第36話 女神の寵愛

――では、このタイミングで今回からの選択ルール”女神の寵愛”について話しましょう。


A「女神の、寵愛?」

B「そーいや、”転移者”のスキルで、そんなんありましたよね?」


――はい。

《奇跡の人》:”女神の寵愛”を2つまでストックできる。

 これですね。


B「なんなんです、それ?」


――”女神の寵愛”を手に入れるには三種類の方法があります。

 (1)素晴らしいロールプレイ。

 (2)ゲームを面白くする提案。

 (3)プレイヤー自身のアイディアが必要な謎解きのクリア。


B「あ~~~~~、なるほどなるほどなるほど。だいたいわかりました!」

A「取得の方法はわかりましたが、それによってどういうメリットが?」


――基本的には、大失敗ファンブルを除くダイスロールを振り直すことができます。


A「ほうほう。つまり、失敗を成功にすることが出来る、と」


――基本的にはそういう使い方ですね。

 ちなみにこれは、味方のために使うこともできますし、敵の命中判定を振り直させることもできます。


A「運命を操作できる、と」

B「転移者は女神の力で異世界に来てるから、特別繋がりが深いってこっちゃろーね」


――おっしゃるとおりです。


B「ちなみに、”素晴らしいロールプレイ”の基準は? ”女神の寵愛”は、どれくらいの頻度でもらえるもんなんです?」


――GMの裁量に任されています。”素晴らしいロールプレイ”といっても、特に基準があるわけではありませんし。

 とはいえ、一度のセッションで三つ以上の”女神の寵愛”を与えられることはない、と思って下さい。


B「まあ、あんまり大盤振る舞いしてもぉたら、”失敗”の出目を片っ端から”成功”に変えてまうゲームになってまうやろしね」


――はい。……ちなみに、実を言うと過去のセッションでも、こっそりこのルールを採用させてもらってる。


A「え、まじ?」


――うん。Aちゃんのロールプレイは、最初からぶっ飛んでたからねえ。

 ただ、あの時はまだチュートリアルシナリオだったから、こちら側でこっそりダイスを振って、攻撃を無効化する処理にしたんだ。


A「にゃるほど~~~」


――さて。

 とはいえ、GMが常にみなさんのロールプレイに目を光らせている訳にはいかないので、今後、自分が”良いロールプレイをした”と思った時は、それとなく目配せして下さいね。


A「はい!」

B「あい」


――ではシーンを戻して、雑貨屋の店主と話しているところから。


A「ええと……」

B「もめ事を起こした”転移者”の正体が、トラックの運転手っぽいって話」

A「そうそう」


――ライヒは、じっとあなたたちを見て、こう言います。


ライヒ「それで? もう用事がないなら、俺はこれで……」

正義「馬鹿野郎。それだけで終わる訳、ないやろが」

シュリヒト「まず、盗んだもの、返せにゃ」

ライヒ「……さっきからあんたら、盗んだ盗んだって人聞きの悪いやつだな。俺は別に、ものを盗んじゃあいねえよ。ちゃあんと取引して、正当な対価を得ただけだ」

正義「どうせ、相場通りの取引じゃないんやろ」

ライヒ「当たり前だろーが! こちとら、慈善事業でこの仕事してるわけじゃないんだぞ!」

正義「こいつ……っ。ぼくかて、何の助けもなくこの世界に迷い込んだ時、……シュリヒトちゃんの家族に助けられなきゃ、どうなっていたか。……転移したばかりの人間が、どれほど不安な想いでいるかも知らないで!」


――(おお。迫真の演技だ)


B「(ちらっ、ちらっ)」

A「(ちらり。ちらちら)」


――……え? ……あ、ああ! ”女神の寵愛”ね。了解。

 では超勇者正義の”寵愛”ストックは、さっきの提案を合わせてこれで2つめってことにしよう。


B「おおきに!」


――では、そこまで言われたホビット族の店主は、さすがに少々、ばつの悪い顔つきになって、


ライヒ「おれだって別に、悪魔って訳じゃねえけどよ。……あいつの”動く箱”、似たようなのが山ほど積んでやがったのよ。タダ同然でもらったのは、その内のいくつかよ。全部じゃねえ」

正義「タブレットPCが……山ほど? 電気屋さんに在庫を運ぶ途中、だったのかな?」

ライヒ「……お前らの事情はわからんけど、まあ、そういうことじゃねえのか?」


――さて。ここで手に入れられる情報は、このくらいでしょうか。


B「はあはあ。だいたい状況がわかってきたね。この近くの森に”転移者”がいて、がめつい雑貨屋の店主との間でいざこざが起こってる、と」

A「それじゃ、会いに行きましょうか」

B「”転移者”に事情聞いて、店主をこらしめて、ほんで大団円、と」

A「……………………ふむ」

B「Aちゃん、何か気になることでも?」

A「いえ。なーんか、それだけで終わらない気がしてるだけです」

B「まあ、まだ展開があるなら、それはそれで。このままやと、三時のおやつの時間までに終わってしまいそうやし。……ケーキ、食べたいし」


――そうですね。

 さて、正義とシュリヒトは、村の人たちから教えてもらった、”動く箱”のある場所へと向かいます。

 三十分ほど歩いたところで、一際拓けた空間が存在しています。その中央には、一台のトラックが停車されていました。

 それは、まさしく”動く箱”という形容がふさわしい、大型の十トントラックです。


シュリヒト「おお! でっけーな!」

正義「……あの、トラック」

シュリヒト「ん? どーした、マサヨシ。顔色、悪いぞ」

正義「ど、どこぞで見たことがあるような気が……ううっ。頭が……」


――と、頭痛を起こしつつも、正義の脳裏に、思い浮かぶ光景があります。

 かつて、あれと同じトラックに轢かれた時の記憶です。


正義「こ……これは……間違いない! この世界に来る前、ぼくを轢いたトラックやないか!?」

シュリヒト「えっ。え~~~~~~~~~~~~~~!?」


――(もともと知ってたはずの展開なのに、二人ともよく演技をするなあ)

 二人が驚いていると、トラックの荷台から、たったいままで梱包材に包まれて寝ていたと思しき男が現れます。


???(GM)「なんだよ、うるせぇな。またあの、商店のチビか?」


【To Be Continued】

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