第55話 燻製ニシンの虚偽

――では、次はどうしましょう。


A「うーん。……殺人現場以外だと、どこも似たり寄ったりですねえ」

B「でもこのルールやと、早めにこれだっていう情報を引き出しておいた方がいい気がする」

A「とはいえ現状、ヒントはありませんし。……ねえBちゃん、誰か、怪しそうな人、います?」

B「強いて言うなら、ニンジロウさんとか? 事務室もキッチンも、オーナー夫婦の寝室も、ぜんぶ彼に関係した証拠が出てきそう」

A「まあ、美郷荘は彼の自宅でもありますからねぇ。……それに殺人事件の大半は、近親者の手によるものだといいます。……ただ……」

B「?」

A「どうも……彼、この事件の犯人ではない、気がするんですけど……」

B「なんで?」

A「別に、これといった証拠がある訳ではないのですが」

B「じゃ、やめとく?」

A「いいえ。結局調べることには変わりません。”事務室”から順番に調べて行きましょう」


――いいでしょう。

 あなたたちが事務室の扉を開くと、そこは少し生活感のある部屋でした。

 普段、誰かが寝泊まりしている様子ですね。




・調べられる場所

 スチール製の棚 ”知力”判定

 事務机 ”知力”判定

 ゴミ箱 ”五感”判定




A「”五感”担当はあくむで」

B「”知力”担当は、べにって感じがええかな? ……ほな、ダイス振りましょ」

A「”スチール製の棚”を調べます。【ダイスロール:6+11】。成功!」


――では、情報を出していきます。




※円筆あくむの情報:スチール製の棚

 書類の中に、オーナーのものと思われる日誌が見つかる。あなたが気になったのは、以下の情報だ。

『妻の様子がおかしい。ひょっとするとあの、幼なじみのサキコさんに何か影響されたのかも知れない。妻は芯の強い人なのに。まさかこんなことになるとは……』




べに「それじゃあ私は、”ゴミ箱”を調べる」

あくむ「お願い」

べに「……(がさごそ)……うっ。これは……っ」

あくむ「どうしまして、べに?」

べに「ううう……いや。特に何も……」


――ではBちゃんは、1点の狂気値を追加してね。


B「……はい」

A「えっ、えっ、えっ、えっ。何見たの何見たの何見たの?」


――情報の共有は、会議フェイズのみでお願いします。


A「き、気になる~~~~~~~~」

B「では、ササオはんの情報、どうぞ」


――ではササオは………【シークレットダイス:??】………ふむ。


ササオ「『この帳簿の筆跡はすべて、一人の女性のもの』だ。……ひょっとすると古里ニンジロウは、ほとんど経営に関して無知なんじゃないか?」

あくむ「彼、形だけのオーナーだったってこと?」

ササオ「そうなるな」

べに「……ふーん」


――ここでの情報はこれくらいです。


A「では次。れっつ”キッチン”」


――あなたたちがキッチンに向かうと、そこがまだ暖かいことに気づきます。

 どうもこの一、二時間以内に人の出入りがあった感じですねえ。




・調べられる場所

 冷蔵庫:”五感”判定

 カレンダー:”五感”判定

 食器棚に隠された機械:”知力”判定




B「気になるのはトーゼン、”隠された機械”やね」

A「……あ! ちなみにあくむには、電子工学の《雑学》があります!」


――良いでしょう。では先ほど同様、難易度を一段階下げていいですよ。


A「でも……技能判定の確率的には、イマイチかな?」

B「どうやろ。でもチャレンジしてみよ! せっかくの提案やし!」


――そういうプレイも楽しいですね。


A「ではでは……【ダイスロール:4(+8)】 失敗!」

B「うちは”カレンダー”をチェックします。【ダイスロール:5(+8)】 失敗!」

A「どっちも失敗してるー!」


――ではあくむは、下手に聞きかじりの知識を披露しようとして、失敗したのでしょう。


ササオ「……何やってんだ、おまえら」

