第52話 レクスの決意
やってみなくちゃ、わからない。
「何をやっているんだ! レクス」
俺は、そのまま、戸惑い続ける魔王の肩を掴み。
「だか、ら———ムグッ⁉」
強引に口づけをした。
そして、『黄昏の花』のエキスをイヴに流し込む。
「————⁉」
驚いたイヴは激しく抵抗する。ドンドンと俺の背中を何度か叩き、俺の唇から離れようと激しくもがくが、俺は必死に逃さまいと押さえつける。
「チュ……ッ……チュル……ん……ピチャ……チュ……!」
貪るように彼女の口を吸う。
これが、イヴを救う道。唯一の救う道だ。
だからこそ俺は、必死になった。だからこそ俺は、興奮していた。
「ン……ンゥ……」
やがてイヴはくたっと全身から力を抜き、俺にされるがままになった。
舌を絡めさせ、ついばむようにくわえ、唾液を飲み込む。
「な、な、な、何をやっているのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」
目の前の光景に呆然としていたエル・シエルがようやく正気になり、声を荒げる。
キュポン……ッ!
「はぁ……!」
イヴの唇を解放してやると、彼女は恍惚の吐息を漏らした。
「何って見てわかんねぇのか?」
イヴの唾液で汚れた口元をぬぐう。
「見てわからないから聞いてい……る……あなたそのオーラは何……?」
俺の体から黒い———魔力の光が漏れ出ていた。
「そうか、できた……か」
成功した。
だけど、少し寂しい。
「できたって、何⁉ あなたその姿は!」
「グ、グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼‼」
全身に激痛が迸る。
俺の体は変質していた。
両腕からは針のような獣の毛が生え、爪はナイフのように伸び、筋肉も風船のように膨れ上がっていった。
そして、背中に違和感があり、ちらりと視線を向けてみると————そこにはコウモリの翼があった。
「あ……ああ……」
エルが、ただただ声を漏らす。それだけしかできない。
「あなた、その姿……まるで……まるで」
変質が終わった。
気が付くと、少し身長が高くなっていた。
「まるで悪魔じゃない!」
頭を触ってみる。
角がある。
自分の姿だからどうなっているかわからない。だが、角があり、背中にはコウモリの翼ということは———恐らく、
「イヴ」
「————ッ」
イヴも、エルと同様にまともに言葉を発することができなくなっていた。
あ———、
彼女の青色の瞳に俺が映し出されている。
ヤギの角に、赤い瞳。
はは———たしかにこれは悪魔だ。
「いや、【魔王】……か」
俺の肉体は〝魔族化〟いや、【魔王】化した。
「どうして……?」
イヴの姿は、もう魔王ではない。銀髪のただの女の子の姿になっていた。翼もなく弱弱しい、迸っていた魔力が一切感じることができないただの女の子だ。
「『黄昏の花』のエキスの力と、【凡人】の吸収スキルが合わさって、お前の【魔王】としての力をすべて吸収することができた。結果だけを言うとそれだけなんだが……おかげでお前はもう【魔王】じゃなくなった」
「でも、それだと……」
「そうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない【魔王】が存在している限り、〝魔族〟が何度でも復活する。それはお前がかけられた呪いだ。俺じゃない。もしかしたら、【魔王】の力がすべて俺に移ったことで、お前と〝魔族〟のつながりが断たれたかもしれない。俺はそれに賭けた」
「そんな……都合のいいこと……」
「起きるさ。そう、信じよう」
笑いかける。
俺の、【魔王】と化した俺の顔は、今どんなに不気味なんだろう。
笑ったところで、余計にイヴを怖がらせるだけかもしれない。だけど、彼女は、
「へへ……」
笑い返して、くれた。
「そんなの……認められるわけないじゃない!」
エル・シエルがビシッと指を突き立てる。
「失望したわよ、レクス! 自ら魔の者に名を落とすなんて! それでも勇者パーティの一員……それも、【魔王】になんて……私はあなたを殺さなきゃいけないの⁉」
「殺す必要はない……それに」
俺は手をかざす。
かざした方向は、レッカ火山の方向だ。
「エル。お前が俺を殺すのは無理だ」
「———ッ!」
手に魔力を宿し、イメージする。
レッカ火山の火口にいる炎の魔神。イフリートを……屠るイメージを……!
「
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