第5話  契約

 取り急ぎ、三郎の求めに応じ、三郎達が着る服を用意して貰う事になった。特にこれから町に買い物をするにしても、町に繰り出す為の服がない。そういう事で一般人や冒険者が着るような服を用意して貰う事になった。


 三郎は奴隷について強く要望を出した。明日支度金で服を買い与えるが、町まで行く時に着る服がない。また履物もなく今も裸足でいるので、最低限の物でも良いから一般市民が着ているような服を用意するように伝えた。


 一部の者がお偉方からの指示で準備に追われていた。また奴隷商人が来ており、割り当てられた奴隷と奴隷契約をする事になった。


 三郎が奴隷に対して否定的な意見を出していたが、もしもこの奴隷を受け取らなければ、この奴隷は他の者に売られると言われたのだ。


 別の主人に奴隷としてこき使われ、性奴隷となる事が関の山だろうと。それを聞いて悪態をついたが、この国、この世界のシステムとして奴隷制度がある以上、今の三郎達にどうする事もできず、せめて関わってしまったこの子だけでも守ってやろうとは思うが、奴隷全体をどうこうするような考えまでには及ばなかった。偽善行為だと分かっているが、せめて関わった子を自分の相棒として、この世界の事について教えて貰ったり、これから先町の外に出ないといけないと言っていたが、右も左も分からないので道案内は必ずいる。というか導き手を切実に必要としていた。また、常識も分からないので、その常識を教えてくれたり、自分がこの世界で生き抜く為の協力者、仲間の一人として対等な立場として接しようと思い、渋々とだが受け入れる事にした。その考えが甘いのだとは思いもよらなかったのだが。


 奴隷商は3人と順番に契約していった。 

 指先を軽く針で突いて血を出し、採取した血に魔力を込め、その血を使い奴隷商が奴隷の首の後ろに魔方陣を書き込んでいた。そして光り輝くその魔法陣に主人となる三郎達が手をかざすと奴隷契約が完了した。三郎はただ黙っていたが、複雑な気持ちから押し黙っていたのだ。周りの者はその恐ろしい形相に引いていた。


 奴隷は主人の命令に逆らえない。逆らうと激しい頭痛に襲われ、次第に息ができなくなり、やがて死に至る。くれぐれもしないようにと言われた事がある。矛盾した命令だ。


 また自殺も命じてはならない。最も自殺を命じた場合は奴隷も拒否できる。矛盾した命令とは、主に対して致命傷を負わせる事が禁じられているが、ナイフで主人たる自分の事を刺せとか、そういう命令をしてしまうと、どうしようもならない状況になり、奴隷が苦しむだけだと言っていた。ただ、殴る蹴るをしろと命令する者もいるそうだ。例として時折そう言う性癖の持ち主が、秘密を守れる奴隷に自分をいじめる役をさせ、悦に浸る者もいると。致命傷でなく、悪意が無ければ主人の許可が有れば手は出せるのだ。SMかよ?と三郎はため息をついていた。


 注意事項として奴隷の主は命を狙われる事が多いと言っていた。

 奴隷を奪う為だ。主人が死んでしまった奴隷は野良奴隷となり、速やかに奴隷商のところに保護を求めなければならない。というのは魔力を持った者が主のいない奴隷の首に手を当て、魔力を流すとその者が新たな主人となるからだ。そう、先程首に手をやり魔力を流していたのだが、魔力を流してと言われ、やり方が分からないと言い掛けたが、何故か3人ともできていた。


 この世界の者は多少なりとも魔力を持っているが、召喚された者は例外なく膨大な量の魔力を持っているという。特に魔法使いの魔力は尋常ではないと言っていた。

 例えば剣のスキルを発動するにしても、魔力を糧としスキルを発動する為、剣の勇者も魔力が必要なのだ。また、魔力を持っていても使えるのは1割にも満たない。使える者は魔力持ちと言われている。


 側近が話を始めていたが途中からかなりの者達が欠伸を噛み殺しているのが分かる。国王に至っては完全にあくびをしていた。三郎達もかなり眠かった。聖哉に至ってはコクコクと寝ていたのだ。時折渡井がつついて起こしている感じだ。無理もない。召喚から今は3時間ほど経過していただろうか。今の時間は普通の者であれば寝ている時間であった。宿が燃えたのは21時位だろうか。なので3人の中では今は0時位である。たまたまだが、この国の今の時間も概ねそれ位の時間だ。召喚の儀式自体は昼一番に始めていたのだが、中々召喚が発動せず、結局夜になってから召喚が発動したのだ。

 正確には魔法陣は昼には発動したが、召喚者が転送されて来るまでの時間がかなり長かったのだ。


 召喚術自体は成功していて、あとは召喚者が転送されてくるのを固唾を呑んで待つだけだ!そういう状況になっていた為、皆その場から離れられずにいたのだ。


 変だと思うべきだった。ここには数百人がおり、国王までずっと待っていたのだ。騎士団や神官達までいる。


 普通で考えたら、召喚に必要な者の身で良い筈だ。精々十数人がその場にいて、日を改めてからこの人数のいる場所でお披露目をすれば良いのだ。ましてや国王等は召喚が成功してから現れるものだろうと。確かに即時現れると思い立ち会っていたのかもだが、時間が掛かっていれば、一旦隣室や執務室に退き、成功した後に部下が報告しに来てから顔を出す感じだろう。目まぐるしい状況であり、皆自分の事で一杯一杯だった。だが、それでも渡井だけは疑問に感じていたが、三郎はそれには気が回らなかった。渡井も二人に告げる程余裕はなかったし、口に出す程の事とは思えなっかた。折角疑問を感じていたのだが、対処するだけの知恵がなかったのだ。彼の持ち味はその洞察力の鋭さだったが、残念なのはそれを活かすだけの頭のキレがなかった事だろうか。


 ただ、いち早く皆が眠そうにしていると気付いた渡会が一言言った。


「ちょっといいですか?その、皆様もそうですが、私達 も夜に召喚され、本来もう寝ている時間です。かなり眠く、折角説明をしてくれている事が頭に入らなくなってきています。なので一旦終わりにし、今日のところは休ませて頂き、また明日説明して頂けませんか?」


 その言葉に王がハッとなった。


「うむ。そうであるな。確かに皆が疲れておると思う。勇者わたらい殿のおっしゃる通り、今日は終わりにして明日続きをする事にしよう。それでは皆大儀であった。勇者様方はこの後お部屋と着替えを用意していると聞いておる。もう夜中なので今宵はゆっくり休んで欲しい。それでは皆の者これにて解散とする。また明日話そう。それでは」


 そう言うと王はあくびをしながらその場を退出していった。そこからはぞろりぞろりとあくびをしながら皆その場から退出した。そして三郎達を部屋へ案内する案内人が三郎達3人を各々の部屋へ連れて行った。そこは王族用の客間のようで、三郎、渡井、聖哉の部屋、そういう順番であった。そして当たり前の如く奴隷の少女達も各々の主の後ろをついてくる。今はマントを羽織ってはいるが、その下は粗末な貫頭衣であった。

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