蝶の夢を見る

九重 壮

蝶の夢を見る

ざぁざぁという雨の音で目を覚ましてしまった。

まだ夜中だというのに。

きっと明日も朝が早いから、すぐに眠りなおさなければならない。

でも妙に布団の心地が悪いので、私はのそのそと布団から這い出た。

まだ夏だというのに床は微かに冷えている。

いや、もう秋か。もしくは冬かもしれない。

長らくカレンダーなど見ていないから、分からないのだろう。

ふと雨が止んだような気がしたけれど、窓は相変わらず水浸しだ。

私は寝るのを諦めて、コーヒーを淹れることにした。

ポットに水を入れ、電源を挿れる。

それから食器棚からコーヒーカップを取り出して、お湯が沸くのを待つ。

明かりひとつない部屋の中。

きっと明かりを点けても何も変わらない。

コーヒーカップの底を見ている。

暗いそこに映る自分の顔を。

いや、自分でないかも。

しかし、それはどうでもいいのだ。

私が誰かも。今日がいつかも。

無責任。それが私の全て。

昨日がないまま、今を生きてる。

今朝みた夢の世界を。

風に溺れる蝶みたいに。

私はありもしない生に固執している。

お湯は一向に沸かない。

雨はきっと止まない。

きっと朝はまだ来ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

蝶の夢を見る 九重 壮 @Epicureanism

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