第39話 実はずっとスタンバってました

「よかったぁ……すぐに会えて。この村に住んでいると思っていたけど。旅館で会えるのは予想外だったよ」


 エル・シエルは胸に手を当てて「ハ~」と息を吐いた。


「だから……どうしてここにいるんだよ⁉ 【勇者】は⁉ アランは⁉ あいつらも戻って来てる……の、か?」


 【勇者】アランが戻って来てる。

 何故だ?

 なぜか。

 【魔王】がここにいるからじゃないのか?

 気づいてしまったと言うわけじゃないのか?

 思考がフル回転する。

 ドクドクと心臓が跳ねる。

 そして、エル・シエルが重たい口を開く。


「全滅した」

「へ?」

「私たちは魔界で全滅したのよ」

「—————ッ、嘘だろ」


 予想外の答えが返ってきたが、それはそれで衝撃だった。


「アランたちは死んだのか⁉ そんな馬鹿な!」

「死んでない。死んではないわ……あの人たちはまだ魔界に留まっている」

「そっか、生きてたか。なら良かっ……いや、良くない。どうして戻って来ないんだ⁉」

「魔王城に着いているからよ」

「何⁉」


 そんな、だったら、魔王がいないこともすぐにばれてしまうんじゃないか?


「どうして、どうしてあいつらは全滅したんだ?」

「【死伯】のベルゼバブ。そうなのるハエの姿をした魔王軍幹部に手も足も出なかった。正確に言うと、ベルゼバブ自体にじゃない。魔王城そのものに負けたのよ」

「魔王城そのものに?」

「『魔封ノ界マジックキャンセラー』。魔王城自体にはそういう結果が張られていた。魔力無効の結界。それで私は見るも無残な役立たず。魔法が一切使えないんだからね……」


 唇を噛みしめるうつむいたエル。だが、直ぐに顔を上げ、


「だから———」


 涙目で、俺に訴える。


「あなたの力が必要なの! パーティに戻って来て。一緒に……一緒に……【魔王】を倒して!」


「————ッ!」


 そのセリフを言われて……正直、嬉しかった。


 必死に食らいついて、それでもダメで、追放されて、今更力が必要になったなんて虫のいい話。頭に来るのが当然だ。

 だが、本当に信頼して尊敬した仲間だ。仲間だったんだ。

 やっぱり必要だと言われて、嬉しくないはずが、ない。


 フッ——————、


 風が、吹いた。

 まるで俺の気持ちと連動するように一陣の風が吹き、あたり一面に立ち込める切を吹き飛ばした。


「エル。そんなことを今更言われて……も⁉」


 視界が開ける。

 エルの顔さえよく見なかったのに、今は遠くの森の景色まではっきりと見え、この混浴のすべてが良く見えるようになる。


「…………」


 二人———だけではなかった。

 混浴にいるのは、俺とエル・シエルの二人だけでは。


「ま……⁉」

「ま?」


 エル・シエル、首をかしげる。

 彼女の背後に、人が立っていた。 

 いや、人じゃない。


 【魔王】……。


「……………」


 何も言わずに、腕を組んで、俺たちを見下ろしていた。


 全裸で。

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