第2話 男子高校生と再会しました

涼君と出会ったその日の午後からの仕事は、びっくりするくらい手がつかなくてポンコツだった。せめて連絡先くらい交換を…いや相手は未成年だ、いかんいかん。きっともう再会することはないんだろうなと思いつつ、心の奥ではまた会えたら嬉しいなと密かに期待してる自分がいた。




次の日、俺はいつものように準備をして家を出た。


会社の最寄り駅のホームに着くと、ベンチには見覚えのある少年がだらんと下を向いて座っていた。どう見ても体調の悪そうな涼君だった。慌てて俺が駆け寄ろうとすると1人のおじさんが涼君の座っているベンチに近づき、声をかけて涼君の隣の席に座った。


「(なんだあいつ、涼君の知り合いか…?)」


少し離れたところで様子を伺っていると涼君はそっぽを向いてるし、おじさんの手の位置が片手は背中でもう片方は涼君の太ももの上とあからさま動きがおかしかった。流石に見てられない。


「君、ここの近くの高校の子だよね?体調悪そうだけど大丈夫?おじさんが付いててあげるから一緒にすぐ近くのホテルでお休みしようか」


「…は?」





「おい、ホテルで寝んねしてぇならお前1人で行ってこいやこの変態ジジイ」




自分でもビビるぐらいのドスの効いた声が出た。涼君も驚いたのか目を真ん丸にして俺を見上げている。変態野郎の手首を思いきり力強く握り、涼君の身体から引き剥がした。


「け、健人さん…?」


「おはよう涼君。一応確認しておくけど、このおじさん知り合い?」


涼君は俺の顔とおじさんの顔を交互に見るとふるふると首を横に振った。小動物みたいでほんとに可愛い。


「だそうだけどどうするよおっさん、このまま警察に届けてやろうか」


「そ、それだけはご勘弁を!!」


「じゃあ二度とこの子に近づくんじゃねぇぞこの変態野郎が」


変態野郎の手首を掴んでた手をぶん回しその勢いで向こうが尻もちを着いたが、急いで立ち上がりその場から変態野郎は走り去っていった。




「…はぁ。大丈夫涼君?」


「うん…また、健人さんに助けられちゃった」


「こんなの大したことじゃねぇよ」


昨日と同様に顔色が悪い涼君をとりあえず昨日の公園までどうにかして連れて行き、ベンチに座らせてコンビニで買ってきた水を渡した。


「だから涼君は電車使わない方が良いって昨日言ったろ。自転車まだ直らないの?」


「…昨日は自転車屋さんお休みで、今日学校から帰ったら行く予定。でも別に電車の中で変な目にあったわけじゃないし、それに…」


なにか言いかけると自分の太ももの上に置いてた俺の手の上に涼君は自分の手を重ね




「また健人さんに…会えるかなって」




目にかかる前髪と前髪の隙間から覗くイタズラっ子のように細めた目とその笑顔に俺の心臓はやられた。殺し文句?これ確信犯だろ絶対。


ガチガチに固まった俺はゆっくりと涼君の手を自分の手から離し、ゆっくり立ち上がった。


「今日みたいな事がこの先何度もあったら心配だし、早く自転車直しなよ」


「あ、うん…」


涼君があからさまにしょぼんとしたのがわかって俺は慌てて言葉を付け足した。


「っ…だから、次会う時は元気な姿の涼君が見たいんだけど!」


急に大きくなった声にびっくりした涼君がキョトンとした顔でこちらを見た。しばらくするとちゃんと意味を理解できたのか、俺の顔を見上げ


「うん、わかった」


と返事をした。全然大きいリアクションじゃないけど嬉しい感情がこちらにまで伝わってくる涼君の爽やかスマイルに本日二度目の俺の心臓がやられた。



「じゃ、じゃあ俺はもう行かないとだけど涼君1人で大丈夫?」


「うん、俺も少し休んだら学校向かうよ。ありがとう健人さん」


「おう、じゃあな」


「うん、またね」


小さく胸元で手を振る涼君が可愛い。


俺は公園を離れて会社に向かい、なんか今日は仕事が頑張れそうな気がした。毎日のルーティンなんてクソくらえだと思うくらいに涼君の笑顔だけで癒された。


涼君はまたねと言った。もしかしたらまた会えるのかもしれないという期待を胸に、昨日のポンコツで進まなかった分を取り戻してやると俺は気合いを入れた。

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