第50話 夕食時

――では二人は、キッチンを離れて美郷荘の2Fへ向かいます。

 すると……ふいに扉の隙間から、幽霊じみた女の目が覗いていることに気づくでしょう。


あくむ「ん?」

べに「おや」


――明らかに焦点の合っていないその人は、きぃ、と音を立て、ゆっくりと扉を開きます。


B「ええっと。べには、あくむの盾になるように身構えます」


――とはいえ、彼女から敵意は感じられませんね。

 女性は、寝間着を肩まではだけさせたような格好のまま、ぶらりと廊下に歩み出て、何やらぶつぶつ言っています。


???「アカリはどこぉ……? アカリを探してるの……」

あくむ「あかり? 誰のことだろ」

???「アカリに会わなきゃ……」

べに「ええと、どなたのはなし?」

???「…………」


――彼女、どうやらまともに受け答えできる精神状態ではなさそうです。

 見るも気の毒な彼女の姿を目の当たりにしたあなたたちは、【1D6-4】の狂気値を加算して下さい。……あ、ちなみにBちゃん、狂気ルールについては……?


B「もちろん、Aちゃんから予習済みですぇ」

A「10点溜まると”一時的狂気”に、20点で”長期的狂気”、30点でキャラロストですよね?」


――OKです。では、ダイスロールどうぞ。


A「4」

B「こっちも4。二人とも、そんなにショックじゃなかったっぽい」


――では、二人とも狂気値の加算はなしですね。


A「結局このひと、なんなの?」


――そうですね。彼女は結局、要領を得ない言葉を言うばかりで、自室の方へ引っ込んでしまいました。


べに「なんか、ちょっぴり怖いねえ、あくむちゃん」

あくむ「……ふむ」

べに「あくむちゃん? どないかした?」

あくむ「ああいや、……まあ、……なんでも」


――さて。

 その後あなたたちが、ペンションの浴室を覗いたり、業務用乾燥室を眺めたり、ちょっぴり雪遊びをしたりして過ごしていると、あっという間に日が沈んでいくことでしょう。


あくむ「きゃっきゃ」

べに「うふふふふ!」

あくむ「ほーら、べに! つかまえてごらんなさーい!」

べに「わーい!」


――そうして、夕食時。

 あなたたちは、ペンションオーナー手製の牛すじ煮込みカレーを食べるでしょう。


A「ほう。牛すじ……」


――美郷荘名物だというそのカレーは、スパイスたっぷり、タマネギのうまみが溶け込んだヘルシーなカレーでした。

 丁寧に煮込まれた牛すじは、噛み応えと食べやすさを両立した絶妙な味わいで、噛めば噛むほど肉の味が口いっぱいに広がります。

 鮮やかな黄色のターメリックライスに、シャバシャバでもなく、かといってドロドロでもない、ちょうどいいバランスのカレーが良く合うでしょう。

 カレーのルーを口の中で転がすと、繊維状になるまで煮込まれた野菜の甘味と、スパイスの辛さが調和して、付け合わせのピクルスとの相性もばっちり。

 ぴりぴりとした辛みがあるにも関わらず、スプーンが止まりませんね。


ニンジロウ「おかわりもあるぞ!」


――オーナーのニンジロウさんが、にこやかに言ってくれます。

 どうやらこのカレー、食べ放題らしく……、


A「ちょ、ちょっとちょっとちょっとちょっと」


――?


