【WEB版】転生してあらゆるモノに好かれながら異世界で好きな事をして生きて行く【ComicWalker漫画賞受賞作】

御峰。

一章

第1話 転生

 俺の名は工藤優人くどうゆうと


 両親が優しい人になって欲しいと願って付けてくれた名だ。


 日本の昔からある言葉に言霊ことだまという事があるように、周りからは優しいとよく言われるが、俺自身は自分が優しい人だとは思ってない。


 それは別に気にもしないから良いんだけど……一番の問題があった。


 俺が根っから優しい人とよく言われる根源。


 それは――――何故か子供の頃から動物に、ものすごくかれるのだ。



 好かれるのは良い事だと周りは言う。


 しかし、そうではない。


 俺の好かれっぶりは、異常過ぎるのだ。


 俺が歩けば、あの警戒心が強い鳥ですら肩に乗って来るし、猫も乗って来るし、森に行けば栗鼠りすも乗って来る。


 散歩中の犬とか、俺を見かけると離れようとしないからいつも飼い主さんと気まずくなる。



 そんな俺だが、動物――――特に犬が大の苦手になる事件があった。


 それはまだ四歳の頃。


 家の庭で両親とボール遊びをしていたのだが、偶々散歩していた集団がいて、俺の家を通り過ぎた。


 勿論――言うまでもなく、集団の犬達が狂ったように俺に突撃してきた。


 犬達はじゃれるつもりだったのかも知れないけど、俺はまだ四歳……大型犬とかもいたので恐怖でしかなかった。


 それから犬が苦手というより、恐怖の対象になってしまった。




 そんな俺は気が付けば大学を卒業して、社会人一年目に入った。


 いや、入る予定だった。


 特に大きな苦労もなく、すんなりと内定が取れた会社ではあったが、自分が目指していた『建築士』になれる事が楽しみで仕方なかった。


 なのに…………。




 その日は初めての出勤の日だった。


 初日って事もあり、スーツをビシッと決め、意気揚々と出勤路に立った。


 しかし、俺を待っていたのは輝かしい未来ではなかった。


 俺を待っていたのは――――


 犬……?


 いや、熊?


 リアル熊かって?


 いや、違う、熊みたいな犬だった。


 犬なのになんであんなに大きいのか。


 不安を感じながら熊犬の隣を通り過ぎようとしたその時。


 飼い主さんのリードを振り切った熊犬が勢い良く俺に突撃してきた。


 やっぱりこうなるのかよ!!


 逃げようとしたが、熊犬は見た目以上に素早かった。


 気が付けば、俺は熊犬に勢い良く吹き飛ばされ、隣を通り過ぎていたトラックに――――――




 ◇




 ぜ、全身が痛い!


 泣きそうなくらい痛い!



「オギャ――――!」



 そう!


 赤ちゃんが泣きそうなくらい痛……い?


 へ?


 赤ちゃんの泣き声?


「おお~元気に生まれてくれたか! 我が息子よ!」


 あれ?


 身体が急に宙に浮いて……?


 周りはぼやけて何も見えない。


 何だか息苦しいし、めちゃ熱いし、何だこれ……。


 俺は確か熊犬に飛ばされて……トラックに……??



「おお~よしよし、もう大丈夫でちゅよ~」



 落ち着け。


 一旦、落ち着こう。


 今の状況を整理するんだ。


 周りがぼやけて見えない。


 自分の手と足が異様に短く感じる。


 声は出ないけど、何だか泣いてる気がする。


 誰かが俺に声を掛けている気がする。



 そんな事を思っていた時、俺の頬に温かい何か触れて来た。


 優しい匂いがする。


 ――――これって……もしかして……。



「クラウド、母ですよ……ちゃんと生まれて来てくれてありがとうね」


「おお、エマよ。頑張ってくれてありがとう。息子は任せてゆっくり休むといい」


「ええ、ありがとう貴方。クラウドをお願いね?」


 ま、まさか……。



 - 個体名『クラウド・ベルン』と名付けられました。-



 え……?


 これって……もしかして…………転生ってやつ!?




