第5話 音呉村の伝承とは?
「これは、音呉の伝承のとおりだ」
久しぶりの風呂を満喫して居間に祖父が来たのは、パンダの「くる」騒動からすぐだったが、上記のセリフを聞いたのは、30分後となる──
タオル1枚腰にまき、家にはないはずのコーヒー牛乳を飲みながら現れたのだが、母のアイアンクローが強烈に炸裂。
「何度も言ってるよね、父さん」
「実の親に手をあげ」
「お客様もいるし、娘だっています。家のなかとはいえ、タオル1枚はやめてって、何度言えばわかるんですかね」
「いだいいだいいだいいだいいだい」
身長が140程度の小柄な祖父と、170近い母であれば、余裕の結果なのかもしれないが、相変わらずに、母強し。
「ハナ、お母様のあの魔法、すごいですね! 使い方、わかりますか?」
「この世界に魔法なんかねーよ。素手だよ、素手」
顔を青ざめるコンルに、父親を床に落とし、手を払った母はにっこりと笑いかける。
「見苦しいところをお見せしたわね。とりあえず、みんなで朝ごはん、食べましょ〜」
言うことを聞くしかないと、コンルは素直に祖父をまたぎ、食卓テーブルへ。
華もあくびをかみころしながら椅子につく。萌は裸の祖父にブランケットを頭から体にそっとかけてから、いつもの席へとついた。
「目玉焼きだけどいいかしら〜」
言いつつ、母は手際よく朝食を用意していく。
目玉焼きはもちろんだが、カリッと焼かれたウインナーが添えられ、温め直されたコンソメスープは玉ねぎとキャベツがたっぷり入っている。
「いただきまーす」
華はさっそくと口をつけていくが、コンルはキヌ子を抱っこしたまま、戸惑っている。
華はそれを見かねて、萌に視線を送る。
「おいで、キヌ子」
その声に、萌の膝へと移動したキヌ子にほっとするコンルに、華がナイフとフォークをさしだした。
「ほら。これ使えよ。箸なんかでくわねーだろ」
「あ、ありがとう、ハナ。さすが僕の愛しい人」
「黙れ」
しかし、運動したあとのご飯はおいしい!
だが、萌は2回目のはずだ。
「ママの目玉焼き、めっちゃ好き」
「またフルコース食うわけ?」
「あれだけ走ったらお腹も減るよぉ」
「学校は?」
「午後から」
「あー、今日の出てきたとこ、学校近いしな。残りがいたらマズいよな」
コンルはトーストのパンにたっぷりのバターを塗ってご満悦だ。
コーヒーは初めてらしく、苦いというので、牛乳と砂糖を足すと、顔が和らいだ。
「その残りって、モンスターのですか? キーパーを倒せば、キーパーが呼び出したモンスターは消えますよ」
半熟の目玉焼きをトンカツソースで食べたコンルは、目が丸くなる。
おいしかったようだ。二口目を大事に食べている。
「あんた、キーパーって、でかいやつのこと?」
「コンルと呼んでください。そうです。キーパーを倒せば、呼び出されたモンスターも消えます」
自身満々で言い切ったコンルに、華は口を尖らせた。
「それがさ、先月のトカゲ頭、覚えてる? 子分が1体、消えてなかったんだよ」
「ありえないです」
「だよね。でも、いたんだよ。ニュースじゃ、魔法陣のエラーじゃないかなんていうけど、村人に怪我人、出ちゃってさ」
「自衛隊が対処して、ほぼ大丈夫だったんですけど」
続いた萌の声に、コンルは頷くが、納得はしていないようだ。
「……あーもー」
華が頭をボサボサとかく。
やめなさいと言うように、母親が華の肩を叩くが、怒ったような泣きだしそうな変顔をしている。
「だってさー、ゾンビ怪人倒されて、めっちゃくっちゃ腹立つんだけど、向こうの世界のこともめっちゃくっちゃ気になるし。今、あたしの心が板挟み!」
実は、華の心はこんがらがっていた。
コンルの可愛い顔をぐっちゃぐちゃになるまで殴りたい一方で、向こうの世界のことが知りたくて知りたくて仕方がない!
昔から祖父に伝承のことを詳しく聞いていたこともある。
向こうがどんな世界なのか、興味がわかないわけがない。
だいたい、ゾンビ怪人だって、実際わかっていることは、【首を切ったら消える】ことだけだ。
キーパーが呼び出したゾンビとキーパー本人とのゾンビ差であったり、ゾンビの種類だって気になって仕方がない。
引っ掻き行動が本当に攻撃技だったのか?
それともそう移動しているだけなのか?
聖水みたいな物理攻撃も可能なのか?
……もうあげればキリがない!!!
「……よし!」
華はコーヒーカップを両手でつつみ、コンルを見る。
「まず、かいじ……じゃなかった、キーパーって、復活する?」
「しますよ」
即答に、華の心が踊る。
ウキウキで、「どれくらい待てばいい?」そう聞いた華に、コンルの顔が急に曇る。
「周期はさまざまです。満月で復活するキーパーもいれば、ある程度条件が揃わないと復活しないキーパーもいます。今日の怪人の条件はわかりません。でも、だいたい3ヶ月から、1年ぐらいで復活していると思います」
「待てない!」
「どうしてです?」
「だって、婆ちゃんがあたしが16になったら彼氏ができるって言ってたもん! あたし、5月生まれだから、今10月……えー、半年以上はある、けど、逆に考えたら、それしかないってことだし……」
華は箸をコンルに指す。
「さっき、勇者になれば願いが叶なう、とか言ってたよな」
2杯目の牛乳入りコーヒーを飲みつつ、コンルは笑う。
「はい。どんな願いも叶えてくれます。あ、僕、まだ自分の願いを叶えてないんで、僕の願いを使いましょうか? そうすれば、ハナの願いを僕が叶えたことになり、僕と結婚できますよね!」
「黙れ。そんな交換、したくない!」
ちなみに、祖父は、このとき、まだ床で寝ていた。
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