B「この描写いる?」


――いいえ。昨夜、GMが趣味で書き加えた描写です。


A「特に理由のない飯テロがあたしたちを襲う!」

B「うち、お腹減ってきちゃった……」


――煎餅屋仙七の半熟カレーせんべいならありますよ。


B「あ! これおいしいやつや! もらおー♪」

A「GM、ひょっとしてあたしたちを太らせようとしてます?」


――ふふふふふ。


A「さて。……では、カレーを美味しく食べますか」

B「いや。うちはあえて、食べないことにする」

A「え? なんで?」

B「メタ的な話やけど、毒とか入ってたら困るし。念のためにね」

A「プレイヤーの方は、こんなにもせんべいをモシャっているというのに……」


――では、ニンジロウさんは少し残念そうにしています。


ニンジロウ「お腹が空いたら、冷蔵庫にラップしておくからいつでも言ってください」


――みたいなことを言うでしょう。


A「へー。ここ、そんなことまでしてくれるんだ」

B「実家のような安心感」


――まあ、こういう場所でやってるペンションですから、人情味のあるサービスを心がけているのでしょう。


べに「親切な人なんやね」

あくむ「まあ、そういうことね。あなたも強がらずに、夕食を食べたらどう?」

べに「ううーっ。……でも、止めとく。もしものことがあった時、あくむちゃんを守るのは、私なんや……」


――と、その時、ラジオ情報が聞こえてきました。




『本日16日から20日にかけて、G県全域で非常に強い風を伴う猛吹雪となる見込みです。このため、山間部を中心とする国道で、通行止めなどの規制の実施が予想されております。不要不急の外出はお控えいただき、やむを得ず外出される場合は路面状況の悪化に十分注意し……』




――その声に呼応するように、窓の外を雪の塊が叩き付けるような音がし始めます。


ニンジロウ「うーん。これはしばらく、外に出ることは難しそうですねえ」

べに「あら。スキーは無理なかんじ?」

ニンジロウ「そうですねぇ。といっても山の天気は変わりやすいですから……運が良ければ、一滑りするくらいの時間はあるかもしれません」

べに「そっかあ。……ま、べつに、私は構わへんけどね。あくむちゃんと一緒にいられるし」

ニンジロウ「おやおや、微笑ましい」


――と、ニンジロウは優しげに笑うでしょう。


ニンジロウ「ただ、こういう時はロープウェーも止まってしまって、街へ降りることもできなくなります。みなさん、そのつもりでお過ごし下さい」

あくむ「ふーむ。なんだか、典型的なクローズドサークルというか……」

ニンジロウ「? なんです? くろーずど……?」

あくむ「推理小説のジャンルですよ。外界との接触が断たれた状況で、殺人事件が起こるようなやつ」

ニンジロウ「はっはっは! お客さん、面白いことをおっしゃる。まさか、こんな平和なペンションで、事件なんて起こるはずがないじゃないですか」


――ニンジロウさんは豪快に笑いますね。


A「実にわかりやすいフラグ。このシナリオのタイトルを見せてあげたい」

B「《読心術》、つかっとく?」

A「そうしましょ」


――いいでしょう。【シークレットダイス:??】……ふむ。

 あくむには、ニンジロウが嘘を言っているようには見えません。


B「ほな、オーナーが犯人役ではない可能性に、一点ってとこやね」


――それでは、他に質問がないようなら、次のシーンに移行しますが。


あくむ「あ! そういえば、さっき廊下を歩いてたら、不思議な女の人と出くわしたんですけど、オーナーは心当たりがあります?」


――おや。それについて訊ねますか。


A「なにかまずいことが?」


――いいえ。

 するとオーナーは、少し気まずい表情であなたたちを見て、


ニンジロウ「ああ、妻と出会ったんですか」

あくむ「妻? ……あの人、ニンジロウさんの奥さんだったんですか?」

ニンジロウ「ああ。古里アカリといいます」

べに「…………アカリ?」

ニンジロウ「そうだよ」

べに「………? でも、彼女………」


――と、その辺りでニンジロウさんは、別の客に呼ばれて席を離れます。

 牛すじ煮込みカレーは、みんなに大好評のようですね。


B「ふーむ。(カレーせんべいをもしゃもしゃと食べる)」


――気に入ってもらえたようでなにより。

 では、次のシーンに移ります。


【To Be Continued】


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