第19話 ファンブル

黒男(A)「と、いうわけでぼくは、18号室へとやってきたのだ」


――はい。

 では、黒男が扉を開いたところ、三日月型の黄色い面、……明らかに”月”をイメージしたとわかる仮面を被っている女性が、温かい紅茶を淹れているところに出くわします。


A「えっ。紅茶を?」


――はい。


A「この病室には、キッチンがあるんですか?」


――キッチンというか、ガスコンロがあるようですね。

 また、この部屋にはテーブルが一つあって、その上にはフルーツの盛り合わせが置かれています。


黒男「どうもこんにちは、”月”の人!」


――すると彼女は、優しげな声色でこう答えてくれるでしょう。


月(GM)「ようこそ”選ばれし者”。よく来たわね。いまお茶を淹れてるから、ゆっくりしていきなさい」

黒男「そうしたいのは山々だが、ぼくは一刻も早くこの場所を出なければならない。悪いが、何か知っている情報はないかい?」

月「知っている情報、と言われても……ちょっぴり漠然としているわねえ」

黒男「ぼくの助けになるものなら、なんでもいいんだ。さあ。さあさあさあ」

月「ええっと、その」

黒男「”月”は逆位置になると、良い意味になったはず! あんたが良い人だって言うのは、わかっているんだ! さあさあさあさあ! はよ! なんか情報を!」


――ではダイスを振って、彼女が心を許したかどうかの判定を行いましょう。

 ”精神力”で判定を願いします。

 難易度は”難しい”。出目7以上で成功とします。


A「難しい? ”月”は、優しそうな女性、なんですよね?」


――優しそうだからといって、いつも気を許してくれるとは限らないからね。


A「うーむ。……では、ロールプレイをします。うまくいったら、判定に補正をいただくことは……?」


――良い提案です。検討しましょう。


黒男「えーっと。実はぼく、円筆家の次男でね。この円筆家というのは、この地球上に存在する全てのボールペンを牛耳っている一大企業と言って良い。もし無事にこの場所を出ることができたら、きっとここの人たちを助け出すことを保障する。……だから頼む。ぼくに力を貸してくれ」

月「うーん。残念だけど、あなたがいくらお金持ちだったとしても、ここの人たちを助けるには力が足りないと思うわ」

黒男「そんなぁ」


――女性は苦笑しています。このロールプレイは、あまりうまくいっていないようですね。


月「それよりもあなた、ゆっくりお茶でも飲まない?」

黒男「……。わかった。そんじゃーまあ、付き合うよ」


――ではあなたたちは、この病院に来て初めて、ゆっくりと休憩を取ることができました。温かいお茶に、色とりどりのフルーツ。体力と狂気値を【1D6-3】分だけ回復して良いでしょう。


A「では、体力から。【ダイスロール:6】つぎに、狂気値を【ダイスロール:1】。体力満タン、狂気値は変わらず、ですね」


――はい。


黒男「お姉さんはいったい、いつからこの場所にいるんだい」

月「さあて、どうでしょう。何年も前だった気もするし、ほんの数日前だった気もするわ」

黒男「……あんた、いま何歳?」

月「さてさて、どうでしょう。さっぱりわからないわ」

黒男「うーん。要領を得ないなあ」


――月の仮面を被った人は、楽しげに鼻歌を歌っています。


A「……ここから先の情報は、『もっと仲良くなってから』ってことかな」


――さて。それはどうでしょう。


黒男「ところであんた、ぼくをここに攫ってきたものの正体について、心当たりはないかい」

月「それは…………」


――月の仮面を被った女の人は、少し顔をうつむかせたあと、


月「それについては、私からはなにも言えない」

黒男「そいつは……何らかの、魔法を使う者。そうじゃないのか?」

月「そうかもしれないわね」


――すると彼女は、優しげな笑みを浮かべてこう言います。


月「でも、恐れることはないわ。真実を探求し続ける限り、きっとあなたの望みは叶えられる」

黒男「ふーむ。……わかった。ありがとう」

月「どういたしまして」

黒男「ところでその、――果物、すごくおいしかったよ。とっても元気が出た気がする」

月「あら、よかった♪」


――月の仮面を被った女の人は、嬉しそうです。


A「……よし! 結構いい感じで場が温まってきたいまこそ! ”精神力”判定だ!」


――では、少しだけ難易度を下げて、出目5以下なら成功とします。


A「なんだかあたし、TRPGプレイヤーとして成長著しい気がします! 【ダイスロール:2】……って、あ」


――ナイスチャレンジでしたが、大失敗ファンブルですね。


A「難易度を下げても! 出目が低ければ意味がないんだよなあ!」


――結論から言うとそうかもしれませんが、長期的には巧くなっていると思うよ。


A「えっ、そーお?」


――はい。私がそういう提案をできるようになるまで、結構時間がかかったものです。


A「それはその、……おじさんサイドのコミュ力に問題ある気が……」


――おじさんではない。GMです。

 そしていま、ファンブルを出した上にGMの心をひどく傷つけたので、”月”の仮面を被った女性は突如として心を閉ざしてしまいましたね。


A「うっそでしょ!? そんにゃあ!」


――あれだけ親切そうだった女の人は、「食うもん食ったら、さっさとどっか言って欲しいな」みたいなオーラを出しています。


A「哀しすぎる……」


――さて、あなたはどうしますか?


A「うーん。……では、先ほど恋人ちゃんにした推理を、”月”の人の前でもします」


――先ほどの推理、というのは?


A「ええと、ここの人はみんな、タロットカードの仮面を付けていて、しかもその性格は、”逆位置”の影響を受けている、とか。そんなやつ」


――では、月の仮面を被った女の人は、「ふーん。そう。あんたがそう思うんなら、そうなんでしょうね。あんたの中ではね」みたいな感じです。


A「嘘だろ……? 突如として態度が冷たくなったじゃん」


――たぶん彼女、元々黒男みたいなタイプの男が嫌いだったんでしょう。


A「ひどい!」


――まあ、出会ってから、相手の厭なところに気づくことって、よくありますよ。


黒男「なんだか彼女、あんまり長居して欲しくなさそうだ。そろそろ行こうぜ、恋人ちゃん」


――それでは、18号室を後にする、ということでよろしいですか?


A「だって、それ以外にないんだもの。次の19号室へ向かいます」


――承知しました。


A「タロットの19番は……たしか、成功の象徴、とかだったかな? ……何かもうすでに、すごおく厭な予感がしてますが」


――さて、どうなることでしょう。


【To Be Continued】


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