第26話 悪魔の生活18~教本~


 ~悪魔の悪魔による悪魔のための教本~


 ボルド・ジャクラスランド 著


 ・能力について


 能力とは、ルーンを基盤として現実世界に干渉を行う物理現象の一種である。

 ルーンは全部で二十五種存在する。

 

 能力は悪魔を初めとした高い知性を持つもの、もしくは魔物にしか発現しない。

 能力の使用は、精神エネルギーと等価交換で発動される。

 使いすぎれば、記憶障害、全身麻痺、感覚損失などの副作用が能力使用者本人に襲い掛かる。

 以上の理由により、幼少の悪魔には能力使用の制限を課し、本格的な使用は成人してからの使用が強く推奨されている。

 エネルギーの回復には、時間経過による自然回復か、魔石のエネルギーによる回復かの二種類の方法がある。


 さらに、能力は自然干渉系、身体干渉系、運命干渉系の三つに分けられる。

 能力の性質や特性として威力や規模を増大、縮小させたり、また、陣やルーン文字の直接表記によって負担を軽くすることが出来る。

 また、既存の二十五通りの能力を二種掛け合わせることで、二十五通り以外の能力を発現することが出来る。

 これを固有能力と呼ぶ。

 固有能力は大変制御が難しく、発現には細心の注意を払うことが推奨される。

 また、リスクを背負っても望ましい効果が得られるとは限らない。

 

 以下に二十五通りのルーン文字とその効果を記す。


 

 ・自然干渉系能力


 火よケナズ 火を起こし、様々な形態へ変化させる。

 風よラド 風を起こし、様々な形態へ変化させる。

 水よラグ 水を起こし、様々な形態へ変化させる。

 氷よイズ 氷を起こし、様々な形態へ変化させる。

 地よイング 土を起こし、様々な形態へ変化させる。

 因子よソウェイル 周辺に存在する自然の要素を集約させる。

 天よハガル 雲を操り、それに関連した様々な現象を引き起こす。

 静寂よエオロ 生物の五感を遮断、または惑わせる結界を作り出す。

 繋がりよギョーフ 物体を、送り先に設定してある場所に転移させる。

 簒奪よフェオ 物体の持っている熱やエネルギーを奪う。

 守りよオセル 物体を直接遮断する結界を作り出し、弾いたり閉じ込めたりさせる。

 本質よ ウィン 物体の持っている元々の本質を表に引き出す。


 ・身体干渉系能力


 俊足よエオー 足を強化し、俊敏性を底上げさせる。

 再生よユル 怪我などの治療を行えるようにする。

 意志よウル マインドコントロールなどの精神干渉に対する耐性を作り出す。

 意思よアンスール テレパシーを相手に送る。

 腕よソーン 腕を強化し、腕力を底上げさせる。

 恵よベオーク 自身の特定の部位を一時的に成長させる。

 慈悲よニイド 自身のエネルギーを相手に分け与える。

 勝利よティール 自身、または相手を興奮に近い状態に変化させる。

 心よラン 悪魔が元々持っている、相手の心を読むことに長けた力。

 経験よヤラ 相手の経験してきたことを読み解く力。


 ・運命干渉系能力


 ???(???) ???

 ???(???) ???

 ???(???) ???


 以上が二十五通りのルーン文字、その全てである。

 これ以外のルーン文字は存在、または現存していない。

 

 ・チャントについて


 上記で記載した能力の威力や規模、効能を上げさせることの出来る補助効果を付けることを、チャントと言う。

 チャントは全部で五段階存在し、その段階分だけ効果などを上げることが出来る。

 以下は、チャントの段階とその効果である。


 

 一段階 使役のラボル

 二段階 力のマトラス

 三段階 大いなるマグナス

 四段階 始まりのスピーリトゥス

 五段階 主のドミナス

 

 以上である。


 自然干渉系能力への付加は純粋に威力や規模の効果を底上げするものが多いと言われている。

 身体干渉系能力では、威力や規模の効果を底上げするものだけではなく、別の付加効果や能力による現象に変化が見られてくる。

 運命干渉系能力については公開されていない不明な点が多いので、ここでの記述は控えることとする。

 そして、殆ど例外なく全てのチャントに共通して、上の段階に上がるにつれ、能力を使う際の負担が増大されることが確認されている。



 ・武具の能力所持について

 

