第46話 人間と2人の中級騎士

 なんか陰獣みたいに地面から出てきた者。

 それは、新たな悪魔の騎士だった。


 増援だ。

 どうやら、風使いの悪魔に気を取られすぎたらしい。

 地面から新たに現れた騎士は、これまた強そうな雰囲気を醸し出している。

 出来れば雑魚が来てほしかったよどちくしょう。

 

 「やっと来たか」


 風使いの悪魔は、新しく来た悪魔にそう言った。


 「だいぶ消耗したな、人間相手に」

 「人間だからといってなめると痛い目見る。コイツ強いぞ」

 「ほう」


 新しく来た悪魔は俺をじっくりと見始めた。

 品定めでもしているかのような目で。

 余裕ぶっこいてやがる。

 鼻にわさびを注入して泣かしてやりたい顔だ。


 「そうは思えないが」

 「だが、魔剣からは凄いエネルギーを感じるだろ?」

 「魔剣からはな。あれは……珍しい。ドレインか」

 「俺の強化した風も吸い込まれる」

 「なら、俺も同じか」

 「俺はもう殆ど能力を使えそうにない」

 「そんなに消耗したのか」

 「コイツ強いって言ったろ?」

 「まあ、戦えば分かるさ」


 この野郎。

 悠長にお喋りなんかしやがって。

 井戸端会議野郎め。


 俺は二人の話を待たず、地面を蹴る。

 この悪魔の騎士達からは、恐らく逃げ切れない。

 だから、俺は風使いの悪魔の方へ走った。

 魔剣を振り上げて。


 複数戦の鉄則、消耗している奴からまず排除。

 風使いの悪魔に一気に近付く。


 だが、それは俺の前方から急に盛り上がった岩石によって阻まれた。

 教本に記されていた土の能力か。

 俺はその障害物を乗り越えようと、さらに勢いを強くするが・・・


 「うお!」


 俺と悪魔を阻んだ岩から、突如として鋭い針が生えてくる。

 岩で出来た針だ。

 針はかなり速い速度で俺に伸びる。

 俺はそれを横にかわすも、頬にかすり傷が出来てしまう。


 「おう! あれをかわすのか!」


 土使いの悪魔は驚いたように言った。


 「強化もなしでやるなコイツ」

 「だから言ったろ、強いって」

 「話が違うじゃないか。人間は弱いんだろ? ルフェシヲラ様がさっき言っていたことと違うじゃないか」


 また話を始めやがった。

 ルフェシヲラとか誰かもよー分からん名前を出しているが、こいつらの上官だろうか?

 俺が脱走したことはもはや周知の事実だろうから、上官か誰かが俺のことをテレパシーで知らせていてもおかしくはない。

 そいつの指示でここに来たのだろうか?

 だとしたら、余計に時間はかけられない。

 他の悪魔が到着したということは、いつ他の悪魔がここに辿り着いてもおかしくはないということだ。

 その上官だってここに来るかもしれないし……

 悪魔一人でもこんな時間稼ぎをされるぐらいなのに、これ以上敵が増えたら本当にマズイ。


 このまま膠着状態が続くのは、大変よろしくない。

 俺は再度攻撃を仕掛けることにした。

 次は土使いの悪魔に。


 風使いの悪魔は、疲れているかのように息を切らしている。

 どうせ風使いはそんなに動けない。

 攻撃対象の優先度を切り替える。


 さっきは突然の岩石攻撃に余裕なく避けたが、予め予想しておけば対処出来る攻撃だった。

 針の攻撃を避けている場面に攻撃を仕掛けた側が驚いたのだから、あれ以上速い攻撃はしてこないとは思う。

 なら、大丈夫。


 俺は土使いの悪魔に向かって走る。

 今度は全速力で。


 「うお! 速えぇ!」

 「力の地よイング・マトラス!」


 悪魔は土のルーンを唱えた。

 すると、俺の前方の地面が急激に何箇所か高く盛り上がる。

 俺の身長くらいの高さだ。

 大地はそれに合わせて波打ち、俺の走りを邪魔してきた。


 「食らえ!」


 土使いの悪魔が叫ぶと、盛り上がった土から玉を飛ばしてきた。

 まるで砲台のように。

 野球ボールサイズの小さな玉。

 しかし、その玉は異常な速度でこっちに飛んでくる。

 プロのトップ投手並みの速さだ。

 それが真っ直ぐ、複数同時に俺を襲ってきた。


 「こんの!!」


 でも、見切る。

 これなら魔物の方が速い。


 「これもやっぱりかわすよな」


 予想していたかのように笑う悪魔。

 続々と岩石を複数打ち出してくるが、俺はそれを右へ左へ避けながら土使いの悪魔に接近していく。

 が、俺の進行方向先の地面から、太い土の針が続々と生え出した!


 「こっの!」


 土の弾丸をかわしながら針を避けるのは少し難しい。

 数の力でかわしきれなくなった俺は、弾丸を魔剣で弾いていく。

 攻撃の間隔がどんどん短くなっていく。

 土の針はまだまだ生え続け、弾丸も増えていく。


 土使いの悪魔は両手を地面に置いていた。

 そうか、手で触れないと土を操れないのか。

 あれを止めさせれば攻撃は止まる。

 ともあれ、接近しないことには話しにならない。

 遠距離で攻撃出来る手段を俺は持っていないからだ。


 幸い、進行を妨げられる程の攻撃ではない。

 走りながら岩石を打ち消し、針を避ける。

 俺は相手の連続攻撃に慣れてきたことを体で感じながら、再び前へ走り出す。

 

 「俺だけじゃダメだ! セムトラ手伝え!」

 「分かってる!」


 突然ヒュッと音が鳴る。

 途端に、俺を吹飛ばす程の風が横から体に直撃した。

 風使いの悪魔はまだ能力を使えるのか。

 意外な攻撃に防御が遅れてしまう。

 そのまま風の力によって俺は飛ばされる。


 その先には土の針が生えていた。

 このままじゃ串刺しだ。

 俺は風の流れに逆らって、無理矢理地面へ魔剣を突き刺して着地した。

 今の俺の腕力であればこそ可能な芸当だった。

 

 死角から俺を妨害する風。

 土の弾丸と針の同時攻撃。


 二対一は卑怯じゃね?

