壊してそのままって訳じゃないよ
無事にサリーと合流し、リンザーラ王国を見渡せる山の頂きに登った。
妖精を抱えたサリーは暗い顔をしているも、最初の頃と比べるとだいぶマシになった方か。
「ねーねー、サリーはヨウマさんの魂見なかった?」
『えっと……見ていませんよ?』
「そっかぁ、どこ行ったんだろ。見つけないと他の上位者が手を出すかもだし見つけておきたいんだけどなぁ」
『魂を探すともなると、ここは魂が多すぎて探しづらいですね』
「う〜ん……でも必要な処置だし。まあいっか!この世界が崩壊すれば一緒に消えちゃうだろうし!」
ボクが魂を集めるのは、他の上位者の手に渡ることを防ぐためだけではない。彼らが異世界へ行ったことによる世界の穴を、彼らの魂をコピーして埋めることが一番の目的だ。
「ハナさんとススムさんの魂はもうコピーしたし、彼らの記憶から情報組み立てて作ろっと……さてさて、お待ちかねの世界崩壊だ」
引きちぎった空間にヒビが入り、少し力を入れればガラスのように割れた。
ちぎれた穴もヒビが広がり、端から割れて消えていく。
「う〜ん……何度見ても飽きない。壊れていく世界を見ると、また一つ異物が消えたことに清々する」
ヒビは空間だけでなく、木々や大地などにも広がっていく。やがてリンザーラ王国にも達し、転がった死体や崩れた建物も割れて消える。
ボクは、世界を壊すといつも心が弾んでしまう。
ピョンピョンと飛び跳ねたりして全身で表してしまうくらいには、ボクの心はウキウキともワクワクとも似る、言い様のない弾みに襲われるんだ。
それがたまらなく心地いい。
そして、こんな気持ちになるとボクは毎回誰かに必死で気持ちを共有したくなってしまう。その時は大抵そばに居てくれるサリーがいつもその対象となってしまう。
ちょっと子供っぽいな。
「サリー、俯いてないでご覧よ!こんなにも気持ちがいいことは他に無いからさ!」
『…………』
「もう!そんなに悲しそうな顔しないでよ!こんなにも楽しいことを前にしてるんだから、もっと笑顔じゃないとダメだよ!」
『……そう…ですね…』
「むう……いっつも苦しそうだね。そんなに、世界が崩壊する様を見るのは心が痛む?言っちゃ悪いけど、もう慣れてよ!今まで何十回も何百回も見たでしょ?」
異世界人が介入した世界、上位者によって悪戯に歪められた世界、有り得ざる
底なしに優しさと慈愛に溢れた上位者であったサリー。慣れもせず心を痛める様は見ていて嬉しくはない。
まるでボクは、こっち側においでと誘ってるようだね。寂しいからという面を隠れ蓑に引きずり込もうとしてる。
わかってる、サリーは絶対にこちら側へ来ない。
でも、ボクは理解と応援をくれたサリーにどこまでも付いてきて欲しい。壊れたボクの心を、少しでも繋ぎ止めてくれている彼女が欲しい。
『…………』
「……いいや、サリーも苦しそうだしさっさと終わらせよう」
名残惜しい心の弾みに別れを告げて、消えていく世界へボクの力を流し込んでいく。
すでにヨウマさんたちによって力の絶対量を超えていた世界は、さらに強大な力を流されたことで崩壊の速度を早めた。
復興に忙しい他の国々も。復讐に燃える魔族の生き残りも。空に浮かぶ太陽も。その先にある星々も。
世界というものが崩れ、割れ、弾け、ただの粒子となって飛び散った。
「さて、次の仕事だ」
上位者の力を使って粒子となった世界をかき集める。そして異世界人が触れた部分だけを抜き取り、そこに元々あった世界の有り様を複製しはめ込む。
粒子に設定と運命の情報を入れ、少しずつ組み立てていく。
ボクの大っ嫌いな精密作業。楽しくもない、ただただストレスが溜まるちまちまとした作業。
世界を救うためとはいえ、これは本当に面倒くさい。ほんと、壊れる様を見て機嫌を最上限にまで良くしておかないと絶対にやりたくない。
世界を壊し、元ある姿へと再編する。それがボクが再生屋と名乗る所以。
こんな
そして、そんな枠組みから脱却するために、サリーは必要だった。ボクを支えてくれているサリーの存在が、ボクの成すことには不可欠だった。
おかげでこうして、『〇〇〇〇〇〇』はボクでいられるんだから。
『ボク』を見るサリー、その悲しみは何から来るのか。導いた者たちの死か、世界の崩壊か、それとも……。
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