第66話 PL2の秘密

――さて。

 ここで物語を一時停止して、Aちゃんにひとつ、質問があります。


A「ほえ? あたしに?」


――もうすでにお気づきかもしれませんが、じつは色式べにには、とある秘密がございます。

 これまでの捜査で、円筆あくむは、その秘密に気づいたかも知れません。

 その情報をGMに、こっそりLINEで送っていただいてもよろしいでしょうか。


B「……………………」

A「え? ちょっとまって? なんか……そーいう伏線とか、ありましたっけ?」


――ここで、GMからアドバイス。

 この謎に関して、PL2のプレイングによっては、極めて理不尽な質問になることもあるでしょう。

 ですので、わからないならわからないで結構です。


A「えええええええええええええ悔しい! 絶対これ、推理できないやつだよ!?」

B「うふふふふふふ」

A「ってかこれ、アレだ! さっきの最終推理! きっとあそこに失敗したら、べにの正体が明らかになるルートだったんだ……ううう。そうとも知らず、あたしったら得意げに推理を……」


――さて。それはどうでしょう。


B「さーて。それはどーやろー?」

A「うううううう。GMとBちゃんのしたり顔が、にくい! これ……きっと……うまいこと……真相を隠されたって展開じゃ」


――さっき話した通り、あまり深く考えなくても結構ですよ。


A「まって。まてまてまって。そう簡単に諦めてなるものですか! これまでに出てきた情報を整理します」


――これまた、長くなる気がするなぁ。


B「うちは、いつまでだって待つぇ」

A「まず、……基本的な情報として。……べにちゃんに関する証拠品は、たった三つだけですよね」


――はい。

 これは、一度提示した情報なので、改めて出しても構わないでしょう。

 部屋にあったのは、”お弁当箱、手持ち鞄、スケジュール帳”でした。


A「そのうち、あたしが調べたのは、”スケジュール帳”。その内容は、月一回の頻度で地元から離れた場所に旅行に出かけていること」


――それともう一点。

 ササオによると、”旅行鞄”の中には『サバイバルナイフ』が入っていましたね。


A「………………定期的に外出していて、なおかつナイフを携帯している。…………うーん……………ねえ、おじさ……じゃない。GM。ここの推測って、メタ推理もありですか?」


――OKですよ。

 この質問は、プレイヤーであるあなたに対して訊ねています。ロールプレイも必要ありません。これまでに起こった、全て。Bちゃんのプレイスタイル、シナリオ制作者の癖など、何もかもを推理の材料にして結構です。


A「うーん! なんだかお腹痛くなってきた!」

B「がんばれ、Aちゃん! うちはだんだん、楽しくなってきてる!」

A「うぬぬぬぬぬぬぬ」


――じゃあ、悩んでいるAちゃんを肴に、我々はお菓子でも食べていよう。


B「あい」

A「……ぬぬぬぬぬぬぬぬ。……改めて聞きますけど、この謎、そもそも解けないパターンもある、ってことですよね?」


――そうですね。


A「でも……、すくなくともこれまでに、違和感というか、ヒントは、あった。

 まず第一に、倉庫前、ポケットナイフでロープを斬ったとき。あのとき、べにちゃんはたしか、【4D6】を振っていました。これは、ナイフの扱いに熟練している証拠です」

B「せやね」

A「これは、キャラ作成の時点で、ハンドアウトにそういう指示があったと考えましょう。……となると……うーん。ナイフを使って、人知れずどこかに出かける何者か。……殺し屋とか、殺人鬼、とか?」


――答えは、スマホを通してGMに送信してください。


A「えっとえっとえっと! ちょっとまってちょっとまって! いまのはただの独り言です。ちょっとだけ……シナリオを書いた人の……気持ちを……考えているんです……」

B「シナリオを書いた人。……お母様の……?」

A「まあ、そうなりますね」

B「あかんうち、ちょっぴり泣きそうになってきた」


――(私も)


A「二人して、しんみりしないでください。亡くなったの、何年前のことだと思ってるんですか。さすがに心の整理はついてますよ。それよりなにより、謎解き、謎解き、です。

 色式べにの正体は、殺人鬼。……たぶんそれで、筋は通ってると思うんですけど、どうにもすっきりしていないところが……」


――(どうしよう。この質問、本来なら制限時間があるんだけど、ここでそれを言い出すのはあまりにも無粋な気がするな)


A「う――――――――ん。

 うまく言えないんですが、このお話の流れでPL2の正体が”殺人鬼”というのは、シナリオの構成上、あまり美しくない、というか……物語のテーマに沿っていない、ような……」

B「え? どーいうこと?」

A「あくまでこれ、感覚的な問題なんですけどね?」


――(へえ。母子間で受け継がれてるものなのかな、そういう感覚って)


A「ひとつ。これがヒントなんじゃないかな、って検討がついている情報があります」

B「なあに?」

A「ササオさんの部屋で見つけた、”使い古されたノート”。……もし、あたしがこの物語を書いた人なら、きっとあれを伏線に使います」

B「…………ほうほう」

A「ミ=ゴ、食屍鬼、ゾンビ、ニャルラトホテプ、ノーデンス……意味ありげに登場したこれらの情報のうちのどれかが、この物語の鍵なのではないでしょうか」

B「ちょっと突飛すぎへん?」

A「いいえ。さっきBちゃん、色式べにっぽい声色で、こんな風に言いました。『神話生物の親切は、ありがた迷惑なことも多い』って。単なるメタ発言かも知れませんが、あたしはそれ、ヒントじゃないかなと思ってます。べにちゃんって、ロールプレイとプレイヤー発言をしっかり切り替えてしゃべるタイプの人なので……」

B「…………」


――(すごいな、この子。情報がない中で、ここまで答えに迫るのか)


A「可能性としてありそうなのはやっぱり、タイトルにも絡んでる、ミ=ゴでしょうか。……ただ、それだと違和感があります。……色式べにがミ=ゴならば、さっきミ=ゴが現れたときに狂気値が増えた理由にならない」

B「…………あっ。ほんとだ」


――こらこら、Bちゃん。

 ヒントになってますよ、いまの反応。


B「ふえっ。ごめんなさぁい」


――気をつけてね。


A「あと、ニャルラトホテプとノーデンスも違う気がします。神様みたいな設定の彼らなら、ミ=ゴなんて怖くないでしょうし」


――(まあ、それはシナリオの設定次第なんだが、筋は通っているので何も言わないようにしよう)


A「となると残すは、ゾンビか食屍鬼。たぶんべにちゃんの正体は、そのどちらか……。です、けど……ここから先が、……わからない。きっと、Bちゃんが隠したお弁当箱の中身に、そのヒントが隠されていたんでしょうけど。……ゾンビ……食屍鬼……ゾンビ……食屍鬼……」


――(その二択だったら、どっちが正解だとしても地獄な気がするけど)


A「うーん! どっちでも、わりと筋が通るような……色式ちゃん……いったい何者なんだぁ?」

B「……………………」

A「うーん。……うーん……」


――さて。

 さすがにそろそろ、悩みすぎているね。

 本来ここは、さっと流してしまっても構わないところなんだ。

 きみの結論を……、


A「って。ああああああああああああああああああああああ!」


――うわ、びっくりした。


A「わかったああああああああああああああああああああああああ! Bちゃん、最初から、答えを言ってくれてたんだ!」


――え?


B「えへへへへ。ばれたぁ?」


――え、え、え? どゆこと?


【To Be Continued】

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