第3話

そんな時だった。二人が話している最中に騎士たちがやってきたのは。


「えっ、何?」


突然現れた騎士たちに困惑するリリィに向けて、騎士の隊長格と思われる男が告げる。


「リリィ・プラチナム公爵令嬢! マグーマ王太子殿下誘拐容疑で拘束させていただく!」


「へ? 王太子誘拐? どういうことですか?」


王太子の誘拐。婚約破棄はしたが、そんなことをした覚えはリリィには全くない。だが、騎士たちは容赦しようとしなかった。


「問答無用! お前たち、彼女を引っ捕らえよ!」


リリィに武装した騎士達が詰め寄ってくる。だが、


「この、無礼者共があああああ!! 我が主に近づくなああああ!! 必殺ヘブンズトルネード!!」


無礼な態度で武器を持って主に詰め寄る騎士たちに立ちして、怒りを爆発させた女傑ジェシカ・シアターが剣を持って立ちふさがり必殺技をぶつけた。


「「「「「うわああああああ!!」」」」


「な、なんだぁぁぁぁぁ!?」


そして、騎士たちはあっという間にたった一人の女性の手で叩きのめされてしまった。しかも、大げさな回転斬りのような技で十秒もしないうちに。


残っているのは、先ほど傲慢ともいえる話し方をしていた隊長格の男だけ。


「ひいいいいい! 精鋭の部下たちがあっという間にぃ! ああ、ま、待て待て! いや、言い間違えた、言い間違えました! どうか、任意同行願います! お願いします!」


隊長と思わしき男が土下座で頼み込む。先ほどとは偉い違いだ。恐怖に屈して対応を考え直したようだ。しかし、今更姿勢を変えたところでジェシカの怒りは収まらない。


「ふざけるなよ! 任意同行? 貴様のような無礼極まりない男に我が主がついて行くはずがなかろう! それ以前に謝罪するのが先ではないか!」


「わ、私はこの隊を率いる隊長のコーク・ローチと言いまして……先ほどは大変ご無礼を働き申し訳ありませんでした……」


ジェシカの怒りが激しいため、隊長のコーク・ローチと名乗った男は言われた通りに恐怖に震えながら謝罪した。そんな彼を少し気の毒に思ったリリィは、連れて行かれそうになった理由を今なら聞けると思った。


「まず、何のことか聞かせてもらえませんか? 『元』王太子殿下がどうかされたのですか? あ、それとジェシカも落ち着いて」


「実は、王太子殿下が……え、元?」


コークは『元』と言う言葉に反応した。それを察したリリィは、分かるように説明した。


「あら? 昨日、私との婚約が破棄されて降格して侯爵になったのですが? ひょっとして、ご存じないのですか?」


「ええー!? 婚約破棄!? しかも降格!?」


土下座する隊長のコークは何も知らなかったようだ。目を丸くして大声で驚いた。


「はい。殿下がどうしてもある男爵令嬢と結ばれたがっておりましたので、私が婚約破棄したのです」


「さ、さようでしたか………ぞ、存じ上げませんでした……」


「ふん。大方、婚約破棄となったことで王太子の地位を失って、代わりに名ばかりの地位についたんだ。誘拐とか言っていたが、絶望して姿をくらましただけじゃないのか?」


コークは顔が真っ青になった。マグーマ王子の悪行を考えると、ジェシカの言うことの方があり得ると思ったのだ。そうなると自分たちは公爵令嬢になんてことをしたのだろうと考えると、恐ろしくて仕方がない。


「つい、昨日のパーティーでの話です。まだ、発表もありませんし仕方ありません。それよりも誘拐とは?」


「はい! マグーマ殿下が行方不明になってしまわれたため、それを知ったトップス第三王子殿下が『悪役令嬢は誘拐したんだ!』とおっしゃられたため、い、一応、事情聴衆をと……」


トップス第三王子と聞いてリリィとジェシカは同時に驚いた。その王子は一週間前に誕生日を迎えたばかりなのだ。


「「ええ!? まだ十歳のトップス殿下の命令に従ってきた!?」のですか!?」


確か、十歳の誕生日だったはずだ。


「は、はい……その通りで、ひいっ!?」


ジェシカは剣の切っ先をコークに向けた。しかも憤怒の形相で睨みつける。


「ふざけるなよ! あんな十歳になったばかりのクソガキの命令で貴様らは我が主リリィ様をひっ捕らえるつもりでいたのか!? 万死に値するぞ! ああん!?」


「ひいいいいいいいいいいい!?」

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