第67話 告白
A「食屍鬼、食屍鬼、食屍鬼! 色式べにの正体は、食屍鬼です!」
――え。なんでそんな……。なにが……?
A「わかりませんか? 色式べにさんの名前をよく見てください!」
――えっ。あ。……ホントだ。『しょくしき』って読める。
B「ふっふっふっふっふ。うち、GMの目すらも誤魔化して、こっそりヒントを仕込んでおいたの!」
――また、わけのわからんリスクを……。
B「だってぇ。一応、うちのほうが上級者やし。これくらいならええかなって」
――そっか。
……でも、万一の事故が怖いからさ、次、やるときは、事前に相談してね。
B「うふふふふ。どーしよっかなー?」
――(魔性の娘だ……)
ちなみに、大丈夫かい? 結果的に、きみのキャラが追い詰められることになってしまうけど。
B「それもそれ。バッドエンドも、クトゥルフの醍醐味や!」
A「わかるぅー」
――ええと、ではもう、秘匿チャットを通さずとも、正解だとわかったことにしましょう。
円筆あくむは、直感的に理解します。
色式べにの正体が……“人を喰らうもの”であることに。
この情報をどのように扱うかは、あなたの自由でいいでしょう。
A「はあい」
――では再び、物語の世界に戻りましょう。
いま、あくむとべには、杉上サキコ及び、彼女の仲間であるミ=ゴに囲まれています。
サキコはどうやら、”肉体を交換する手術”を行ってくれる……とのこと。
A「一応その前に、事件について聞いてもいいですか? いろいろ気になることがあるので」
――いいですよ。
あくむ「ねえ、杉上サキコさん。……いえ、アカリさんと呼んだ方がいいかしら?」
サキコ「名前なんて、便宜上のものにすぎないわ。これまで通り、サキコで結構よ」
あくむ「では、サキコさん。あなた結局、なんで古里アカリを殺したんですの?」
サキコ「ああ、そのこと? ……安心して、私、アカリのことは殺していないわ。専用のカプセルに入れて、一時的に眠ってもらっただけなの。いまは私の仕事仲間に連れられて、宇宙旅行でもしてるんじゃないかしら」
あくむ「そう……だったんですの」
サキコ「ええ。つまり、この美郷荘では最初から、殺人事件なんて起こっていなかったの。当たり前でしょ? こう見えて、ここのことは結構気に入ってたんだから。友だちの死で、ここを穢したくなかったのよ」
あくむ「そう……でしたの」
サキコ「私はただ、ほんの数日だけ警察の目を誤魔化せればよかった。だって私にとって、人の見た目なんてものは、自由に“交換”できるものなんだから」
あくむ「……なるほど。それを聞いて、少し安心しましたわ。あなた、イカレてはいるけど、筋は通す方、なんですのね」
サキコ「ご理解いただけたようで、幸いだわ♪」
――さて。
ではここで、GMから最後のアドバイスがございます。
A「? これ以上に何か?」
――このシナリオには、ゲーム的に想定されている”グッドエンド”のようなものはない、ということです。
B「グッドエンドが……ない? どういうこと?」
――つまり、メタ的に「こうすればきっと良いエンディングに到達するだろう」ということを考えなくても構わない、ということですね。
A「あー、なるほど。良い子ちゃんにならなくていいってことか」
――仰るとおりです。
残されているのはただ、あなたたちがその結末に納得できるかどうか、その一点。
自分のキャラならきっとこうするだろう、という想像力を働かせながら、最後の話し合いをお願いいたします。
B「ま、ま、マジか……! メタ要素なしの、ガチ議論しろってこと?」
――そうですね。
B「ひええええええ。ここにきて、ぶっ込んできたなぁ……」
――難しいロールプレイになるかもしれませんが、よろしくお願いします。
べに「……………………」
あくむ「べに。わたくし、あなたに話さなくちゃいけないことがありますの」
べに「……なに? しょーじき、厭な予感しかせぇへんのやけど」
あくむ「じつは……じつは……その………」
べに「どきどきどきどきどきどき」
あくむ「じつは……えっと……」
べに「な……………なあに…………?」
――(どきどきどきどきどきどき)
A「ア……ッ。なんか、すっごく喉渇いてきた」
――頑張って。
A「ま、まさか……ロールプレイとはいえ、こんなセリフを言う羽目になるとは……!」
――難しいようなら、おじさんから話そうか?
A「GM! この状況で、いつものノリに戻らないでください!」
――では、おじさんは見守っていよう。
あくむ「わたくし……わたくし……じ、じつは……」
べに「じつ、は……?」
あくむ「じつはその、……わたくし! 女の子じゃなくて! 男の子が好きなの!」
べに「…………っ! ……ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!? そっちいいいいいいいいいいいいいいい!?」
あくむ「ご……ごめんなさい! いままで黙ってて……」
べに「でもでもでも! 一ヶ月前に告白したとき、OKしてくれたやん!」
あくむ「それは……その……。べにを傷つけたくなくて……つい、うっかり……」
べに「そーいうこと、うっかりでOKしちゃ、ダメーっ!」
あくむ「でもね? わたくし……あなたのこと、好きなんですのよ? それは本当ですの! べにのこと、尊敬もしてるわ! ……わたくしたちの問題は、ただ一つだけ。あなたの……あなたの肉体が……女の子だってこと!」
べに「ふぎゃあああああああああああああああああああああ! 聞きたくなかった! 聞きたくなかった! ぜんぜん予測してなかった! そんな告白!」
あくむ「だってだってだって! わたくし……大好きなべにとの間に……赤ちゃんがほしかったんですもの!」
べに「そ、そー言われると……ふ、ふくざつ!」
――ではそこいらで、見かねたサキコが口を挟むでしょう。
サキコ「そっか。それであくむちゃんはここ、――美郷荘にやってきたのね?」
あくむ「え、ええ……。なんでも、人間の身体を自由に変化させる魔法使いがいるって聞いて……」
サキコ「あら。あなた、魔法の知識があるの?」
あくむ「……ええ、まあ。いちおうクラスでは、”魔女”って呼ばれてたくらいですから」
――(ああ、その設定、ちゃんと意味があったんだ)
サキコ「でも、残念ながら、ちょっと考えているのとは違ったわね。私がするのはもっと物理的な、……外科手術よ」
あくむ「そう……でしたか……」
サキコ「ちなみに、言っておくけれど私、厭がる相手にムリヤリ手術するのはごめんよ。だから二人、ちゃーんと話し合って、納得した上で結論を出してね?」
――そういって彼女は、いったんキッチンから三人分のお菓子と珈琲を持ってきてくれます。
どうやら、たっぷり話し合いに付き合ってくれる姿勢ですね。
A「この人、普通に親切だあ!?」
B「それが逆に怖い……」
A「ちなみにその……ミ=ゴさんたちは何をしてるんです?」
――特に何かするわけでもなく、それぞれ談話室でくつろいでます。
A「かわいい」
B「……ってかこいつら、敵じゃないんかい」
【To Be Continued】
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