第99話 大災害8~危機~
〜ララ視点〜
……エラ。
性別は女性。
性格は好戦的。
アモン・マモンが重宝する戦力の一人。
口を開けば戦いたいだの何だの。
グリードの魔王の抑制が働いていなければ、とっくのとうに領土を離反しているような悪魔だ。
側近ともなれば、離反が成立するに見合った力量がある。
危険な悪魔達だ。
だから、魔王が直に連中を管理する。
そして手駒にする。
いつ壊れるとも限らない均衡なのだが、そこは流石魔王と言ったところか。
「戦って、嬲って、苦しめて、凌辱して、絶望させて、殺す。いい? あたしが相手になったのが運の尽きよ」
「勝手にほざいてなさい」
「ハハッ」
狂ったような口調だ。
「まあいいかぁ。あんたも殺られたがってるみたいだしぃ」
「……」
ニッコリとエラは武器を構える。
エラの持っている武器は魔剣だ。
形状はフラフープとよく似ている。
外周部に刃があり、取っ手が上下に二か所。
実に扱いにくそうだ。
円形状の魔具を使って、何をするのかは分からない。
ただ、言動からして接近戦に持ち込む可能性はかなり高い。
「ふっ!」
あらかじめ強化していた足を使って、一歩踏み出る。
一歩で二十メートルは離れていたエラのすぐ傍へ。
エラがギリギリのところで私の斬撃をかわす。
流石に側近か。
「はっやぁ! これで吸血鬼の能力があるとか反則でしょ」
今度は警戒したのか、しっかりと構えに入る。
……私をなめているのか?
「
エラの持っていた魔剣が燃える。
まるで火の輪潜りのフープのようだ。
そして、そのまま燃やした魔剣を振りかぶる。
なるほど、投げるのか。
接近戦のせの字もなかった。
魔剣が高速で回転しながら、こちらへやってくる。
曲線的な動き。
攻撃の軌道があらかじめ分かるのなら、こんなのはお遊びにすぎない。
私はそのまま横へ移動する。
「……そうか」
私に合わせて、投げられた魔剣も横へ移動する。
追尾……が出来るような能力が付与されているのだろうか。
なら、刃の接触にタイミングを合わせて弾けばいい。
単純な話だ。
剣を構えて受け身の姿勢へ。
目前まで魔剣は迫り……
だが、急に刃が伸びてきた。
いや、ただの刃じゃない。
風の刃だ。
刃にいつの間にか乗っていた風の切っ先が、私に向かって異常に伸びたのだ。
風は目に見えない。
私の場合、不可視の攻撃は脅威で感じ取る。
第六感。
視覚で理解するよりも速く、頭の中で警告が走る。
刃がこちらに届く瞬間、私も風の能力で剣のリーチを伸ばし、上方向へと魔剣を弾く。
が、魔剣は投げられた直後の回転速度を維持しながら、空中へ浮遊したままだった。
これも風か。
軌道や運動エネルギーを風でコントロールしているのだろう。
それに、風で選り分けられた酸素は、魔剣の火をよく燃やす。
一瞬だけ上の方に視点を移したのを見たのか、エラはそのままマグナス級の火の玉を連射してくる。
私はまた横へ移動。
今度は様子見の意味で、少しゆっくりと。
思った通り、一メートル程もある火の玉は、私めがけてホーミングしてきた。
風で軌道を変えているんだろう。
相当な修練を納める必要がある。
だてに側近はやっていないわけだ。
剣で火の玉を切り伏せようにも、爆発が怖い。
避けようにも、火の玉を追尾させて避けにくくする。
無理に避ければ……
「魔剣が首を刈り取る、か」
剣を鞘にしまって、火の玉を直前で避ける。
攻撃の死角にうまく入り込み、鋭い音を出しながら魔剣が目前まで迫ってくる。
さて、この相手の戦法を、どう破るか。
私はただ……突っ込めばいい。
能力を魔剣に込める。
吸血鬼特有の能力を。
火の攻撃を避けた際に作った、居合の姿勢。
移動しながらの抜刀。
この攻撃は、私の斬撃の中でもスバ抜けて速い。
魔剣から伸びてきた風を見切って、剣を振る。
能力を込めた魔剣同士がぶつかり、お互いに弾けた。
このままなら、エラの魔剣はまた風の能力で私を絶え間なく襲ってくるだろう。