 ある程度の手練がコンビを組むってんなら話が変わってくるんですが。

 連携であれば戦術が一気に幅広くなる。

 その攻撃に対応しきれるかどうかは、かなり怪しい。

 例え、片方の悪魔が本来の実力を発揮出来ないとしてもだ。


 相手は変わらず岩の弾丸を撃ってきている。

 土の砲台の位置は変わっていないのに、全て正確に俺へと当てに来る。

 さっきの悪魔達は、大した距離でもないのに俺に炎の攻撃を当てられなかったのに。

 

 俺は飛んできた岩の弾丸を正確に捕らえる。

 一発一発の岩の弾丸発射間隔は意外にも開きが大きい。

 俺がかわし切れず攻撃を打ち消しているのは、大量の砲台が俺の周りを取り囲んでいるからだ。

 それを利用してやる。


 この魔剣は相手の攻撃に対して、強力に作用しすぎる。

 能力による攻撃に触れた瞬間、跡形もなく消えてしまうから。

 それ程の武器を持っていながら、今は苦戦している。

 

 問題なのは俺だ。

 いくら人間の限界を超えたとはいっても、戦闘能力的にはそこらの騎士と同等程度だ。

 魔剣がいくら強くても、担い手が所有物に見合わなくては意味がない。


 だから俺は、魔剣の持つ能力の段階を大幅に下げることにした。

 つまり、出力調整。

 相手の岩の弾丸は高威力ではあるが、ランク的にはそんなに高くないはず。

 マトラスって敵が詠唱してたから、第二段階の土の能力だろう。

 そのランクに、俺の魔剣を合わせる。


 この魔剣と感覚を共有しているから、能力の段階の下げ方ぐらいは理解出来た。

 魔剣は口では教えてくれずとも、感覚で俺に教えてくれる。

 俺はその感覚に黙って従う。

 ただそれだけで、この魔剣のことが殆ど分かったような気になれるのだ。


 周囲から、複数の弾丸が射出される。

 俺は魔剣を振う。

 野球で言う、バッターの構えで。


 「こんの!」


 ガァンと音がする。

 そのまま岩の弾丸を打ち返したのだ。


 この魔剣に触れた能力は打ち消される。

 だが、その打ち消す力を加減して操作すれば、その攻撃をある程度消失させずに留めておける。

 ドレインで少しの質量と攻撃の勢いを打ち消して、剣で受け止めるのだ。

 さっきから何回も岩の弾丸を打ち消しているから、どの程度力加減をすればいいかは感覚で分かっていた。

 ドレインの効果で攻撃の勢いは殆どなくなるから、後はそこを打ち返せばいい。

 もちろん、土使いの能力者に向かって。


 「打ち返した!?」


 攻撃を放った悪魔は驚く。

 さっきから攻撃を打ち消してばかりだったから、いきなり弾き返してきたことに驚いたのだろう。

 だが、驚いてもそこは手練れだ。

 とっさに岩壁を地面から作り出し、弾き返された弾丸から身を守る。

 それと同時に、周囲の砲台から攻撃が止まる。


 鬼を滅ぼす刃で言うところの、隙の糸が見えた気がした。

 この防御で出来た一瞬の間。

 俺は即座に砲台の包囲網から抜け出す。

 走る先は風使いの悪魔。

 まずはお前を叩き切ってやる!


 風使いの悪魔は砲台の壁を利用して隠れ、俺の隙を伺っていた。

 風使いに今出来ることは、精々が土使いのサポートだ。

 今がチャンス!


 「させるか!」


 土使いは叫び、俺の前方にどでかい土の針を出現させる。

 だが無駄だ。

 攻撃を打ち消して、殆どスピードを落とすことなく風使いの元へ走る。

 針の攻撃のみであれば、対処は楽勝だ。


 「守りよオセル!」

 「無駄だ、この風野郎!」


 風使いは最後の抵抗と言わんばかりの声で結界のルーンを唱えた。

 しかし、俺はその結界を簡単に突き破る。

 こっちは結界破りの魔剣を持っているのだ。

 こんな初級の結界で妨げられるようなら、とっくに俺はあの花畑で死んでいる。


 結界を破った先から、風使いが風を放ってきた。

 俺は剣を突き出して、風を裂きながら打ち消していく。

 咄嗟に風使いは俺に肉薄してきた。

 風でリーチを伸ばした剣を構えて。


 リーチを伸ばせば、近接で戦闘をした場合有利だ。

 本来なら、意味のあった行為。

 それは全て強力なドレインで消滅する。


 金属音が広がる。

 剣と剣が打ち合った音。

 さらにドレインの能力が発動して、剣の風が消失する。

 だが、それでも相手の剣は止まらない。

 そのまま剣で戦うつもりなのだろう。


 相手はかなりエネルギーを消耗している。

 近接戦闘で負ける気がしない。

 たたっ斬ってやる……!

 

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