第2話
「一緒に帰ろう?」
放課後の教室で帰る準備をしていると愛がやって来た。
「いいよ。ちょっと待ってて」
僕は教材をバックにしまって背中に背負う。そして愛に笑いかけた。
「行こっか」
「うん」
僕らは手を繋ぐことなく帰り道を歩く。僕らはまだ手を繋いだことも、キスをしたこともなかった。エッチなんてもってのほかだ。それは単に僕が奥手なのがいけない。それに僕からどこか距離をとってしまう癖がある。僕は彼女をヘレーネ・クリムトに重ねていることに少なからずの罪悪感を感じていたからだ。
「いよいよ明日だね。運命の人が分かるの」
「そうだね」
「私達、きっと運命あるよね?」
その問いは自分に言い聞かせているように聞こえた。
「分からない」
「そっか……」
僕の返答が不味かったのか愛は少し落ち込む。
「ねぇ。UNTERMRAD聞かない?」
「いいよ」
UNTERMRADとは僕と愛の唯一の共通点だった。付き合ってからお互いが同じアーティストを好きなことに気づいたのだ。会話が続かない僕達にとってUNTERMRADの曲は正しく救世主だった。僕達はイヤホンを左右に分けてUNTERMRADの『救世主』という曲を聴く。
「私ね。もし運命の人が別にいても、君と一緒にいたいな」
「うん」
「だからこれからもよろしくね?」
「分かった」
僕らは別れ道に辿り着く。蒼嵐高校には最寄駅が三つあり、そのうちの二つの分岐点だった。
「じゃあまたね?」
「ああ。また」
僕は一人になるとUNTERMRADの代表曲『ひとりごと』を聴き始める。段々と寒くなっていく秋風を感じて僕は少し悲しくなった。
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