第6話 コノック20歳、初めての旅①

 永い回想シーンだったが、現実では相も変わらず、ゴリゴリエルフwithドワーフ義理親子組の金床での打ち合わせが続き、オレは微細な魔力の調整で順調に合金の制作に勤しむ時間が流れている。


 精霊組は、アマンダ様の招待(という名の研究目的)で神界へ2泊3日の旅行中で、明日あたり帰ってくる予定のため、あの運命の出逢いで浮かれまくったオレの痴態は見られていない。ただ、町内会の伝達力と母親の勘は鋭く、既に母さんがニヤニヤとコッチを見ているので、冷や汗が止まらないが、魔法でなんとか汗を飛ばして誤魔化している。でもきっと、誤魔化せていないから、今日の晩餐は公開処刑が待っている…


 そんなひと時の平和と言うにはいささか騒がしい工房に、不意に調和を乱す、ドゴオオオォォォッッ‼︎という破壊音が響き渡った。工房全体に激しい地揺れとゴリゴリ組の悲痛な悲鳴の合唱。そして、不気味な沈黙。何が起こったかなんて、状況と魔力のレーダー的効果で一瞬にして分かったが、明日からの喫茶店通いを邪魔する要素に、儚い蟷螂の斧の様な抵抗として、オレは静かに目を閉じ耳を閉じ、出来上がったミスリルを無意味にこねくる事に夢中なフリをした。


「…コノック、ちょっと来てくれないか…」

 嗚呼、お呼びがかかっちまったぜ…


 まるで葬式の様な沈痛な面持ちで、爺ちゃんは粉々に砕け散った金床の粉を拾い集め、親父も焼き場の骨を拾うかの様な面持ちで、砕け散った自身の愛槌のカケラと金床の粉を選り分けている。爺ちゃんの愛槌だけが無傷だったらしい。これは、ヒドい…


 厳正な話し合いの結果、オレと親父の二人で、ヒヒイロカネの採掘へ行く事、その間、粉々になった金床と親父の愛槌を再利用して、爺ちゃんが新しい親父の金槌と、ついでにオレの金槌も作ろうと言う話になった。無駄にせず、キッチリと再利用できるものは再利用する。これが、我が家の基本方針だ。ヒヒイロカネの金床は、残念ながら一度粉々になると数段耐久性が落ちてしまうため、オリハルコン製の親父の金槌との合金にして、より良い金槌にするしかないとの事であった。落ち込んでる親父に、爺ちゃんが声をかける。


「金床も、お前さんの愛槌も、新しく生まれ変われるんじゃ。確かに、悲しい出来事ではあったが、これは新たな新生のための破壊だったのじゃ。さぁ、明日から忙しくなるぞい‼︎」


 方針が決まれば、ゴリラ組は前向きに準備を始めだした。出不精なオレにとっては、2ヶ月もの旅なんて初めてなので、母さんも含めてガヤガヤと大わらわな準備を進め、明日から出立と言うこととして、何だかんだと酒宴が始まってしまった。明日からの喫茶店通いが出来なくなったオレは、その哀しみを飲み込む様に、記憶がなくなるまで呑んだ。呑んでしまった。やたらニコニコした母ちゃんが、しつこく杯に強い酒を注いでいた気がするので、呑まされたと言っても過言ではない。


 翌日、怖いくらいに親父も母ちゃんも爺ちゃんも、優しかった。やっちまった。吐いてないけど、盛大に吐いちゃったみたいだ、あの喫茶店の君の話を。自爆魔法・記憶消去魔法が喉元まで出かかったが、やめた…


「コノック、初恋の甘さに浸らせることが出来なくなって大変申し訳ないが…」

 ニッコニコで、ちっとも申し訳なさそうじゃない親父から、今回の旅路の説明がされる。ちくせう。


「今回、ヒヒイロカネを探しに、我々は中央大陸の北西を覆っている、龍西山脈の麓、ガスコーニュ公爵領の領都・ル=ミント市を拠点に探索する。…本当はこのアマルダ市からすぐ北の龍東山脈からも産出するんだが、今後の事も考えると、より高品質な龍西山脈のヒヒイロカネを使うことにしたんだ。」

「あれ?となると…2ヶ月どころじゃない距離になるよね?」

「そのとおり。王国の街道をバカ正直に辿ると、馬車でも1年の距離だ。…そんな絶望的な顔をしなさんな、息子よ!大丈夫‼︎真っ直ぐ西へ私とお前の魔法で突っ切れば、3日の距離だ!」


 それでも直線距離でほぼ12,000キロkmある中央大陸の横断に近い、8,000kmの距離だが、まぁ、道がわかっている親父となら、不可能ではない…か…流石は風魔法を極めたエルフの王太子、なんて頼もし

「恋を知った息子の恋路、邪魔するのは無粋というものだ、なぁ母さん!」「えぇえぇ、全く!」

 ちくしょう、逃げられねぇ!


 一通りイジられ、遂には記録映像をチラつかせ出した爺ちゃんを風魔法でブッ飛ばしたりと、それなりの騒動もあったが、行程としては、王国北の要衝、ノルフ港→トーナム川と北ウィステリア川の合流点に栄えるサビワの街→ル=ミント市という事になった。そこから先は、ヒヒイロカネの探索となる。最短で1週間で戻れるが、ヒヒイロカネが見つからない場合や、何某かの騒動に巻き込まれれば、たちまち年越しそばを食い損ねるハメになりかねない。


 そう言えば、よく考えればこのゴリマッチョエルフ、戦略兵器級の力を持ったエルフ王国の王太子だった。そんで世界最初の4大精霊を侍らせてる、エルフ王太子の息子のオレ…なぁんだ、厄介事に巻き込まれる気配しかしねぇなw

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雨やどり カゼタ @kazeta2199

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