第16話
さて、翌日早速、
これがどういう意味を持っているのか、までは流石に分からなかったが、神主の言う「付喪神同士は何か呼び合うものがあるようで……」なんて言葉を思い出し奇妙な縁を感じて少々ゾッとさせられた。
でもあれか、雷に打たれて紅生姜と一緒に暮らしてる時点でお察し下さいって感じか……、はは……。
乾いた笑いもお手の物、短期間で随分達観したものである。
兎にも角にも件の町にやって来た吉乃たち。それぞれビニール傘と畳んだ段ボール箱を持って空を見上げる。幸い雨は降っていなかった。
駅を出て『一徹』方面とは別の方向に歩いて少し、吉乃にもあまりなじみのない住宅街にその店はあった。
「ここ、か……」
一軒家ほどの大きさの古びた建物、営業はしていないようでシャッターが降ろされている、がその上の看板に『飯田商店』と屋号が書かれていた。
「イイダ商店」
何気無く口に出すと「あの」とタマ子がこちらを見上げて言った。
「ハンダです」
読み方が違ったらしい。
「あ、ハンダ、ハンダ商店、ごめん、これでハンダって読むんだ、へー……」
ん?
タマ子と話していて吉乃は既視感のような感覚を覚えた。
何か前にも誰かとこんなやり取りしたことあるような……。私が何かを見て誰かに……。あれ、ん? 飯田商店……?
「吉乃こっちだってよ」
ぼんやりとしていると紅緒に呼ばれた。少し先、道を曲がって店の裏側に回り込むようでタマ子と待っている。
「あ、うん」
まあいいか、とりあえず今そんなこと考えていても仕方がない。さっさとやること終らせて帰ろう。私は牛丼作らなくちゃなんだから。約束の日まで時間もそんなに無い訳だし。
本日こうして絶賛寄り道中の吉乃ではあるが心の中では焦りが順調に積もっていた。
もしも間に合わなかったら私はどうするのだろうか……。先輩に何て言うのだろうか……。
時折そんな考えが過ってしまうくらいに。
「あの、じゃあ、こっちです」
合流してタマ子が先導する。
商店の裏側は普通の住宅になっていて、この建物の家としての玄関はこちら側であるようだった。
三人で奥の玄関に向かって敷石の上を無言で歩く。何が待っているかも分からないのに、いや、だからこそか、否応なく緊張が高まる。
「なあ、俺らここに何しに来たんだ」
背負った段ボール箱と揺れる玉ねぎヘアーを前に、紅緒が振り向いて呟く。
「ま、まあね」
正直返事に困るし今更言ってもどうしようもない。だって私にも分からないのだから。いやたぶん前を行くあの玉ねぎちゃん以外に分かる者など居ないんじゃないだろうか。例えここのご家族であっても。
自然と吉乃の眉間の皺が濃くなる。
「ちょっと、待っていてください」
そしていよいよ玄関の前、そう言ってタマ子がドアノブに手を掛けようとした時だった。
『うるせえ! 兄貴はそうやって黙って待ってればいいだろ!』
ドア越しに家の中から怒声が聞こえたかと思うと同時に迫る足音、次いで内側から勢いよく玄関が開けられたのだった。
開けた本人も、ギリギリそれを躱したタマ子も、紅緒も吉乃も、その場にいた全員が驚き固まった。
ちなみにタマ子の頭越しに吉乃は、ドアを開けた青年と目が合い、そしてさらにその向こうに別の男性、恐らく青年が兄貴と呼んだ人物、が居ることにも気が付いた。
「タマ子」
吉乃が声を発する前に青年がその名前を呼んだ。
「た、ただいま」
タマ子が答える。少しおどついた感じがあるのは家出したことが後ろめたいのだろう。
「すげえタイミングだな」
そんな風に無遠慮に零したのは紅緒。この場において一番平常心に近い様子。
一方吉乃、落ち着かない胸の動悸を抱えて咄嗟に上手く挨拶が出来るなんてことはもちろんなく、とりあえず奥の男性と目が合っている気がしたので声には出さなかったが『どうも』と反射的に軽く頭を下げていた。
最近食卓を囲む機会が増えたなあ。
呑気にそんなことを考えてしまうのはきっと目の前の現実から逃げ出したいからなのだろう。
少々古びた
とりあえず紹介すると端から順に普通の人間、普通の人間、付喪神、一つ飛ばして付喪神。もう少し詳しく言うと飯田兄、
このテーブルクロス懐かしい感じだなあ……。ああ、うふふ、帰りたい。
ではここで、そんな帰りたい吉乃のモノローグと共にざっくりとこの状況を説明していきたい。
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