 生産された場所、元となった素材、職人による能力の直接付加などの要因によって、武具が能力を獲得する場合がある。

 それら能力を獲得した武具を、魔剣、魔槍、魔弓、魔盾、魔鎧などと呼び、上述した全ての能力、チャント、固有能力をそれぞれ持っている可能性がある。

 あくまで、エネルギーの消費は武具所有者本人が全て受け持つため、武具がエネルギーを肩代わりするわけではない。

 しかし、武具にあらかじめエネルギーの消費を抑える陣を書き込むことによって、常時負担を抑えるという使い方は出来る。

 また例外として、簒奪よフェオが持つドレイン効果のある特殊な能力が付加された魔具や、その他特殊な加工がされている魔具などは、エネルギーの消費を必要としない場合がある。

 

 現在公開された魔武具の総数から見れば、自然干渉系能力が付加されたものが一番多い。

 次いで身体干渉系能力が付加された武具の数が多いのだが、この段階で希少性は格段に上昇する。

 運命干渉系能力が付加された武具は殆ど存在しないか、または存在しない。

 

 チャントが付加された武具はかなりの数で存在しているが、段階が上がるにつれて希少性が上がっていく。

 最大の補助効果をもたらすドミナス級ランクのチャントが付加された武具は、地獄の歴史上で七つだけ確認されているのみである。

 

 固有能力が付加された武具は、生産段階で能力が付加された武具を、元々持っていた能力とは別の能力を長期間通し続けることによって、二つの能力を獲得するに至った物である。

 所有者自身が熟練の域に達していることと、長期間能力を使用し続けることが、武具の固有能力獲得の前提であるため、市場に出回ることは滅多にない。

 固有能力持ちの武具は、代々武具所有者の家系に受け継がれることが一般的である。

 代を重ねることによって付加能力に磨きをかけていくのである。


 地獄に生息している魔物も同様に、全ての能力、チャント、固有能力をそれぞれ保有している可能性がある。

 魔物は凶暴であり、同じ生息圏内に住んでいる魔物と対立、拮抗しながら各地に生息している。


 魔物は、他の天敵となる魔物を優先的に捕食する傾向があり、魔物自身が現時点で付近の原生種を食い殺すことは少ない。

 他の魔物の捕食を優先する理由としては、魔物を捕食することによって得られる能力の獲得に起因する。

 能力を持つ魔物が魔物を捕食することによって得られる能力獲得は、悪魔の種族にはない特性であり、魔物だけの特性として認知されている。


 捕食した魔物の能力によって獲得する能力が異なり、自身と同じ能力を持っていた場合はその能力にチャントの補助効果が付き、別の能力を持っていた場合は固有能力の獲得に繋がる。

 そうして長く生きながらえた魔物は、武具の素材として重宝される。


 ・生物の種族解説


 この地獄には、総数が把握出来ない程多種多様な生物や、魔物が生息している。

 陸棲、水棲、空棲、氷棲など様々である。

 魔物は火を吐いたり、尋常ならざる速度で移動したり、結界を張ったりと通常の生物の成しえない行動を起こす。

 上記の生物を大まかに分類したものを以下に記す。

 

 ・原生種 悪魔やその他の地獄に住む知的生物によく知られている通常の生物。稀に魔物に変化することがある。

 

 ・変異種 魔物。能力を獲得した生物。変異種同士での交配よりも、闇の器の残滓から生み出されることが多い。


 ・概念種 世界の法則が存在することそのものが要因で生み出される種。

 知的生物の思考では捕らえきれない光や無、闇、混沌の存在がここに含まれる。

 闇の器は魔物ではなく概念種の一種。 

 

 ・邪悪種 変異種の中でも、固有能力やチャントを複数所持した状態で、元々の生態を大きく逸脱した生物。

 通常の魔物に対して捕食などの行為を行い、存在の格を上げることで最終的に変異。

 別の高位生命体へ昇華した強大な魔物がここに含まれる。

 知性はなく、元の変異種よりも凶暴かつ強大。

 

 

 ・神聖種 変異種の中でも、特にルーツである概念種の因子に影響を受けて存在の格を上げた高位の生物。

 複雑な固有能力を操ることが出来る。

 魔王が使役している七種以外に存在は確認されていない。


 ・知性種 悪魔やその他の知的生物(魚人や吸血鬼など)がここに含まれる。

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