第40話 中抜き作戦

A「あ、そうそう。言い忘れてましたけど、これまでの展開の全て、イチローさんとは共有している前提で話を進めてもよいですか?」


――もちろん、そうでしょう。

 これまでの行為全てが二人の独断だったとしたら、それこそやべーやつです。


B「ほな、次はこういう展開になるやろね。イチローさんが、お金で雇ったダークエルフの女性と、いちゃいちゃしながら店の前を通りがかるんです」


――ほう。


A「GMは、以前のセッションで”恋人捜し”をしたと言いました。それなら、きっとその程度のことはできるはずですよね?」


――うーん、そうですね。

 ただ金で雇って恋人のふりをさせるだけならまあ、判定不要でOKとしましょう。

 単純に、娼婦を連れて村を歩いている、ということにしますが。……ただ、ちょっとばかり、こちらでもいくつか、判定させてもらいます。【シークレットダイス:??】、……ふむ。【シークレットダイス:??】……ほうほう。


ライヒ「あー、ダメだ! あの女はダメだ! 俺の知ってる中でも、いちばん性格の悪い女だぜ。俺も、何度か金で買ったことがあるんだが、とんでもねーハズレだった。いいのは顔だけさ」


――って感じで、彼は軽蔑の眼差しです。


A「軽蔑したいのはこちらですが……ふうむ」

B「その気持ちに関しては、おくびにも出さへんことにしよう」


――そうですね。せっかくですし、二人がポーカーフェイスを貫けたかどうか判定してみましょうか。”精神力”判定、難易度は”簡単”。10以上で成功です。


A「げ。【ダイスロール:5(+7)】」

B「口は禍の元。【ダイスロール:5(+7)】」


――では、二人揃って能面のような顔ですね。値も同じなので、きっと似たような笑みを浮かべているんでしょう。


正義「へー、そーなんやー」

シュリヒト「しゅごいなー」

ライヒ「とにかく! イチローさんには、いい感じで言っておくれよ! 頼んだぜ!」

正義「はいはい。……だが、取引できるかどうかは五分五分やと思ってくれ。ただでさえ、あんたは嫌われてるんやしな」

シュリヒト「「次、会うときは、良い子にしてろ」

ライヒ「おうとも」


――ライヒはこれっぽっちも疑ってませんね。


A「では、少し間を置いて、イチローと相談するふりをした後、ライヒに『取引成立。金と馬車の手配よろしく』と伝えます」


――おや、あっさり。


B「もちろん、ライヒにはたっぷり恩を売らせてもらおか。『すっごくゴネられたけど、前の世界からの付き合いっちゅうことで認めさせた』ってことにして」


――いいでしょう。


A「では、ここからがちょいと大変な作業ですね。正義とシュリヒト、それにイチローは、徹夜で一仕事する必要が出てきます」


――では、聞きましょう。

 あなたたちが、何を企んでいるのか。


B「うちらの作戦は……名付けて! 箱だけ売っちゃおう大作戦!」


――ほほう?


A「さきほど、ドワーフの冒険者さん、箱ごとPCを動かそうと四苦八苦してましたよね? きっとこの村の人たちは、タブレット端末の形をほとんど理解してないんじゃないでしょうか?」

B「ほら。タブレット端末の箱って、なんだか板っぽいデザインやし、本体の写真がそのまま載ってることが多いでしょ? それで勘違いしてしもぉたんとちゃいます?」


――その可能性は……あるかも、ですね。『異世界人馬鹿すぎ問題』ってかんじで、あまり好みではないですが。


A「でも、そういう勘違い、ときどきありますよ。じっさい、うちのお爺ちゃん、買ってきたタブレットの箱、ずーっとかりかりしてたこと、あります。『これ、全然動かんなー?』って」


――そりゃ、あの人最近、かるくボケかけてるから……いや、ごふんげふん。


B「あ、それと、出荷されたばっかの商品ってたいていスリーブ付きやから、箱っぽく見えなかったのかも」


――ああ、それはあるかもしれませんね。

 彼らには、あの透明のフィルムが何かよくわかっていないのでしょう。


A「ってことで! いまからみんなで、愉快な愉快な、中抜き作業を始めまぁす!」


――いいでしょう。それくらいのことなら、判定なしで成功してもいいです。


A「ちなみに! 商品はぷちぷちで包んでおいて、検品用として未開封の箱を一つ、を用意しておきます。そうすればきっと、ライヒの目を誤魔化せるでしょう」


――ふむふむ。


B「もし、ライヒがこの事態に気づいたとしても、もう遅い! お金はすでに、こっちのもの! イチローさんの手元には、無傷のままのタブレット端末が山ほど残る、っちゅう寸法や!」


――はあはあ。


A「ちなみにスリーブは、底面をコの字にカットして、テープで補修しておきましょうか。そうすれば一見したところわからないし、商品引き渡しの際は、本物一つを除いて梱包材に包んで渡すから、見破られることもないはず!」


――ふーむふむ。そうですか。よく考えましたね。


A「えっへん」

B「ドヤァ……」


――で、商品の重さは?


A「え?」


――中抜きしたんなら、きっと重さが変わってるはずですよね? 一つ二つだけならともかく、大量の在庫を管理するとなると、重さの違和感に気づきそうなものですけど。


A「あ」

B「……そっか」

A「ええと。……そ、それは……その……代わりに、なんか、紙を詰め込む、とか?」


――うーん。たぶん結構な数になるから、かなりの量の紙が必要になりそうですねえ。それはそれで、別に仕入れる必要があるでしょう。……しかし、この辺鄙な村にいて、そのように不審な動きがライヒにバレないはずはない。


A「ぎゃふん」

B「ぐえー」

A「……じょ、女子高生の浅知恵でしたか……」


――いえ。別にOKですよ。


B「OK、とは?」


――別に私は、完全無欠の犯罪計画を考えろ、とは言っていません。ある程度の整合性がとれていれば、ライヒの方が騙されてくれる可能性がありますので。


A「GMの温情が出ている……!」


――温情というか、そこまで複雑な動きを求めていなかっただけです。正直私、ここまでいろいろ考えてくれて、すごく感心しました。お二人に”女神の寵愛”を一つずつ進呈しましょう。


A「わあい!」


――そもそもライヒはいま、あなたたちのことを完全に信用しています。

 ので、ライヒがこの計画に騙されたかどうかは、ダイスの神様に聞いてみましょうか。”知力”判定、難易度”普通”、12以上で成功。

 どちらか片方が成功すれば、この計画はうまくいったものと見做しましょう。


B「おおきに! 【ダイスロール 11+8】 成功!」

A「ついでにあたしも! 【ダイスロール:8+5】 成功!」


――では、ライヒはこれっぽっちも疑わず、ニコニコ笑顔で現金をイチローに支払うことでしょう。軽めの荷物を積んだ馬車が軽快に走るところを見ても、彼は自分の輝かしい将来の空想に夢中で、これっぽっちも気づいていません。


A「人を呪わば穴二つ。人を騙すものは、誰かに騙されるのです」

B「正義は勝つ。やさしい物語のできあがりやね」


【To Be Continued】


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