第8話 警備隊隊長ースタン・ラング・1
ユノ村の酒場にやって来た。
昼間だと言うのに、人がごった返しており、その多くが体格のいい大男ばかりだ。みな鎧や剣を装備し、一目で魔物と戦う戦士だとわかる。
「こんな場所に何しに来たのだ? 旦那様」
「仕事を貰いに来たに決まってんだろ。あと旦那様って言い方は違和感があるからやめろよ。【魔王】」
「お前こそ、こんな人が多い場所で堂々と【魔王】と我を呼んでいいのか?」
「お前こそ、自分のこと我なんてもう使うなよ。【魔王】ってバレる」
小声でぐちぐちと言い合う俺と【魔王】。
【魔王】は黒いフード付きのマントで顔と体を隠し、正体がバレない様にしている。はたから見ると怪しいが、全身を黒ずくめの衣装で覆っている魔法使い何て冒険者をやっていれば結構見かけるため、そういった屈強な冒険者たちが集まるこの酒場では特に珍しくはない。
「夫婦なら、普通名前で呼び合うからな? 俺はレクス。お前は自分のことは『私』って言えよ」
「お前も、私のことはちゃんとリコリスって名前で呼べよ」
「…………」
最後の【魔王】の言葉は無視して、酒場の二階へ上がっていった。
【魔王】も無言でついて行く。
この村で暮らしていくために、俺は狩人の仕事をするつもりだ。
そうなるとこの村のギルドの長に話をつけていく必要がある。
その土地にはその土地のルールという者が必ずある。よそから移り住んでいる以上、筋を通しておかなければ無駄に敵を作り、後々後悔する羽目になる。
それに、なぜだか【魔王】と共同生活をすることになってしまったので、怪しまれないためにこちらから友好的な姿勢を見せておいた方がいいだろう。
「で、何しに来たのだ?
少し、俺の名前を力を込めて呼んでいた。
語気を強め、若干怒っているかのように。
「酒場の二階に『ユノ村警備隊』の詰所兼宴会場があるって聞いたからさ。一応、『ユノ村警備隊』もギルドらしくて、この村のギルドをまとめているらしいから、挨拶をしとかないといけないんだよ」
「ギルド?」
「ああ、ギルド」
「ギルドってなんだ?」
「え、いや、まぁ……」
改めて聞かれると何だろう……そんなに具体的なルールがあるわけじゃない。
【魔王】は魔族の世界で生きてきたので、人間の世界の常識に疎い。だから、当然の疑問なのだろうが……ギルドが何かと聞かれると、はっきりとこうだと言いづらい。
「まぁ、魔物を狩ったり、悪者をやっつけたり、戦って生計を立てている人のグループみたいなもんだよ。ざっくり言うと」
ダンジョンに潜って宝物を売ったり、利益を独占するために武装したりする商人、盗賊ギルドなんてものもあるが、説明が面倒くさいので黙っておく。
「そうか……つまり、この村のボスに頭を下げに行くと言うのだな?」
「まぁ、そんな感じだ」
「屈辱ではないのか? 見ず知らずのやつに下手に出るなど」
ちょっと怒った顔をする【魔王】。
「プライド高いなぁ……流石は【魔王】。下手に出るんじゃないよ。礼儀を通すだけだ。ちゃんとルールを守れる人間ですよって示しに行く。礼儀知らずはルールを守れない人間だと思われて孤立するからな」
そんな簡単な理屈なのだが、【魔王】は納得ができないようにあごに手を当てて考えこんでいた。
……いや、何でわかんないの?
魔族にも魔族のルールがあるだろうに。
【魔王】は「やっぱりわからん」と首を傾げ、
「お前は、自分は礼儀をわきまえている人間だと言いたいんだな?」
「言いたいも何も、そうなんだよ」
「だけど、お前は孤立したじゃないか」
「————ッ」
この野郎———!
痛いとこ付きやがって……。
「うるせ」
全く言い返すことができずに、もやもやした気持ちのまま『ユノ村警備隊』の縄張りである酒場二階へ到達した。
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