今更ながらの自己紹介

さて、今更ながら自己紹介といこう。

僕はシルヴァ・フォーリス。純人種ヒューマンの男だ。


ただでさえ脆弱な純人種の中でも、僕は魔力を筆頭とした上位元素の適性が皆無であり、ちょっとびっくりするくらい弱い。

正面から戦ったらその辺の痩せこけた野良犬にも余裕で負けるレベルである。


そんな僕が魑魅魍魎ちみもうりょうが跋扈、ていうかバケモノが群雄割拠するこの世界で成人するまで生きながらえてこられたのは、ひとえに僕のたゆまぬ努力と、周りの人達の助け。そして少しばかりの幸運のおかげだろう。


純人種は基本的に脆弱だけど、その代わりなのか、大抵の人は魔力や呪力といった上位元素に結構幅広い適性があって、魔法の行使や身体強化ができる人も多い。


更に複数の上位元素に適性があるおかげか様々な種族と交配可能である。こういった要因から、この世界では圧倒的に弱い種族ながら何とか絶滅せずに存続しているし、歴史上では他種族に劣らない英雄も結構いる。


が、先程も少し言ったけど、僕にはそういった上位元素の適性が全くない。使える使えないとかそういうレベルじゃなくて、見えないし聞こえないし感じない。

この世に生を受けて割と経つし、上位元素が引き起こす超常現象も何度も見てるけど、個人的にはほんとに魔法なんて物が存在するのか実感できてない。

みんなして僕をだましてるんじゃないの?



まあ、とはいえ僕も上位元素の恩恵を全く受けていないわけじゃない。例えば今僕の首にかかってる黒いアイテム。

これは保存した音を後から再生することができる頭部装着型の『魔道具』、通称『音響頭角ヘッド・ホーン』だ。

・・・まあ、角はついてないんだけども。


それはともかく、これは事前に魔力を充填しておくことで魔力を使用せずに起動させることが出来る。

だから誰かに魔力を充填して貰えれば僕でも使えるし、世の中にはお金を払えば魔力の充填くらいしてくれるお店もある。

そういうサービスを利用すれば、間接的に上位元素の恩恵を受けることも可能なのだ。


と、少し話がそれてしまった。僕の話に戻ろう。

僕は脆弱だが、だからこそ己のポテンシャルを最大限に引き出す方法を研究してきた。それは例えば武術であったり、機械文明であったり・・・ほんとに色々だ。


しかし、武術をまともに修めるには僕は絶望的に才能が無かったし、機械は強力だが、今現在では個人が運用できるようなレベルに無い。そして僕には機械文明を進めるような才能も無かった。


様々なことに挑戦した。学べることは片っ端から学んだ。挑戦した数とほとんど同じだけ失敗したし、学んだことは知識としてしか身につかなかった。

でも、がむしゃらにやってきた甲斐あってか僕は何度か死にそうな目にあいながらもなんとか生き延びてきた。


でも、これじゃだめだ。逃げて、隠れて、怯えながら生きるなんてごめんだ。きっとなにか、僕にもできることがある。そう思いながら色々なことに手を出していた僕が最終的に選んだもの。それは・・・


幼い頃からの夢でもあった薬師という道だ。


上位元素に溢れたこの世界では、動植物もなかなか面白い生態を持つものが多い。それらを用いた薬は組み合わせによっては常軌を逸した効力を持つことがある。そういった特徴を利用することで、僕は自らの脆弱さを補うような薬を創り、造ることにした。


もちろん、わざわざ僕が改めて創るまでもなく、この世界には『霊薬』だの『魔薬』だの、上位元素の力を持った薬などごまんとある。

例えば、『万能薬エリクサー』。これは外傷から病まで何でも一瞬で治す霊薬だ。作るには、様々な希少素材と、膨大な霊力を込める必要がある。凄まじい薬だけど、作れる人も、素材も少ないから入手は非常に困難で、高価になる。


しかし悲しいかな、その手の上位元素そのものを材料に使った薬は僕には効果がないのだ。

まあ、そもそも刺激が強すぎて純人種に使えるような代物でもないけど。



そんなこんなで僕は薬の開発と改良に心血を注いでいる。


その中でも、出来がいいものには番号を付けて販売したりもしてる。それらの薬は『ナンバーズ』として整理していて、例えば、初めて師匠に名前をつけてもらった薬の『会心返刀ファーストブラッド』は『第一式簡易強化薬』として管理している。

そして、販売に耐えられないような出来が微妙な物は番外試薬アウトナンバーとして、番号ではなく色を振り分けている。

危険度順に、黒、赤、黄、という感じだ。

まあ、この辺りはおいおい説明するとして。



僕は薬師になってからも色々なことに手を出していたので知識や経験という面では少し自信があるし、言語についても様々な地域、種族のものについてそれなりに詳しいという自負もある。

そもそも僕みたいな弱い者は他者の力を借り、無用な戦闘を避けるためにも交渉は必須なのだ。

僕が求めるのは最強の力などではなく、己の尊厳を護れるだけの強さなので、なんでもかんでも1人でやるつもりなど毛頭ない。


そう、何事においても、やはり対話は大切なのだ

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