あくむ「しょぼん」




※円筆あくむの情報:食器棚に隠された機械

 あなたがキッチンの食器棚を探ると、そこに盗聴器を発見した。




あくむ「……ふーむ……これはいったい……?」

べに「ところであくむちゃん、機械の知識なんてどこで身につけたん?」

あくむ「兄が詳しいのよ。その影響で、ちょっとね」

べに「へえー……」


――では、ササオの探索……は……。


ササオ「なんだこれ!? 気持ちわる!」

あくむ「? なんですの?」

ササオ「いや……この”冷蔵庫”、『なんかの動物の脳みそが入ってる』ぞ!?」

あくむ「脳みそ……?」

べに「……さすがにこれ、あとでニンジロウさんに問い詰めた方がええね」


――では、第一探索フェイズは終了。

 続いて、第一会議フェイズを開始します。

 三人は、ぞろぞろと談話室へ向かうでしょう。


あくむ「……それじゃ、情報共有から済ませてしまいましょう」

べに「うん」

あくむ「まず、わたくしの方から……」




(かくかく、しかじか)




あくむ「……って感じ」

べに「キッチンに盗聴器、か。なんだか不穏な感じやね」

あくむ「そちらの情報は?」

べに「私は……せやね……」




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『色式べにの情報』

・現場へと続く足跡

 先ほどあなたたちが進んだ足跡とは別に、女性のものと思われる足跡が一つと、それより一回り大きい足跡が一つ、人目を逃れるようなルートで倉庫まで続いている。

 恐らく、片方は被害者である古里アカリのもの、もう一つが犯人のものだろう。

 靴のサイズは成人男性用だが、偽装のため小柄な人が大きな靴を使った可能性もある。


・事務室のゴミ箱

 あなたはゴミ箱の中から、くしゃくしゃに丸められた紙くずを発見する。

 それは以下の内容だ。

『死ね死ね死ね死ね死ね死ねすぎさっきーに近づくな死ね死ね死ね死ね死ね死ね』

 歪んだ性根が産み出した、気味の悪い文面を見たあなたは、狂気値を1加算すること。


・キッチンのカレンダー

 一ヶ月ほど前、アカリはサキコと、三日ほど旅行に出かけていたらしい。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




べに「……って感じ」

あくむ「ふうん。さっきギョッとしてたのは、気味の悪い手紙のせいか」

べに「うん」

あくむ「情報を総合すると……アカリさんがおかしくなったのは、一ヶ月前の旅行が原因で間違いなさそうですわね」

べに「うん」

あくむ「まずこの一件、サキコさんに問い詰めるべきかと思うんですけれど」

べに「その前に、いったん、”冷蔵庫”の中の脳みそについて問い詰めた方がええかも」

あくむ「確かに。今んとこ、わかりやすく危ない感じなのは、それか」


――そうですね。

 ではその一件をニンジロウさんに問い詰めると、彼は朗らかに笑って、


ニンジロウ「え? 冷蔵庫の中を観たのかい? あれは、熊の脳みそだよ。有名なアイヌ料理で、チタタプ(たたき)にして食べるんだ。……本当は、明日の夕食の目玉だったんだけどね」


――と、こう答えるでしょう。


B「ふーむ。……さてはこれ、燻製ニシンの虚偽やな」

A「え? なに……ニシン? 熊料理じゃなくて?」

B「ミステリーなんかで、読者の注意をそらせるためにばらまく偽の情報ってこと。ミスディレクションってやつ」

A「へぇぇぇぇぇぇ」

B「このことはいったん、忘れた方がええかも。ここは、別の方針で推理を進めよっか」

A「わかった!」

B「うふふふふふ。うち、ミステリー好きの血が騒いできたっ!」

A「Bちゃん……。頼もしい……!」


【To Be Continued】

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