第17話 タロットの暗示
――あなたが東側廊下の扉を開いた、その時です。
がちゃん! と音を立てて、どこかの病室の扉がしまるのに気づきました。
黒男(A)「ふにゅうううううう? ほにゅほにゅ、へにょにょ?」
――?
A「黒男は、『どの扉が閉まったか、見えたか?』と言っています」
――黒男くんの知能、ちょっと下がりすぎてませんか?
A「幼児退行ですから。ときどきこんな感じになることもあります」
――(どうしてこの娘、自ら茨の道を行くのだろう)
ええと、いずれにせよ少女は、よく見ていなかったようですね。
A「そっかぁ。……ちなみに、黒男もそうですか?」
――はい。
黒男「ふーみゅ。なんだかすっごくブキミだけど、ぼくちん廊下全体を見回しましゅ!」
――床には、上の階同様に、紙が散らばっています。
黒男「じゃ、しらべよーっと!」
――その内容は、以下のようなものでした。
『患者12番:無駄な努力を好む。
患者13番:■■■■(かすれていて読めない)
患者14番:浪費癖。ガラクタを集める。
患者15番:■■■■(かすれていて読めない)
患者16番:■■■■(かすれていて読めない)』
A「なるほどなるほど。とりま、12番と14番は”死亡”ではない、と」
――では、次にどうしますか?
A「12号室から順番に扉を開けて、開くところに入ります」
――はい。ではまず、12番の病室の扉が開くことに気づきます。
黒男「ふにゅ? いきなり開いたぞお?」
――その中には逆さづりにされている、一人の女の姿がありました。
その喉にはやはり、メスで切られた痕が残っており、息絶えているように思えます。
A「女? ……GM、確認します。死んでいるのは、間違いなく女ですか?」
――はい。
A「狂気値の増加は?」
――必要ありません。この『えんぴつTRPG』のキャラクターは、現実に生きる我々同様に、”恐怖に慣れる”という処理を行います。黒男は立て続けに死者を目の当たりにしたせいか、死体に慣れつつあるようですね。
黒男「よぉし。おしらべしましょっと!」
――では黒男は、吊された女の身体をまさぐります。
これまで同様に、持ち物を持っているわけではないようですね。
A「仮面のデザインは?」
――そうですね。……それをみたあなたは、”知力”判定。
難易度は”不可能”。9以上で成功です。
A「9以上。……ふーむ。【ダイスロール:7】 失敗」
――では、あなたはなにも気づきません。
A「気付かせるつもりのない情報でしょ、それ」
――ただまあ、男とも女ともつかない、中性的な何者かの仮面だということはわかっていいでしょう。
A「……うん、うん。それなら、辻褄はあうのかな? まだ、ちょっぴりわからないところもあるけど、だんだん謎が解けてきましたよ」
――と、いうと?
A「この病院の患者さんたちはみんな、タロットカードの暗示を受けた人々だ。……そうでしょ?」
――ふむ。
A「”魔術師”、”正義”。……ライオンの仮面はきっと、”力”のカードに描かれているやつ! 先ほど死んでいたのはきっと、”女帝”や”皇帝”たちでしょう。ここまで出そろえば、さすがのあたしでも察します」
――(おお。推理を発表する探偵役のようだ)
A「つまり、この12号室の人は、同じく12番目のタロットカード、――”吊された男”! 男じゃなくて女なのがちょっぴり引っかかりますけど、”吊された男”は、”死刑囚”とも呼ばれることもあるし! 気にしないことにします!」
――ほうほう。
A「ちなみに! タロットカードにおいて6番目に位置するのは、……”恋人”! きっとこの娘は、”恋人”の暗示を受けた人! どーお? 正解?」
――それに関してGMから申し上げられることは、何も。
A「今後、彼女のことは、『恋人ちゃん』と呼ぶこととします」
――すると恋人ちゃんは、ちょっぴり恥ずかしそうにしている気がします。
A「うふふ! では、いい子いい子してあげましょう」
――はい。
それでは二人は、吊された死体の前で、思うままイチャイチャしました。
A「……そう言われるとなんか、ものすごくインモラルな行動のように思えてきますけど……」
――次にあなたは、どうしますか?
A「そんじゃ、次の部屋を探索していきましょっか」
――はい。それでは黒男は、順番に扉を開いています。
13号室は開きませんでしたが、次の14号室は扉が開くでしょう。
A「14号室。……これはつまり、”節制”の部屋であるはず!」
――あなたが部屋に入るとそこは、これまでの病室と打って変わって、さまざまなガラクタに溢れた空間でした。
A「ガラクタ、というと?」
――不揃いのひな人形、部品の欠けたパソコン、両目に黒目の入っただるま、二十年以上前に発売された携帯電話、テープがでろでろになったビデオテープ、自立できないマネキン……そんな感じのものです。
A「ゴミ屋敷ってやつ?」
――そうですね。そんな感じです。
では、黒男はまず、”五感”で判定を。難易度は”簡単”。ファンブルでなければ成功です。
A「ちょろい! 【ダイスロール:7】」
――ではあなたは、ガラクタの山に埋もれるように、一人の女性が倒れていることに気づきます。
A「一見しただけではわからなかったんですか?」
――ええ。それだけこの部屋は、様々なガラクタで溢れているようです。
それにあなたが一瞬、女性に気づかなかったのは、彼女のその姿に関係していますね。彼女はぶくぶくに太っていて、一見ベッドのように見えたのです。
A「……いや、ベッドに見えるくらい太ってるとか、どういう体格なんですか」
――それはもう、常軌を逸した体付きなのでしょう。
A「ふーむ……」
――驚いている間も彼女は、ぶつぶつぶつぶつと、何ごとか呟いています。
太った女(GM)「あれもほしい、これもほしい……ああ! どうしてこの世には、欲しいものがなくならないの?」
――ちなみに彼女、黒男たちには見向きもしませんね。
あ、ちなみにもう、”幼児退行”現象は終わったものと考えていいです。
A「自分よりどうかしちゃってる人を見て、自然と正気を取り戻したのかも」
――かもしれませんね。
黒男「……で? あんた、何者だ?」
太った女「ああ、ほしい、ほしい、ほしい!」
黒男「おい、話聞いてる?」
太った女「何でもいいから、どうでもいいものが欲しい! ああ……次はいつになったら、ガラクタがもらえるのかしら……」
黒男「えっと……」
――どうする? という目で、”恋人”ちゃんが見ていますね。
黒男「どうもこうもな。いまのぼくに、何かあげられるものなんて、……(キャラクターシートを眺める)……あ! そーいや、一つだけ持ち物があったな。”正義”の仮面だ。真っ二つに割れて、使い物にならなくなったやつ。これ、ガラクタ扱いでいいんじゃないか?」
――はい。
そうすると目の前の太った女は顔色を変えて、巨体をにじりよせながらあなたに近づいてくるでしょう。
太った女「それ! ほしい! 何の役にも立たないゴミ! ゴミ! ほしい!」
黒男「当たりか。……だが、あんたはぼくに、何をくれるんだ?」
太った女「そ、そ、それじゃあ、役に立つもの、あげる! 役に立つもと役に立たないものの交換! これって立派な、”無駄遣い”だから……!」 フヒ! フヒヒヒヒ!」
黒男「……………………」
――そういって女性は、懐から一枚の紙切れを……。
A「ちょっとまって、GM」
――なんです?
A「GMがする”太った女”のロールプレイ、マジで怖いんで。ちょっと勘弁してもらえません?」
――えぇ?
そーお?
【To Be Continued】
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