第32話 オスト村へ

――がたごとと馬車に揺られること、二日ほど。

 シュリヒトと超勇者正義がオスト村へと到着したのは、まだ陽が高い頃合いです。

 建物の多くは簡易の木造建築で、二人はそこが、典型的な開拓村であることがわかるでしょう。


シュリヒト(A)「とうちゃーく!」


――村を見回すと、水場である小川沿いに、寄り添うように民家が建ち並んでいます。

 村の人口は、百人ほどでしょうか。この世界の出身でない超勇者にとっても、見るべきところの少ない場所でした。


正義(B)「さて。退屈な移動もこれまで。仕事の時間やな」

シュリヒト「わたし、けっこう、たのしかったよ! マサヨシ、いろいろ知ってるから!」

正義「……おや。ほんまに?」

シュリヒト「うん! マサヨシ、いろんなこと、しってるから!」

正義「まあ、異世界出身やしな。話題には事欠かん自信はある」


――などと二人がイチャイチャしていると、馭者のおじさんがため息を吐いて、「もうそろそろ到着だよ? 事件が解決するまで、あっしも村に逗留するから、早めに仕事を終わらせてくれよな?」みたいなことを言うでしょう。


正義「任せてくれ。同じ”転移者”同士、すぐにわかり合えるさ」


――では、そんな話をしながら二人は、”冒険者ギルド”が協賛している宿泊施設へと向かいます。”丸焼き亭”の女主人、クナイペが「無料」だと言ったのは、この宿ですね。


B「では、さっそく事情を話して、旅の荷物を降ろしましょ」


――はい。

 それでは二人は身軽な格好になって、村を自由に歩き回ることができます。

 村で調べられそうなところは、以下の三つ。

(1)村長の家

(2)酒場

(3)雑貨屋


B「……”転移者”の元へ直接行くことは、でけへんの?」


――みなさんはいま、彼の居場所を知りません。それを調べるために、情報を集める必要があるようですね。


A「宿屋の店主さんは、なにも情報を持っていないのですか?」


――ふむ。いいでしょう。

 では二人はまず、宿主に声をかけます。彼は、こう答えるでしょう。


宿主(GM)「”転移者”? ……ああ、聞いたよ。なんだか、もめ事がおこってるらしいね」

正義「その人はいま、どこにいるんですか?」

宿主「さあ? ただ、あの人を見つけたのは雑貨屋の亭主だから、その人に聞くと答えがわかるかも知れない」

正義「ふむ……。了解です。ありがとうございました」


――そうして二人は、宿を出ます。


シュリヒト「これから、どーする? わたし、マサヨシに、まかせる」

正義「せやなぁ。いきなり雑貨屋行ってもええけど、やっぱりここは、依頼人から会うンが筋、やろね」


――承知しました。ではあなたは、村長の家を目指します。

 村長の家、といっても、その家はそれほど大きな建物ではありません。


正義「ここの人、大きな権力を持ち合わせてる訳やなさそうやね」

シュリヒト「ふーん。わたし、むずかしいこと、よくわからないや」


――二人が連れ立って村長を訪ねると、待ってましたとばかりに、初老の男が二人を迎え入れました。彼は、自身の名前を名乗った後、ぺこぺこと頭を下げます。


村長「よくぞまあ、こんな辺境の村まで、いらっしゃいました」

正義「いいえ。仕事ですから」

村長「頼もしいお言葉だ。……見たところあなたは、”転移者”のご様子。きっとあなたなら、彼の説得も難しくないでしょう」

正義「まかせてください! 正義を追求するのは、冒険者のつとめ。そしてぼくの人生の目標ですんで!」


――そう、胸をどんと叩いて言う正義の姿に、村長は満足げに笑うでしょう。


A「あっ! GMいま、Bちゃんの胸のぽよぽよとした振動を、じっとりと観察しましたね!?」


――見てないです。マジで勘弁して下さい。逆セクハラですよ。


A「あーやーしーいー」


――きみ、今日のおやつ抜きね。

 あーあ。せっかく今日は、奮発して駅前のケーキを買ってきたのに……。


A「……なーんちゃってね! うそです! うそ! GMは心清い人!」


――いや実際、本当に見てなかったんだけどね……。おっさんはおっさんなりに、女子高生に気持ち悪く思われないように気を遣ってるんだから。


A「ご、ごめんなしゃい……」

B「うふふふふ。仲、よろしいんですのね、お二人は」


――そんなことないです。


A「ふつうです」

B「うふふふふふふふふ」


――(なんだか、Bちゃんから強い圧を感じる)

 えっと。……そろそろ、話を戻します。

 村長は続けて、二人にこのようなことを言いました。


村長「”転移者”が現れたのは、この村のすぐそばにある小さな森の中でのぉ。発見者は、雑貨屋のライヒという者じゃった」

正義「ふーむふむ。ライヒさん、ですか」

村長「その後、ライヒが”転移者”を連れてきたのですが……その、なんでか”転移者”さん、最初からずいぶんとおかんむりでしてな」

正義「オカンムリ?」

村長「怒っていた、というか。イライラしていた、というか。理由はわかりませんでしたが、とにかくそういう雰囲気だったのです」

正義「ふーむ。……ひょっとすると、ライヒさんと何かトラブルがあったとか?」


――ふむ。

 すると村長は、少し気まずそうな表情になります。彼から話を聞き出すには、”精神力”の行為判定に成功する必要があるでしょう。難易度は”普通”。13以上で成功です。


B「ほな、うちはダメやわ。《値切り》に使ってもうたから」

A「シュリヒトちゃん、いけるかな……【ダイスロール:4(+7)】 わーっ、失敗!」


――では村長は、苦い表情を浮かべたままで口を閉ざします。


村長「すみません。村の代表として、あまり俗っぽい噂を口にするわけにはいきませぬ。ここから先は、冒険者さんたちでお調べください」

正義「ふむ……まあ、だいたいわかりましたわ。どうも、おおきに」


――では二人は、村長の家を後にしますね。


シュリヒト「ねえ、マサヒト。『だいたいわかった』って、どういうこと?」

正義「たぶん、ライヒって言う人、それほど評判の良い人じゃないんやろね。村人の悪口を言うわけにはいかんから、村長は口を閉ざしたんや」

シュリヒト「……ああ。なるほど」

正義「と、なると。このもめ事、”転移者”だけの問題じゃないかも知れん。……面倒なことにならんとええねんけど」

シュリヒト「マサヨシ。そーいうの、あなたたちの世界でなんていうか、しってる。”フラグ”、でしょ?」

正義「うーむ……」


【To Be Continued】

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