錦上花を添う/りんごのいと

藤泉都理

えらばれしもの




 とある住宅街から少し離れた場所にある小さな公園の端っこに、小さなりんごの木がありました。

 小さなりんごの木には、小さな真っ白い可憐な花が一輪だけ咲いていました。

 一年中咲き続ける花を微笑ましく、けれど少し痛ましく見ていた公園の管理者は、けれど、また一年、一年と、歳を重ねてもずっと咲き続ける花に、ついつい話しかけてしまいました。


 小さい子どもはもういない住宅街です。

 公園に足を運ぶのは、管理者だけ。

 管理者も足を運ぶとしたら、この公園とスーパー、病院、公民館です。

 家には時々子どもや孫が来ますが、本当に時々。

 話し相手なんかいらないと思っていたのですが、やはり寂しくて、ついついりんごの花に話しかけた。


 わけではなく。


 どうしてでしょう。

 異常気象が原因で遺伝子変化が起こりずっと咲き続けているのだと痛ましく思っていたのですが、徐々に変化して、ああ、きっと待っているのだと、思ってしまったのです。

 待っている誰かに実りを与える為に、咲き続けているのだと。


 頑張っているものを応援したくなるのは、人間の性でしょうか。


 管理者は毎日、毎日、公園へと足を運び、りんごの木を応援し続けました。

 豪雨の日も、豪風の日も、豪雪の日も、猛暑の日も。


 毎日、まいにち。


 そうして、十年が経ちました。


 変化が起こりました。

 りんごの木にではありません。

 管理者にです。




「ほら。今日はね、紹介したいやつがいるんだよ」


 管理者は一緒に住んでいる男性を紹介しました。

 娘から一時でも預かってほしいと頼まれた九尾の妖狐です。

 挨拶をして。

 管理者が男性に促すと、男性はじっとりんごの木を見つめてから、こんちわと挨拶をしました。

 その時です。

 甲高い歓声がその場につんざいたかと思うと、りんごの木から和着物を身に着けた半透明の女性が現れて、九尾の妖狐に向かって言ったのです。


 光栄に思いなさい、九尾の妖狐。

 私の実を食してあなたはもっともっと美しくなるのよ、と。











(2021.11.5)


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