手袋を買いに行かせた息子のキツネが、ニーソを穿いて帰ってきた

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

新説・手袋を買いに

「なあ、聞いてええか?」


 母キツネが、ボウヤに問いかけます。

 

「うん」

「お母ちゃん、手袋を買うといでって言ったんよね?」

「せやで」

「なんでニーソ穿いてん?」


 足に白地にピンクのストライプが入った、ニーソックスを穿いていました。

 ボウヤの細い足にピッタリとフィットし、よりスラリとした印象を与えます。

 特殊性癖の方にウケそうですね。


「マネキンが穿いてたニーソに見とれててん。ほったら店員さんが、『寒いやろ、入りっー』て」


 ボウヤを人里に下ろす際、母狐は自分の着られなくなったフリッフリのゴスロリを着せてあげました。


「女装男子」


 と思わせておけば、

「ああ、そういう属性やねんね」

 と、バカなオタクくんには思ってもらえます。

「キツネという要素」を、ゴス衣装がカモフラージュできると思っていました。

 ボウヤはどうしても、シッポとケモミミを隠せませんでしたから。



 それがアダになったのだ、と母狐はとっさに思いました。


「あんたのことやから、店員さんに勧められるままやったんちゃうん?」


 ボウヤキツネは、コクコクとうなずきます。

 

「お客様お似合いですよ、って言われたらホイホイと」

「買うてしもたん?」

「もらってん」


 その店員は、よくわかる方でした。

 ボウヤの思考を読み、またゴスを着せた人間の心理さえ読み取っていたのです。

 彼に似合うニーソを、彼が最も付けたいものにしなければなりませんでした。


 相手を恥ずかしがらせる様式では、エモいと思えるのは店員だけ。


 それはエモーショナルでもなんでもありません。


 エゴイストによるオナニーです。

 エンターテインメントの面汚し。


 店員も、葛藤したのです。

「彼を辱めてしまいたい」

「恥じらう男の娘という最高のごちそうを愛でたい」 

 という衝動と、戦っていたのでした。

 彼のニーソックスを選んであげている、ほんの数秒間に。


 で、到達したのでした。

 及第点・妥協点にして、最高得点を出せるニーソックスに。


「ほんでな。手袋もちゃんと」


 おつかいどおり、手袋もちゃんとありました。


「そのことを店員さんに聞いて、人間ってちっともこわくないやって思ったんや」


 人間だって、エモいのだと。

 

「ほんまに、人間ってエモいんやろか?」

「自分でも行ってみたらどない? きっと答えは自分の中にしかないんやで」


 ボウヤ、ちょっと見ない間にすっかりオトナな考えに到達したようです。

 

「せやな、行くわ」


 母狐はダッシュで洋服屋へ行きました。


 数分後、母狐が戻ってきます。


「トレンカとムームーもろてきた」

「スパか!」

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