 ◇




 それから二年が経過する。


 俺も二歳となり、立派に走り回るようになった。


 俺はどうやら『異世界転生』を果たしたみたい。


 うう……前世でまだやりたい事が沢山あったというか、これからというのに……熊犬のせいで……はぁ。


 まあ嘆いていても仕方がないからね。


 俺は今の生活を受け入れていた。



 まず、俺の名前は『クラウド・ベルン』。


 ベルン家は地方貴族の男爵位で昔は子爵だったらしいんだけど、最近活躍がなくて男爵に降格しているみたい。


 一応、貴族らしく家にはメイドさんが数人いて、俺が既に聞き取れるとも知らず、世話をしている時に色々話しているのを盗み聞きもとい、堂々と聞いたのだ。


 お父様の名前は『ビリー・ベルン』、お母様の名前は『エマ・ベルン』、そして俺が長男との事だ。


 それと去年と今年、弟と妹が生まれた。


 一つ下の弟は『アレン・ベルン』。


 二つ下の妹は『サリー・ベルン』だ。


 前世では兄妹がいなかったので、すごく嬉い。



 お父様の青い髪はいつもボサボサで顔は美形とは言えないかな? 異世界人はみんな美男美女だと思ってたけど、冴えない男って感じだ。


 お母様は一言で言えば『綺麗』を体現したかのような人で、なびく長い金髪の髪が後ろからでも美女って分かる。


 というか、冴えないお父様がこんな綺麗なお母様と結婚出来た事にびっくりだ。


 俺は基本的に全てお父様似で、青い髪と灰色の瞳だった。


 初めて自分の顔を見た時は、前世とのあまりの違いにびっくりしたものだ。


 弟は外見はお母様似で可愛らしく、俺と同じ髪と瞳の色だった。


 まぁ俺はお父様似だから冴えない男って感じだからね、弟はさぞかしモテそうだ。


 最後は妹。


 まだ生まれたばかりだけど、お母様似なのは間違いないというか、全てがお母様と瓜二つだと思う。


 赤ちゃんの時ですら絶対に美人に育つと思われる…………ってもしかして妹バカになったかも知れない。


 小さな手を握ると、綺麗な金色の瞳がこちらを向く。その仕草がまた可愛くてよく遊んであげている。



 それと二歳ともなると、視界もばっちり見えるようになったり、言葉を少し話せるようになった。


 幸い、周りが日本語で話していたので、聞き取れるし、話せるのは嬉しいね。


 ただ、文字は日本語じゃなくて、筆記体の英語みたいな字だった。


 俺にはミミズにしか見えなかったのは秘密だ。



 最も驚いた事に、この世界には『魔法』が存在していた。


 五歳の時に教会から『才能』が貰えるらしくて、お父様はそれが楽しみで仕方ないみたい。


 メイドさんが弟の方が強い才能を授かったら、俺は追放だねとか物騒な事を言っていたのだけが心配だね。


 まぁ、お母様がものすごい優しいからそんなことにはならないと思いたいな。




 ◇




 三歳になった。


 三歳ともなると、喋れるし、走れるし、俺は自由になって屋敷を縦横無尽に走りまくった。


 うちは貴族ではあるけど、辺境に飛ばされた貴族らしくて、執事もいなければ、メイドさんも三人しかいなかった。


 料理長とかもいないから、エマお母様が料理を作ってくれるんだけど、エマお母様の料理がまた美味しくて!


 異世界の事は、昔からゲームで嗜む程度は知っていたつもりだけど、基本的に料理が美味しくないとされていたけど、あれは全て嘘っぱちだ。


 エマお母様の料理は世界一美味しい。


 ただ……日本食は恋しいね、出て来るのは全部洋食ばかりだからね。



 それとエマお母様はとても博識で、俺の勉強も見てくれていた。


 本の読み聞かせや、数字の計算など……正直教わるほど難しいモノじゃなかったけど、エマお母様とのひと時が楽しくて、ついついにやけながら勉強に励んでいた。


 エマお母様の試験にはいつも満点を取っては、ものすごい褒めて貰えるからそれがまた嬉しい!


 って、最近思うんだけど、転生してから俺の思考も幼児退行したんじゃないかと思う時が多々あるのだ。


 お母様に頭を撫でられると、こんなに嬉しいなんてね。



 勉強以外の時は、屋敷や敷地の探索に出掛けている。


 敷地はかなり広くて、地方だから土地が有り余ってるそうだ。


 こんなに広い敷地ならお家を何個も建てられるんじゃないだろうか?


 まぁ、誰が住むんだよって話なんだけどね!


 俺があっちこっち走っていると、弟のアレンが一生懸命に俺を追いかけて走って来る。


 アレンはまだ上手く走れなくて、俺が全速力で走ると追いつけなくて泣き出したり、転んだりする。


 それがまた可愛い!


 転んで怪我をすると、今度はまたもやエマお母様の出番だ。


 なんと! エマお母様は『回復魔法』が使えるのだ!


 因みに家族だけの秘密らしい。




 そんなこんなんで俺は三歳が終わる頃に差し掛かった。


 そして、ついに――――やつが現れたのだ。

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