狂ってる?知ってるよ、ボクだもん
ボクの周囲に三つの魔力球が現れる。それらは魔力糸で繋がりながら回転し、ボクをぐるぐる巻きにした。
「あわわ、目が回る…」
「今よ二人とも!」
「はあッ!」
「オラァッ!」
勇者さまが聖剣でボクの首を、ススムさんが斧でボクの胴体を切り裂こうとする。しかし、その刃はボクの眼前に展開されたバリアによって届くことはなかった。
「バリア!?」
「目がクラクラしちゃって……楽しくなってきちゃった!」
その場で回る。クルクル回る。魔力糸はボクの回ろうとする力を抑えきれずちぎれ、自由の身になったボクは回りながら無差別に力の玉を放った。
「下がって!
不規則に飛ぶボクの攻撃を、ハナさんは魔力のバリアで防ぐ。ボクはさらに畳み掛けて…畳み……。
「うう、目が回る…気持ち悪いぃ…」
「バカじゃねぇの」
「チャンスだ!一気に攻めたてろ!」
勇者さまとススムさんがボクへと迫る。うぷ…こっちは気持ち悪いのに容赦ないなぁ……。
「補助は任せなさい!」
ハナさんが叫ぶと同時に勇者さまとススムさんの体が幾度か光った。あれ?見間違いかな、こっちに来るスピードが上がった気がする。あ、もしかして身体能力上げました?
「沈めやぁ!金剛大車輪!」
ススムさんが縦に回転しながらその斧をボクに振り下ろす。魔力を纏った斧はボクを斬らずに叩き潰し、床に埋まってしまった。
「むっ!?抜け…ない!」
「今だヨウマ!」
すぐさま勇者さまへと目を向けると、勇者さまの聖剣に光が集まっているのが見えた。え、まさかボクに撃とうとしてる?
「待って待って!ボク動けないの!身動きできない相手に攻撃するなんて卑怯だぞぉ!」
「ここに集うは世界の希望。世の平和を願う人々の願い」
「無視ですかそうですか!」
「邪なる者よ、光に飲まれ果てるといい!希望の光撃!」
「あ、かっこいい技名ピギャアァァアアアッ!??」
一瞬、ボクを光が包んだと思ったら光柱が生成された。アツゥイ!まるで真上からビームを打たれている気分!
あ、そんなこと考えてる余裕ないや。消えちゃう!ボクの体が崩れちゃう!
「ゆう…しゃ……さまあぁぁ」
「くっ……まだ消滅しないのか!」
「あの光の中で喋れるのかよ……つくづく化け物だな…」
「ボク…ね?凄いなぁって……異世界…の……危機を救っ…ちゃう……なんてさぁ……」
「っ!?なんだ、力が…内側から破られていく!?奴の仕業か!」
「優しい…ねぇ…?だから…さぁ…サイン…ちょうだいよォ!」
光の柱が弾け、衝撃波が三人を吹き飛ばした。無理矢理破ったから余波が凄いねぇ、えへへ。
「ぐっ…お前ら、大丈夫か!」
「ええ、こっちは……っ!?ヨウマ!」
「あぐ……これは…!?」
あ、気づいたみたい。ボクが勇者さまに投げつけた、右手にず〜っと隠してたサイン用のモノに。
「えへへ、サイン欲しいからさぁ、そのお腹に刺さったモノに書いてよ、勇者さまぁ?」
「こ、これ……」
「見てわかるでしょ?この国の王様のぉ……あ・た・ま♪」
ボクの力で作られた槍に貫かれた王様の頭。頭だけだったらちゃんと届かないから、光の中で頭を突き刺して投げてみました!勇者さまのサイン入りなんて、どの異世界を探してもない一点物になるよ!
「そんな……ひどい…!」
「王様…こんな……」
「……自分は人間だって言っていたよな…?」
「ふぇ?そうだね、言ったよ」
「これが、これが人間のすることか!?どうして、ここまで惨いことができるんだ!!」
「……?うふふ、面白いねぇ」
「面白い…?面白いって言ったのか!?」
「うん面白い面白い。無知な人や心に余裕が無い人が騒ぐのを見るの、ボクとっても大好きなんだ!でも何がとは言わないよ!死んで、その魂が消えるまで、その滑稽な姿をボクに見せ続けてよ!」
「く、狂ってやがる…」
「当たり前さ!狂ってなきゃこんな仕事できるわけないよ!うふふふふふふふふふ」
笑いが止まらない。人道から外れて、人の心もボロボロになって、そうじゃなきゃ世界を壊すことなんてできやしない。
人を痛めつけ、殺し、世界ごとバラバラにするのがとても楽しい。大丈夫、み〜んな何も覚えてない。次に目が覚めた時にはいつも通りの世界で、いつも通りに過ごすだけさ。
でなきゃ、誰がこれを期待する?
ねえ、上位者のみんな。
未だにボクに手を出さない上位者たちは、これはこれで面白いと思っているんだろう。
ボクを消しに来たのもいくつかいたけど、それもボクにとってはただの餌。
気の向くままに。壊して、貪るだけ。
そう、いつも通りに。
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