脳脊髄液が漏れた話

Himehagi

第1話 耳鳴りが止まらない

 二十五歳の五月ごろ、耳鳴りが始まった。

 博士後期課程の三年目だった。パソコンを見ていたら、キーンという大きな音がした。あまりに大きな音だったから最初は何が鳴っているのかわからなかった。夜になっても治らなかった。三日くらいは放っておいた。そのうち止まるだろうと思った。もちろん医者には行かなかった。「耳鳴りくらい」で医者に行くわけがない。

 一週間くらい経っただろうか。まだ耳鳴りは続いていた。その頃、怖くなってネットで突発性難聴のことを調べた。耳鳴りが始まってからすぐに治療を受けないと手遅れになるらしい。これはまずい、と近所の耳鼻科に通った。ビタミン注射を受けた。耳鳴りは消えなかったが、大きくなりもしなかった。これはきっと手遅れになってしまったんだ、と納得して、まあ、人の話し声とかが聞こえなくなったわけじゃないし大丈夫でしょ、別に耳を使う仕事をしてるわけでもなし、そんな感じで耳鳴りのことは諦めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る