられ、ぎゅ、と抱きしめられた。
「ぴゃ……やわらか……あったかい」驚いた私は抱いた感想をそのまま口にだしてしまう。
「よしよし」そっと、甘くささやきながらメイド長は私の頭を優しくなでてくれる。その表情は、まるで我が子をあやす母親のようにやさしく……美しかった。
私は顔を彼女の胸に埋める。「メイド長のおっぱい……見た目よりおっきい」つい、そんな感想をもらしてしまう。
「ええ、なんか私着痩せするタイプらしいわ。ご主人……母様に負けないくらいあるみたい」砕けた口調でメイド長はいう。
「しゅごい……ふにゃあ……」ついほっぺをふにふにと押し付けてしまう。
「ふふ、リコちゃんって甘えるの好きなのね……かわいいわ」普段なら絶対に言わないセリフをメイド長は囁く。そのギャップで私はまた、ほっぺが緩む。
「だってぇ……こんな優しくなるなんてずるい……あの、ほっぺつねってもらえます?」
「えっ、もう泣く必要ないわよ……」
「いや、夢かなと」
「夢じゃないわよ……ほら」ぷに、と私のほっぺをつまんでくれる。
「ぴにゃぁ……げんじつだぁ……」
「ふふ。顔がとろけてるわよ」ぷにぷにとほっぺをひっぱり続けながら、メイド長は言う。
私は甘やかされるのにとっても弱い。スイも優しいから二人きりになったときはたくさん甘えさせてくれる。
「ね、涙とまったでしょ?」メイド長はふわりとほほえむ。
「はぃ……適当なこと言って、ごめんなさぃ……」
「ううん、普段の私からはわかるわけないわよね。それに」そこでメイド長は言葉を切る。
「それに?」
「お皿落としたときに叱りすぎちゃって、リコを怖がらせたなって、反省してるの……ごめんなさいね」
「ううん、私がお皿を落としちゃったのが悪いんです」
「……勘違いしてるわね。私が叱ったのは、お皿を落としたことじゃないの」
「え」
「誰だってミスするんだから、お皿の一枚や二枚落としたっていいのよ。私が叱ったのは……あなたが割れた破片を拾ったことなの」
「そう、なんですか……」あのときの私はテンパって何を怒られてたか覚えてなかった。泣きながらひたすら謝ってた。
「慌ててたのはわかるわ。でもね、素手で拾っちゃだめ。貴方のきれいな手が傷ついちゃうから」メイド長は私の手を取り、自分の手で包み込んでくれる。あったかぁい……。
「私も怪我したリコを見て、びっくりして強く叱っちゃったのよ。だからもう……しないでね」
「はい……もう絶対にしません。ゆびきりげんまんします」
包み込まれている手をずらし、メイド長の小指に自分の小指をきゅっと、絡める。
「うんうん。いい子ね」きゅ、と小指を絡め返してくれる。
そこからもう少し、私はメイド長に甘える。隠れ巨乳に顔を埋めさせてもらう。はぁ、幸せ。
「このことはみんなには内緒よ。たまに甘えさせてあげるから」人差し指を口の真ん中に置きながら、メイド長はしーっとする。
「はい、秘密にしておきます。お口チャックで!」と私は約束する。
メイド長の部屋をでると、スイが待っててくれていた。
「怖かったよぉ」と私はかけよってスイに抱きつく。最初は本当に怖かったから、嘘ではない。
「ありゃま。こってり絞られた?」私を抱きとめながらスイはたずねてくる。
「えっと、そんなに……」私が言いかけたその瞬間……後ろのドアが開き、メイド長が出てきた。
じ、と振り向いた私と目が合う。普段と変わらない、無表情だった……けれど、心なしか目だけは、ほほえんでいるように思えた。
「あ、どうも」とスイはあいさつしていた。
「どうも」とメイド長は返し「二人とも、少ししたら仕事に戻りなさい」と表情のない、冷たい声で告げる。
そして廊下を歩いて去っていく。コツ、コツと大理石の床に足音を響かせながら。ぴぃ、怖……さっきの優しいバブみあふれるメイド長が夢みたい。
「スイ、ほっぺつねって〜」
「え、こう?」言われたとおりにきゅっとつまんでくる。けっこう強い。
「いててて! 夢じゃないや……」
「夢と思いたいほど絞られたん? 一体何されたん……?」スイはすこし心配そうな表情をする。
「あ、いや……大丈夫だよ」メイド長のバブみは秘密にしとかないと……でも、スイに嘘はつきたくない。
「うんと……ひみつ」私は素直に伝えとくすることにする。
「ひみつ? まあ、言いたくないならいいけど」
「とりま、甘えさせてよ〜」私はスイの胸に顔を埋める。体温が高いからか、とっても暖まる。
「よしよし、つらかったんだねぇ……」スイは抱きしめながらぽんぽんと、頭をなでてくれる。
はあ、今日はたくさん甘えられる……幸せだぁ。ほこほこしながら、私は顔をとろけさせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます