第二章 逃亡編
第9話 勇者の死
「どうもまずそうだね。三郎君、荷物は持っているかい?」
「はい。全て収納に入っています」
「多分戦になっているよ。悪いが早速僕の部屋に壁抜けで行きたいんだ。荷物がそのままなんだ」
三郎は袖を捲り左腕を出した。言わずとも分かってくれたようで、三人共そっと腕を掴んだ。
行きますよと言い、4人で隣の部屋に行った。急ぎ荷物をまとめてと言っても、召喚された時の服やお金、用意された服位だ。背嚢が部屋にありそれを剛は背負ったが、他は三郎が収納に入れていった。
金属の当たる音、叫びや怒声が聞こえてきた。何がなんだか分からないが、争いが起こっているとしか思えなかった。
そして荷物を回収している最中に隣の部屋から悲鳴と怒声、物音が聞こえてきた。
「何だてめえら!ふざけるな!何しやがる。俺様が勇者と知って歯向かうのか?ええ!ただじゃすまねえぞ」
「いました!勇者です!やはり召喚していました!」
「殺せ!まだ召喚直後だろ!?今がチャンスだ!」
金属の当たる音がしたが、やがて聖哉の絶叫と奴隷の子の悲鳴がした。
「どうやら隣が襲われたようですね。放っても置けませんから助けに行きます。剛さん、二人を頼みます。やばくなったら悲鳴を上げてください。それとこの部屋にドアから入って来る者は躊躇わずに射てください。僕は扉は使いませんから、扉から来る者は敵と見做してください」
「分かった。こちらは何とかするが、君も無理しないで。僕は矢で攻撃するのではなく、スキルで身を潜めるよ。その隅にいるから、見付てくれないか?」
三郎はそうだったなと頷き、ヌンチャクを構え隣の部屋に壁抜けで行った。
すると聖哉が壁に串刺しにされ息絶えているようだった。一足遅かったのだ。
そして奴隷の子は犯されている最中で、服を破られ裸にされていた。聖也を殺した異国の兵がズボンを降ろし、陰部を出そうとしていたがまだ事後ではないようだ。
「悪く思うなよ。主無し奴隷はやれるからな!初物だと嬉しいな!おらあ!行くぜ」
三郎は怒りに任せ、まだこちらに気が付いていないその兵の頭を文字通り吹き飛ばした。ヌンチャクの一閃で。
入り口にいた他の兵がそれに気が付き、貴様!と叫びながら三郎に斬り掛かった。
しかしヌンチャクの一閃で剣を叩き折り、そのまま鎧ごと弾き飛ばした。
口から血を吐きながら悶絶し、やがて息絶えた。
「君、大丈夫?くそ、聖哉さんは殺られたのか!君大丈夫か?」
「は、はい。ご主人様が死んでしまい、野良奴隷になってしまいましたが、まだ服を破られただけでやられていません。ですからどうか助けてください!」
「大丈夫そうだね。とりあえずそれを着て。怪我はない?とりあえず僕の奴隷にしておくから、ここから逃げよう」
そう言って首の後ろに魔力を流した。先の兵は魔力無しだったようで、戦利品として自らの奴隷にできなかったようだ。
「ご主人様、その、私、まだ生娘ですから、その、捨てないでください!その、犯される前に助けて頂きありがとうございます。私、生娘ですから!」
「大丈夫だから、そんな事しないから。例え生娘じゃなくても見捨てないよ。わ、分かったからそれよりも早く服を着て!着たら隣に行き、ここから逃げるよ。さっきは油断している所に不意打ちだったから何とかなったけど、そんな幸運は続かないと思うんだ」
国が用意した外行きの服がベッドにあり、急ぎ着させた。泣いていてどうにもならなかったからだ。目の前に生の胸が有ったが、堪能する余裕はなくバンザイをさせてワンピースを着せた。下着を履かせる余裕はなく、ワンピースを着せるのが精一杯だった。それと多分聖哉のだと思う剣が落ちていたので拾い、机にあった支度金や荷物を収納に入れた。聖哉は殺される前に二人を倒したようだが、多勢に無勢だったのだろうと、無念だと思うも剣を抜く余裕はなかったが、せめてもと思い目を閉じてやり、助けられなくてごめんと一言呟いた。
そして兵士の剣を拾い、奴隷の子の手を掴むと強引に引っ張った。えっ?と唸っている間に壁抜けで隣の部屋に行った。その時に丁度聖也と剛の部屋に兵が押し入ったようで隣の部屋に入った瞬間にばったりと鉢合わせになった。
三郎は剣を剛達がいる筈の部屋の隅に投げ、奴隷の子をその方向に突き飛ばした。剣は身を護る武器を渡す為だ。
そしてハッとなった兵士が振った剣をヌンチャクで受け止め、返す形で頭を叩き割った。そいつは脳漿をぶち撒けて即死した。
奴隷の子は剛達が受け止めたようで、気配と悲鳴が消えた。もうひとりいたが、剛の矢により倒れたようだ。どさっという音で敵兵が背後にいたのだと気が付き、冷や汗が出た。
三郎はとりあえずドアを閉め、部屋の隅に行った。すると剛が触れてきたので4人の存在が見えた。
「聖哉さんが死んだんだって?で、三郎君がこの子の新たな主人になったんだよね」
「あっ、はい。どうやら野良奴隷になると貞操を守れないようなので、仮として僕が主人になりました」
「そのようだね。確か奴隷は主人が認めない限り、主人以外とは姦淫出来ないんだよね。逆を言うと、主人が無事ならこの子達の貞操を守る切り札になるんだよね。少なくとも僕はミライにそうするよ」
遠慮気味にソフィアが問うてきた。
「あのう、そ、その通りなのですが、今はそれを話している状況ではないような気がしますが、どうでしょうか?」
「ソフィアさんだっけ?君の言う通りだね。先ずはここから逃げよう。えっと僕は剛だ。僕に触れている間はこうして気配を消せるんだ。それと三郎君は今見た通り触れている者なら一緒に壁抜けが出来る。これを駆使してまずはこの王城を脱出したいけど、力を貸してくれないかい?残念ながら僕達は召喚されてからこの城の一部しか知らないし、この世界を知らなさ過ぎる。しかも今は何が起こっているのかすら分からないんだ」
「はい、ご主人様」
ミライが返事をした。
三郎がソフィアともうひとりの奴隷に頷いた。すると二人共やはり
「はいご主人さま」
と答えた。
「えっと、君の名は何ていうの?やっぱり僕が名を付けなければならないの?」
「はい。宜しくお願いします。前のご主人様は明日名をつけるから今日は寝かせてくれと言われ、部屋に入ると一分もしないうちに寝てしまわれましたから」
三郎は少し考えてからアルテミスと名を告げたのであった。
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