でも、それはなかった。
クルクルと回転して、輪っか状の魔剣は地面にカランと落ちる。
刃に灯っていた火も鎮火している。
「……はぁ?」
エラが呆然と落ちた自分の魔剣を見つめる。
強い思念がこっちに伝わってくる。
何故?と。
それはそうだ。
しっかりエネルギーを魔剣にストックさせていたのに、急にそれが消えたのだ。
不思議に思ってもしょうがない。
「ふっ!!」
今度は手加減せずに、全力でエラへ踏み込む。
剣を鞘へしまって、居合斬りの姿勢を維持しながら。
「
途中、エラが炎を拡散させて私に放つ。
視界一杯に広がる赤色の属性攻撃。
姿勢を固めたまま、その場で跳躍する。
火炎放射に当たるギリギリの高さ。
靴底が火にかすめてチリチリと焦げる。
空中で方向転換が出来ないと思ってか、かなりの量の火弾を連続でエラが放つ。
攻撃が距離を急速に縮めてくる。
私は剣を抜く。
魔剣に風を乗せながら。
リーチの増大。
横振りした剣の先端が火弾に当たり、爆発を起こす。
横に振りぬく剣の軌道上にある火弾が、全て連鎖的に爆発した。
この距離であれば、私は爆風でダメージを受けることもない。
剣を構えて、爆発の後に発生した黒煙の中へ落下する。
「
視界が塞がっている時に、この能力が役に立つ。
マグナス級の気配断ちは、第六感以外の五感の大半を塞ぐ。
これほど相手を嫌がらせることはないだろう。
自分の周囲にだけ結界を張って、そのまま落ちる。
煙に乗じて攻撃のタイミングをずらす。
そして、黒煙から出ない内にリーチを伸ばした魔剣をエラに向かって斬り付ける。
この距離なら当たるだろう。
だが……
「!?」
振った剣が途中で止まった。
止まった瞬間に、ガギンとエラの方から音が聞こえた。
黒煙から抜け出て、地面に着地。
前に移動しながら剣先を確認する。
剣が頑丈であろう結界に阻まれていた。
私の出した風はマグナス級。
恐らく、あちらもマグナス級相当の結界だろう。
でなければ止められるのはおかしい。
剣ではあれを破れない。
素早く風の能力を走りながら解除する。
勢いを止めずに、結界へ突っ込む。
そこからあの能力を剣に付加させて、結界を斬り付ける。
金属が叩かれたような音を出して、結界は簡単にあっさりと切断された。
風で弾かれたのが嘘のように。
常識を破る。
この能力はそう言う類のものだ。
うまく使えば、危機から逆転出来る。
うまく使えなければ、善戦していても転げ落ちるように敗者になる。
打ち破ること。
能力を取り込む能力。
使えばさらに私は強者になる。
「なぁっ!?」
驚いて隙が相手に生まれる。
彼女はまだ若いと聞く。
なまじ戦法が強く負けたことがないと、自身の欠点に気付かないものだ。
「こっの吸血鬼野郎!」
私が驚く程彼女はすぐに立ち直る。
私が剣を振ることを目で理解して、腰から一本の大型ナイフを取り出す。
どうやら接近戦に持ち込むらしい。
悪あがきだ。
「ん?」
後ろから突然脅威が接近するのを背中で感じ取る。
攻撃を中断して、エラと距離を置く。
上を見ると、赤い光が一面に渡って空に広がっていた。
「……転移」
それしかない。
そして、この状況の中で出てくるであろう存在。
大体は予想出来る。
……神聖種。
赤い光が急速に収束していく。
その中心。
そこには、魔王の手先である神聖種の白狐が空中に浮遊していた。
それを見たエラの顔がにやける。
「アハ、アハハァ! 魔王様が援護して下さる。あんたをいよいよ殺すよぉ!」
さっきまで押されていたくせに、急にいきがるようになる。
不快だ。
白い狐がゆっくりと口を開ける。
綺麗な音を出しながら。
狐の鳴き声が空に響き渡った。
同時に能力が発動する。
声と共に強化の火がエラの元へ。
……黙って見ているわけにもいかないだろう。
「
狐の放った火の先。
進行方向に合わせて、結界を張ってみる。
これで邪魔出来るだろうか?
