体育祭と思い出

一色 サラ

・・・・

 10月の後半で、心身ともに凍えるように冷え切っている。こんな寒い朝に、駅のホームに高校生らしき3人くらいの男子高校生が無邪気に騒いでいる。体操服姿だったので、もしかすると、体育際なのかもしれない。

ホームに電車が停車して、本堂朋美は電車に乗り込んだ。騒いでいた高校生たちも同じ車両に乗ってきた。平日の朝なのにあまり人気のない車両。ほとんどに人が通勤は車を利用している。なので、あまり朝の通勤ラッシュとは無縁の電車なのだろう。数人しか乗っていない車両に高校生たちの声が通るようにはっきりと聞こえる。  


高校生たちの姿を見ていると、朋美は高2の時の体育祭を思い出してしまった。秋口なのに、寒くて開始1時間くらいして雪は降り始めた。天気予報では雪の予報はなかったのに、少しずつ雪の降り方が激しくなってきた。一旦、校内して避難をした。雪は大粒になって、校庭を白く染めていった。教師たちも、雪が降り続くとは思っていなかったのか、なかなか中止するかどうかを迷っていた。教室で待つしかなかった。朋美も友人たちとトランプで、待つ時間を潰していた。1時間くらいしたお昼過ぎに、体育祭を続行することは困難とされ、その年の体育祭は中止となった。雪が止むまで、教室で持ってきたお弁当を食べることになって、何となく楽しい体育祭になった気がする。


 「なあ、今日って雪が降る可能性はあるのか?」

少し離れた場所で、高校生たちの声が聞こえてくる。朋美は向かいの窓を眺めて、降らないでほしいと思った。電車が停まって、冷たい空気が車内に入り込んでくる。

 「お前ら、今日って体育祭なのか」

学生服をきた男の子が電車に乗って来て、まっすぐ高校生たちと近づいて行き、話しかけていた。

「ああ」と1人の高校生が私服姿の男の子の方に顔を向けることもなく、愛想のない返答していた。何となく不穏な空気が流れる気がした。

「亜香里は元気か?」

学生服の男の子が言った。

「ああ」

また同じ返事だ。不穏な空気がさらにその場を包み込むように流れていく。

「何だよ。面倒くさいそうだな」

何かを聞き出したいのだろうが、適当にあしらわれているようだった。


朋美は高3の時に、幸二に振られた。それも体育祭の日だった。「好きな人ができたから、別れよう」と言われた。どこか一方的で納得できるようなものでなかった。

 友人たちは、遊び人だったんでしょう。と呆れムードで誰も慰めてくれる人はいなかった。それもそうだろう。朋美が付き合った時も、他の彼女がいたのに朋美と付き合い始めたのだから、当たり前かもしれない。それでも、朋美は落ち込んだことを思い出す。まだ子供だったんだなとは今は思うが、当時の失恋はきつかった。

 別れて何年も経つのに、いい思い出には変わることはなかった。24歳になったので、あれから6年になる。まあ、大学の時に知り合った正人と大学を卒業してすぐに結婚した。もう3年前になる。まあ、幸二もやっぱりあの時は子供だったのかもしれない。


「おまえ、早く別れてくれない?」

「はあ?」

ため息のような声が響く。

「何、ため息ついてんだよ」

「お前とは別れたって、言ってたぞ」

「はい?」

「面倒だよ」

電車が駅に着いて、ドアが開いた。高校生たちは、この駅で降りて行った。

「待てよ」と言って、降りかけることもなく、取り残されたが学生服の男の子は、ため息をつくように、座席に座った。

 朋美は次の駅で降りて、胸に抱えて、大人しく眠っている娘の3カ月検診に病院に向かった。

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