ダーリンはユダヤ人〜オーストラリアでユダヤ人男性と国際結婚したら、意外な夫婦の問題に直面しました。

かしこまりこ

第1話 ダーリンはユダヤ人

 ユダヤ人といえば、どんなイメージが湧きますか? 


 夫と会うまで、私にとって「ユダヤ人」と言えば「アンネの日記」でした。ナチス政権下のドイツで、二年ものあいだ隠れ屋に住んだのち、収容所で命を落とした少女、アンネ・フランク。なので、「ユダヤ人」と聞くと、反射的に「ナチス」「強制収容所」「大虐殺」「民族浄化」などのシャレにならない単語が大挙して胸に押し寄せ、「かわいそうな人たち」というイメージしかありませんでした。


 夫、チャーリー(仮名)とまだ付き合い始めのころ、いたってカジュアルに「僕、ユダヤ人だからさ」と打ち明けられました。「サンゴ礁って、実は動物らしいよ」と言われたときと同じくらいの衝撃を受けました。自分が思っていたことと、事実がズレてたときに、ふと意識が宇宙に飛ぶ瞬間です。


「打ち明ける」とはいえ、チャーリーにとって、ユダヤ人であることは、隠しておきたい秘密でもなんでもありません。「僕、おうし座だからさ」と同じくらいの気軽さで教えてくれました。でも、伝えられたほうの私は、「アンネの日記」に始まり「シンドラーのリスト」「ライフ・イズ・ビューティフル」などホロコースト映画のシーンが走馬灯のように頭を駆け抜け、目の前のチャーリーがのほほんとコーヒーを飲んでいる絵面とのミス・マッチで、0.5秒くらい処理落ちしました。


 ユダヤ人と聞いて、「ハリウッドの有名人」「大富豪」「長いもみあげがクルクルしてる」などのイメージが湧く人は、今の日本にどのくらいいるんでしょうか? もしあなたがそうだとしたら、ホロコースト一色で知識が終了していた昔の私を思うと、「ユダヤ通だね☆」と賞賛したい気持ちです。


 日本では馴染みが薄そうなユダヤ人ですが、メディアでお目にかからない日はないと言ってもいいほど、なかなかお騒がせな民族です。


「ハリウッドの有名人」でユダヤ人と言えば、スティーヴン・スピルバーグ、スカーレット・ヨハンソン、ナタリー・ポートマンなど多数。「大富豪」と言えば、フェイスブック創立者のマーク・ザッカーバーグや、グーグルを立ち上げたラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンの二人組がユダヤ人なのはよく知られています。


「長いもみあげがクルクルしてる」ユダヤ人を、日本で見かけたことがある人はあまりいないかもしれません。ユダヤ教の戒律を特に厳しく守っている一部のユダヤ人男性は、もみあげを切りません。一生伸ばし続ける人もいます。長いもみあげをクルクルっとカールして顔の前のほうに垂らす人もいて、そうすると遠目でも「おおっ」と目を引く髪型になります。


 また、ユダヤ人と聞いて、パレスチナの一触即発な事情や、アメリカ合衆国のロビイストを思い浮かべる方もいらっしゃるのではないでしょうか。


 このように、ユダヤ人は、文化的にも、経済的にも、宗教的にも、政治的にも、影響力が大きい民族です。


 さて、私のダーリンはどんなユダヤ人かと言いますと、「ハリウッドの有名人」でも「大富豪」でも「長いもみあげがクルクルしてる人」でもありません。イスラエルに行ったこともないし、アメリカ合衆国のロビイストとは無縁です。


 ユダヤ人なのに、ユダヤ教の戒律などどこ吹く風で、「神様なんていない」と言ってはばからない、無宗教な人です。そもそも、ユダヤ人とはなんぞや? と疑問に思われるかもしれません。実は、その線引きが曖昧だったりするのです。


 


 

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