火に結界がぶつかるが……
「そうなるか」
結界は壊れなかった。
結界を火がすり抜けたのだ。
やはりダメか。
剣を持って、神聖種の火へと接近する。
認識的にはコンマ数秒。
私は飛来する火を追い抜かす。
下半身全体を使って、急ブレーキ。
慣性の力でズリズリと地面を滑るように摩擦がかかる。
そのまま強引に逆方向へ地面を蹴る。
追い抜かした火を斬りつけた。
「……どうだ?」
言いながらすぐに振り返る。
火が、消えていた。
エラが強化された様子はない。
どうやら打ち消されたようだ。
「なぁ!?」
あてが外れた顔を彼女はしている。
恐らく、あてにしていたのだろう。
今、それは台無しになったが。
戦闘は待ったなしだ。
隙あらば殺す。
両者が同じタイミングで自身の得物を持って、突っ込む。
エラは片手を使って、強い風を起こす。
暴風だ。
魔剣でそれを切り裂き無効化する。
能力戦は諦めたのか、そこでエラが前へ出る。
大型ナイフを縦に振る。
ナイフの一振りをよく見て避ける。
ナイフは軽量かつコンパクトな点で、相手に動きを読ませないことに利点がある。
ナイフの大振りから推察するに、そんなことは考えてはいないだろうけども。
彼女は接近戦向きじゃない。
遠距離戦でずっと戦ってきた。
だからこのように雑なのだ。
なら、私に敵う道理は皆無だ。
獲物を持った方の片腕を正面から斬りつける。
エラの腕がいとも容易くポトリと落ちた。
「ああああぁぁああっ!?」
狂乱している内に、手早く首を斬り落とした。
首からヒューヒューと呼吸音が聞こえ、その後噴水のように血が噴き出す。
血がかからないように、素早く血しぶきから逃れる。
私の勝ちだ。
「次!」
私は周りを見渡す。
山脈とは反対の方向にある、防護壁辺り。
そこでは熾烈な争いが繰り広げられている。
ダゴラス様だ。
手練れ二名と交戦中。
私が戦った悪魔とはレベルが違う。
こちらは比較的楽な方だったようだ。
ダゴラス様なら心配はないだろう。
戦闘における伝説的な実力の持ち主なのだから。
街の中心部では、二体の巨大な存在が地震のような振動を地面にも空にも反響させ、殴り合っている。
あの規模となると、私では手出しが出来ない。
それに、ウルファンスの心配をする必要がそもそもない。
七十二柱は死んでも死なない。
そんな連中だ。
心配するだけ無駄というもの。
となると……
私は上空にいる筈の二人を探す。
「……いた」
視線の先では、神聖種と幻想種がブレスをぶつけ合っていた。
青のブレスと赤のブレス。
攻撃が接触している箇所から大規模な爆発が絶え間なく続いている。
凄まじい爆風の中でも、狐とドラゴンはお構いなしに攻撃をし続ける。
龍の背に乗っている二人は、結界を張って爆発の余波から身を守っている。
だが、結界がピシピシとひび割れているのが遠くからでも視認出来た。
急がなければならないようだが、龍は遥か上空。
吸血鬼化した私の脚力でも届かない。
この状態では脚力強化の能力も使えない。
ならば。
力を溜めて、めいいっぱい跳躍する。
空気抵抗を減らすため、無駄に体は広げない。
体積は小さく、鋭く。
それでも強風で体が流される。
重力でジャンプの運動エネルギーも消失していく。
勢いがゼロになったところで、能力を唱える。
「
足元に結界を床状に張る。
強度的に脆い壁だ。
私の脚力ならば、跳躍するための人蹴りで簡単に壊れてしまうだろう。
それでも、一回分更に跳躍出来ればそれでいいのだ。
風でバランスを失わないよう、重心を意識しつつまた跳ぶ。
さらに強風が上層で吹いていることは明らかなので、少し目標地点からずれた場所を意識して微調整。
ドンピシャでシフィーの方へ向かっていた。
龍の背で展開している結界。
これはマリア様の能力じゃない。
シフィー単独で発動させたものだ。
近くで見て、ようやく理解する。
マリア様が準備に入っていること。
もう結界が破れる直前だということが。
「ハアアァァァ!」
私が龍の背にたどり着く、その刹那。
シフィーの結界が完全に壊れ散った。
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