第20話 太陽と悪魔
――それでは、あなたは19号室の扉を開きます。
扉はすんなりと開くことでしょう。中からは……強烈な酒の匂いがしますね。
黒男(A)「……ずいぶんと酒くせーところだな」
――黒男がぼやくと、”太陽”の面を被った酔っ払いが、ドスの利いた声で叫びました。
太陽(GM)「てやんでえべらぼうめえ! おめー、どういう了見で部屋に入ってきやがる?!」
黒男「わっ。びっくりした」
――ちなみに、この部屋にはウイスキーの瓶が散乱していますね。
太陽「なんだ、”選ばれし者”かよ。くだらねえ……。とっとと消え失せちまえ」
黒男「失せろとはまた、ご挨拶だな。ぼくだって本当は、一刻も早くここを出たいんだ。いまは情報を集めてる」
太陽「ふん。そいつはご苦労なこったな」
黒男「それで、悪いんだが何か、情報はないかい」
――もちろん、先ほどと同様の処理が必要でしょう。
A「じゃ、ダイス振ります」
――ロールプレイは?
A「この人怖いので、情報くれないならそれでいいです」
――なるほど。いいでしょう。”精神力”で判定を願いします。
難易度は”やさしい”。ファンブル以外で成功としましょう。
A「【ダイスロール:10】 ……無駄に良い出目だぁ」
――では太陽の面をつけた男は、少し上機嫌になって話し始めるでしょう。
太陽「へへへ。何か聞きてえことがあるなら、聞いてみなよ」
黒男「今度は突然態度が軟化したな……まあいい。一つ聞いて良いかい。あんたはこの場所、どういうところか知ってるか?」
太陽「どーもこーも。近所にある大学病院さ」
黒男「大学病院? ……そうなの?」
太陽「そうとも。練馬区桜台にある病院でな。俺は見ての通り、アル中で入院中って訳。他に何かあるか?」
黒男「ここを出る方法は?」
太陽「簡単さ。普通にエレベーターに乗って、普通に出口を通ってでれば言い。そんだけの話だ」
黒男「……エレベーターは、電気が通じていないけど」
太陽「それなら、とっとと諦めて窓から飛び降りるこったな」
黒男「ぼくの正体について、何か心当たりはないか?」
太陽「わかってるよ。そりゃあ、”愚者”さ。俺の前にいるのは、根っからの間抜けだからなぁ」
黒男「………………………」
――他に、何か在りますか?
黒男「それなら、最後に一つ。一足す一は、なんだい」
太陽「さあ? 百とか二百とかじゃねーか?」
黒男「よし、わかった。この部屋を出よう」
――もういいんですか?
A「ええ。時間の無駄です。この人は、嘘しか言わないようなので」
――なるほど。
A「意地悪な部屋だなあ。もし、ここまで来るまでになんのアイディアもなかったら、まんまと騙されていたかもしれない」
――では、20号室へと向かいます。
しかし20号室は、鍵が閉まっているようですね。
A「ほうほう。”審判”さんはお留守……。では、次の21号室へ」
――残念ながら、21号室も固く閉ざされています。
A「……わかりました。ではいよいよ、東側の廊下にもどって”悪魔”と対峙しましょう」
――承知いたしました。では黒男は、恋人を連れて15号室へと向かいます。
A「……たぶん”悪魔”は、まともな人のはず。扉を開けます」
――扉を開けると、ガラス張りの仕切りが見られます。
その奥に、”悪魔”の仮面を被った男が座っていました。
彼はこちらに気づくなり、嬉しそうに手を振るでしょう。
悪魔(GM)「ようこそ! ”選ばれし者”!」
黒男「……はい、どーも」
悪魔「ここまで来るのに、ずいぶんと時間が掛かったようだねえ」
黒男「ああ、まあね」
悪魔「聞いたよ。”魔術師”が毒を飲んだんだって? だが”魔術師”のやつは、あれで良かったんだと思うよ。あいつなりに、自分の人生に決着を付けたかったんだ。むしろ誇り高い死に様だと思うね」
黒男「……ずいぶんと、事情通のようだな」
悪魔「当然さ。我々は、離れていても心の底では通じ合っているからね。きみのみたものは、私が見たもの。我々は、記憶を共有する関係なのだ」
黒男「記憶を、共有……? どういうことだ? ひょっとしてぼくの正体は、”悪魔”なのかい」
悪魔「いや、それは違う。そもそもこの病院に、同じ仮面は存在していないからね」
黒男「マジか。……ってうかそれ、結構重要な情報だと思うんだけど、普通に教えてくれるんだ?」
悪魔「そりゃあもう。自分の正体を明かすかどうかは、それぞれの裁量に任されているから」
黒男「ふーむ……」
――ひとしきり話すと、”悪魔”の男はゆっくり伸びをして、
悪魔「もし、もう何もないというなら、私は眠ろうと思う。今日は少し、話し疲れたよ」
黒男「あ、ちょっとまて。……そもそもここは、どういう場所なんだ?」
悪魔「ここ? ここは、きみのイメージの中にある空間だよ?」
黒男「わおわおわお。マジかよこいつ。これまでの謎、ぜんぶ答えてくれるじゃん。エヴァの最後の映画のやつじゃん」
悪魔「まあ、信じるかどうかは、きみ次第だが」
黒男「信じる信じる! あんたは善玉だって、もうネタは割れてるんだよ! よかったー、半信半疑でこの場所に来なくて! 我ながらグッジョブ!」
悪魔「え、う、うん……」
黒男「そんじゃあもう一つ。ここを出るには、どうすりゃいい?」
悪魔「もうわかっているだろ? 1Fにいる”世界”とのゲームに勝てば良い」
黒男「ゲームの内容は?」
悪魔「それは、行ってのお楽しみだな」
黒男「なるほどなるほど……」
悪魔「ふわぁ~あ! もうそろそろいいかい? さすがに……限界だ……」
黒男「まてまてまてまて! 最後に! 最後にひとつだけ! いーでしょぉ?」
――なんか、黒男がどんどん女々しくなっているような……。
黒男「『胎児よ 胎児よ 何故躍る 母親の心がわかって おそろしいのか』……この言葉に関して、何か思い当たることは?」
悪魔「ああ。有名な一説だね。『ドグラ・マグラ』という小説の冒頭文だ」
黒男「なにそれー」
悪魔「『読むと気が狂う』。そんなふうに言われている物語だよ」
黒男「読むと、気が……?」
悪魔「考えてみればあの小説は、とある狂人の、精神の葛藤の物語であったね。いまの我々の状況と、少し似ている気がしないか?」
黒男「狂人……ぼくが? ちょっとまて、どういう意味だ」
悪魔「まあまあ、悪く思うなよ。この病院にいるのは結局ね、みんな狂人さ。きみも狂人、私も狂人」
黒男「ぼくが狂人だって、なんでわかる」
悪魔「狂人に決まってる。でなきゃ、あいつに呼ばれるわけがない。あの、千の無貌を持つ、あらゆる生命の厄介者に……」
――そこまで話して、悪魔の仮面を被った男は目をつぶり、眠りにつきました。
A「千の無貌を持つ男……? いったい何者なんでしょうか」
【To Be Continued】
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