1話 記憶喪失
赤色だ。
目を開いて映った天井は夕焼けの色に染まっていた。
身体を起こしてみるとベッドで寝ていたようだ。
立ち上がってふらふらと夕日の射し込む窓を覗くと広大な草原と、遠くに建物の集合体が見えた。
町か村、そのどちらかだろう。
その向こうに夕日が見えてその茜色の色合いの美しさに、建物に混ぜこまれたその色に自分も溶け込んだ気分になってしばらくボーッとしてしまった。
なんて素晴らしい自然なのだろう。
そう考えて自らの記憶を心に映そうとすると。
…何も思い浮かばなかった。
あれ?と違和感を覚えて急に夕日と離された感覚に襲われる。
「私って誰だ?」
自分が誰なのか分からない。
思春期ならなんども考えることだろう。
まあ思春期とかそれ以前に自分が何歳なのかも分からないんだけど。
「そうだ、部屋だ」
部屋を調べれば名前くらいは出てくるかもしれない。
机を調べてみると紙が置かれていた。
これに私の名前が書いてあればいいんだが…。
「リラへ…これ私の名前か」
多分他の人に当てられた手紙とかでなければ私の名前ということになるんだろう。
『リラへ
やあ、起きたかい?僕は時の神クロノス。
君が何をすればいいのか分からないだろうからここに書きます。
まず君は………………リラです。
召喚士という職業に設定してあるので仲間を呼んでください。
森には魔物がいるので行かないで、町には仲間を召喚して日が出てから行ってください。
君には前前世と前世がありますが、めんどくさいので省略します。
なんやかんやで思い出さないとくっつけた魂が真っ二つになって死にます。
あとちょくちょく太陽を見てくれれば僕は太陽神におべっかをせずに済みます。
という訳でリラ、召喚はそこにあるタブレットからできます。
ここで召喚する為の石は無料にしておくよと言うと君は恐らく喜ぶでしょう。
これは経費で落ちたのでご心配なく。
時の神クロノスより』
なんだこれ。
面倒くさくても書け前前世ってなんだ太陽神ってなんだ説明しろ等など思うことはあるが、とにかく自分の名前が分かったのはよかった。
それ以外は全然分からないけれど。
「召喚?」
なるほど仲間を呼べるのか。
タブレットを探すと引き出しの中に入っていた。
白いタブレットはなんというか…いいデザインだ。
詳しくないのでそれ以上は分からない。
手当り次第に電源っぽい場所を押してみると画面が光って電源がついたようだ。
映った見た目はまるでゲーム画面のようで、なんとなく見覚えがある気がする。
「これかな」
召喚と書かれた場所を押してみると絵とともに説明が現れた。
なるほどガチャ、いや召喚するにはポイントがいるのか。特別な石を使って召喚することもできる。
よくあるやつだなと考えてゲーム関係は意外と覚えているのか、と少し驚いた。
日常に近いことほど思い出しやすいのかもしれない。
画面をタッチして召喚を開始すると、よく分からないが金色に光りだした。
よく知らないゲームでSSRが出る時みたいな気分だ。
つまりなんかよく分からない気分ってことである。
カードが現れて白い髪に赤い目の顔色が悪い青年が映ったかと思えば、タブレットが出したブツッと言う音と一瞬暗くなった画面を見てビクッとする。
画面が明るくなったかと思えばさっき写った白い髪の青年ではなく金髪に青い目の背の高い男性が現れた。
「えっ、さっきの人は?えっ?」
戸惑っていると私の目の前に召喚サークルのようなものが現れて男性を召喚しだした。
いいの?白い髪の人はいいの!?
そうこうしているうちに金髪の男性が召喚された。
金髪の男性は騎士が着ているような鎧を着ていた。
彼は私よりも身長が高く、見上げる形になってしまう。
「我が名はケイ……ッ!!あ、貴方はまさか」
ケイ、なるほどケイ卿か。
なんか聞き覚えある気がする。
ケイ卿は私を見た途端に目を見開き、大粒の涙を零し始めた。
まるで忘れ形見にでも会ったようだ。
ケイ卿はしゃがんで顔を伏せると私の手を取って大きな両手で包み込んだ。
「わ、私は、ケイ。貴方の剣です」
ケイ卿は嗚咽を上げながら私に誓った。
「この生は貴方に捧げると誓います」
ケイ卿が私の手を額に押し付けると、気のせいかゴリッという感触が手の甲に伝わった。
一瞬疑問に思ったが、顔を上げたケイ卿の喜びが溢れた顔を見て頭の骨だろうと考えることをやめた。
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